1章~賢者の館8

討竜祭が明日に迫った。


今日も今日とて魔法の練習を行った後、皆で昼ご飯を作る時間になった。




「ねぇねぇ、私たちも出店やってみたいと思わない?」


「あぁ…やってみたいけど、シスターアルマにダメだって言われそうだな。」


「そうよね〜…。ねぇロード、出店で料理を出すとしたら何にする?」


「そりャあ、揚げ物だな。」


「じゃあ今日はそれ作りましょ!で、揚げ物って何かしら?」


「知らねェのに即決かよ。」


「どうせ美味しいんでしょ?」




ここ1週間でカリアが作った料理はどれも美味しかったからな。


きっと揚げ物という物も美味しいのだろう。




「…揚げ物ッてのは、食材に衣付けて、高温の油に通して作る料理だ。」


「…衣ってなにかしら?」


「見りャわかる。」


「食材は何にするんだ?」


「肉、野菜、キノコ類、結構なんでもできるぜ。」


「ラピス、野菜もちゃんと食べようね。」


「えぇ…私はお肉だけでいいわ…。」


「ダメ。」




そんな会話をしながら、俺たちは食材を見繕った。




「じャあまずは油温めるか。その間に食材の下処理だ。」




ロードはすっかり慣れた手つきで準備を進める。


少し大きめの鍋を使って油を温めるようだ。




「ラピスは火の番だ。後で衣を作ッて持ッて来るから、それで温度を見てくれ。」


「どうやって見るの?」


「後で教える。カリアは俺と一緒に食材の下処理。セラフィは…食材を言ッた通りに切ってくれ。」


「また切る係…。」


「火の番でもいいぞ。」


「切る係やる。」


「じャあラピス、火の番頼んだぞ。後で衣持ッてくる。」


「はーい。」




部屋は同じだが、火を扱う場所と、食材を切ったり下処理する場所は少しだけ離れている。


俺たちはラピスを残し、食材の下処理に入った。




「まァ基本は洗ッたり、下味付けるだけだ。わかんねェことあッたら聞け。俺は衣を作る。」




ロードは小麦粉や卵を取り出し、その2つを混ぜたり、水を加えたりしながら衣を作っていた。分量は感でやっているみたいだが、何故だか不味くなる未来が見えない。流石ロードだ。




「ちョッとラピスに温度の見方を教えてくる。」


「おう。」




ロードは出来上がった衣を持ってラピスの方へ向かった。




「ほら、これが衣だ。」


「これが…で?どうやって温度を確認するの?」


「まだ温度は上がりきッてねェが…この液体の衣を箸で掬ッて、一雫落とすんだ。それが泡立ちながら浮いてきたら温度は十分だ。」


「…分からないけどやってみるわ。」


「まァ実際に見て、良さそうだッたら呼んでくれや。そん時確認する。」


「…いつも思うけど。」


「ァ?なんだ?」


「料理してる時のロード、すごくいい顔してる。」


「はァ?なんだそれ。」


「私その顔結構好きよ。」


「…ちャんと火の番しとけ。」




ロードは両の拳を自分の頬に当てがって、そのまま頬をグリグリしながらこちらに戻ってきた。




「…何してるんだ?」


「…んでもねェよ。」




そうして俺とロードは下処理に戻った。




「ん〜…まだ温まって無いわね。」




ラピスは油がなかなか温まらずにやきもきしていた。




「あ、蓋をしてないじゃない。えっと…あった。これで早く温まるわね。あと火加減を強くして…」




ラピスは近くにあった蓋で鍋を閉じ、料理用魔道具の火力を上げ、しばらく鍋の様子を見ていた。




「暇ね…向こうの様子を見に行きたいけど怒られそうね。」




ラピスは火の番に飽き、俺たちの様子を…いや、主にはロードを見ていた。




「私も下処理係が良かったなぁ…油が温まったらあっちに入れてもらおうかしら。ていうか、油って温まるの遅いのね?しばらく温めてるけど全然湯気も出てないし…。」




ラピスが鍋の中の様子を直接見ようとして蓋を取った。その瞬間、油から炎が燃え上がった。




「わっ…え?」




ラピスは困惑しながらも、咄嗟に魔道具の火を止めた。しかし油から出た炎は収まることは無い。




「どうしようっ…あっ水!」




ラピスは水魔法を使い水玉を生成して、その水玉を鍋の中へ投下してしまった。




「待て!ラピ───」




ボンッ─────────




俺が気付いた時にはもう遅かった。


水玉が油に触れた瞬間水玉が爆散し、それと共に飛び散った高温の油がラピスに襲いかかった。




「…ラピス!」


「…ッ!」




俺たちが駆けつけると、そこにはラピスが床に倒れており、周りから湯気が立ち上っていた。鍋からも炎が上がっている。


人間の表皮は熱に弱い。全身に高熱を浴びると、最悪死んでしまう。




「セラフィ!」


「分かってる…!」




セラフィは急いで治癒魔法をかけた。それと同時に氷魔法を使って大気を冷却し、ラピスの表皮を冷やした。


大気が冷却されたことで鍋の中身も温度が下がり、炎も収まった。




「…大丈夫なのかよ。」


「…うん、気絶してるだけ。命は助かったけど…火傷が…。」




ラピスの顔の半分が酷く赤い。


見える部分はそこだけだが、高音を浴びた服の下も恐らく同じような状態なのだろう。


セラフィの治癒魔法で火傷痕も治るかどうか…。




「ロード、ここはセラフィに任せよう。俺たちはシスターアルマを呼びに行こう。」


「…あァ。」




俺とロードはシスターアルマの部屋に向かった。

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