1章~賢者の館7
「私、今からする練習を初めて見た時凄く驚いたわ。」
「アイツらが戦うのか?」
「うん、そんな感じね。あ、色々飛んでくるかもしれないけど、セラフィが障壁を張ってくれてるからこっちまでは届かないわ。安心して!」
「…おッかねェな。」
セラフィが、俺たちを囲うように魔法障壁を張った。
俺も火魔法を使って、自分を中心に半径1m程の小さな炎の円を足元に展開する。
「いつも通り、俺がこの円の外に出たら俺の負けだ。」
「わかった。」
そう言ってセラフィは俺が展開した炎の円の外側に沿うように氷を展開した。
「その氷が溶けるまで円の外に出なければカリアの勝ち。」
「あぁ。いつでも来い!」
俺の言葉を皮切りに、セラフィが氷魔法で作った氷槍を俺に向けて放ってきた。
「おら!」
俺は身体強化魔法を使い、迫り来る氷槍に拳を当てて砕いた。
しかしセラフィは間髪入れずに氷槍を放ってくる。
俺はその尽くを砕き、受け流して対処しているが、段々と氷槍の強度や速さが上がっている。
セラフィは決して手加減しているのではなく、魔法の質もコントロール出来るように練習しているそうだ。
「…すげェな。」
「すごいわよね…。私たちくらいの歳だったら、あのくらい使えるのが普通なのかしら?」
「…俺もその辺詳しくねェからわかんねェけど…アイツらと比べねェ方が良いと思うぞ。」
「確かに、そうね。」
「あらあら、仲が良いですね。」
「ア、アルマさんっ!」
ロードとラピスの後ろに、いつの間にかシスターアルマが居た。
「普通に話してるだけだろ。」
「ふふふ。そうでしたか。」
「ねぇ、アルマさん。私たちくらいの歳だったら、カリアとセラフィくらい魔法を使えるのが普通なの?」
「そんな、まさか。あの2人はかなり特殊ですよ。今の時点で賢者に選ばれてもおかしくない強さです。」
「…私って、そんな2人に魔法教わってたのね…。」
そう言ってラピスが俺とセラフィの戦いに目を向ける。セラフィは幾つもの氷槍を俺に放つのと並行して、特大の氷柱を生成していた。
「…あんなに大きいの当てられたら、カリアでも受けれないんじゃないかしら…?」
「オイオイ…。」
「きっと大丈夫ですよ、あの2人なら。」
シスターアルマは信用してくれてるな。
氷槍の雨に集中して確認できないが、足元の氷ももうすぐ溶ける頃だろう。
あれを迎え撃つには全力で身体強化魔法を使う他ない。
俺は全力で魔法を行使する。
この状態は持って数十秒だろう。
セラフィは俺が全力を出したのを確認し、特大の氷柱を放った。
氷柱の接近に合わせて、渾身の力で拳を振るう。
拳が触れたインパクトの瞬間、感覚で勝ちを確信する。それと同時に違和感も感じた。
俺の拳から放たれた力が氷柱を伝い、ひび割れ、爆散した。
「うォ…!」
「きゃっ…!」
セラフィの張った障壁のおかげで周りに被害は届かないが、爆散の勢いが強すぎたために2人を驚かせてしまったようだ。
「あ…ありがとう、ロード。」
「…あァ。」
ロードは爆風からラピスを身を呈して守るように庇っていた。
まぁ障壁のおかげで爆風も届かないけどな。
「…最後の一撃、全力じゃなくても割れた気がするな…?」
俺は感じた違和感を言葉にし、爆風で立ち上った砂埃の中にセラフィを見つけた。
俺の魔力は底を尽き、身体強化状態は解除された。
「今日も俺の勝ちみたいだな。」
「足元をよく見て。」
「え?」
足元を見ると、まだセラフィが作った氷の円が溶けかかった状態で残っている。
「…俺はいつ火魔法を解いたんだ…?」
「カリアが全力を出す少し前に解けてた。」
言いながら、セラフィは氷槍を幾つか生成する。
「俺に全力を出させて魔力切れにするために、質の悪い氷柱を作ったな…?」
「正解。今日は私の勝ち。」
「グハッ…!」
身体強化魔法を使わずにセラフィの魔法を受け切れるわけもなく、頑張って避けようとしたが顔面と胴体に氷槍を受け、呆気なく円の外に弾き飛ばされた。
「手加減…してくれよ…。」
「ごめんごめん、ちゃんと治すから。」
セラフィは障壁を解くと、飛んで行った俺に駆け寄り治療魔法を使った。
「今日はセラフィの勝ちみたいね。カリア派手に飛んでたけど大丈夫?」
ラピスとロードも様子を見に来た。
「あぁ、まぁ何とか…。」
「あ、ねぇねぇ!セラフィは治療魔法も使えるのよ!すごいでしょ!」
「…あァ。」
ラピスはロードに驚いて欲しかったみたいだが、ロードの反応はいまいちだった。
「そこら辺の治癒士よりよっぽど凄腕なんだから!」
「そゥかよ。」
「…あんまり驚かないのね。」
「…驚き疲れたんだよ。」
「あぁ…それもそうね!」
ラピスは納得したようだ。
「そろそろ大丈夫そう?」
「あぁ、ありがとうセラフィ。」
「どういたしまして。」
まぁこれセラフィに怪我させられたんだけどな。
「皆さん、ちょっといいですか?」
シスターアルマから声がかかり、視線を移すとそこにはヘスタも居た。
「これからヘスタは討竜祭の準備で、しばらく館に居ません。その間はあなたたちのご飯は自分たちでを作ってもらおうと思っているのですが、大丈夫ですか?」
大丈夫も何も、ロードが居るからむしろありがたいな…。
「え!?しばらくはロードが作った料理食べれるってこと!?」
「なんで俺が全部作ることになッてんだよ…まァいいけどよ。」
「やった!」
「シスターアルマ、こっちは大丈夫そうだよ。」
「ありがとうございます。」
「なんでヘスタが討竜祭の準備をするの?」
「よく聞いてくれたセラフィ!なんと!討竜祭で出店をやることになったんだ!」
「ヘスタが作った料理を売るの…?」
「もちろん!」
「ちなみに聞くけど、オリジナルの料理を出すの?」
「もちろん!」
「何出すか決めてんのか?」
「もち…これから決める!」
不安しかない。
「それじゃ!俺はしばらく空けるから、後のことは頼んだぞ、皆!」
そう言うや否や、走り出した…と思いきや急に止まってこちらを振り返った。
「そう言えば、お前たちも祭りに行ける歳になってたな!俺の店には絶対寄ってくれよな!じゃっ!」
今度こそ走り出したヘスタは振り返ることなく、出店の準備に向かったようだ。
「そうよ!私たちもう10歳だから、お祭りに行けるのよね!ね、アルマさん!」
「えぇ、その話もしようと思ってました。今年の討竜祭に行きたい人がいれば、私が同伴することを条件に、参加を許可します。」
「行きます!」
「もちろん、行くよな。」
「うん。」
「…1回くらいは行ッてみッか…。」
「では皆さん参加ですね。」
「やった!楽しみ〜!」
「俺とセラフィはこの館の敷地内から出たことがないから、ワクワクするな。」
セラフィは頷いて同意している。
「はァ?マジかよ…。」
「本当みたいよ?だから私がエスコートしてあげるの!」
「シスターアルマがしてくれんだろ。」
「私もするの〜!」
皆、祭りが楽しみで仕方ないといった雰囲気でその1日を終えた。
討竜祭まで、あと1週間を切った。
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