閑話〜人間の魔法使いとの出会い

「おや、先客が居たか。」


「俺が居るのは気付いていただろう。」


「あはは。バレてたか。雨宿りしたいんだけど、入っても良いかな?」


「構わん。」


「ありがとう。」




俺が洞窟で雨宿りをしていると、1人の人間がやって来た。


こんな森奥に人間が来るなど珍しい。ましてやドラゴンと共に雨宿りをするとは、かなり変わった人間だと思った。


その人間は、俺と向かい合うように座った。




「君は何をしてるの?」


「見ての通り雨宿りだ。」


「ドラゴンでも雨宿りするんだ。」


「そういう気分なだけだ。お前こそ何しにここへ来た?人間が来るような場所ではないはずだが。」


「南の森はドラゴンが住んでるって言われてるからね。」


「何しにここへ来たと聞いている。」


「ドラゴンを探しに来たんだよ。」




とんだ物好きも居るものだ。


あるいはドラゴンと戦いに来たのかと思ったが、戦う意思は無いようだ。




「探してどうする。」


「こうやってお話したかったんだよ。」


「…それだけか?」


「うん。変かな?」


「俺が会って来た人間の中では最も変わっている。」


「人間は嫌いかい?」


「…いや、俺としても人間と話ができて好都合だ。」


「なんだ、君も話がしたいんじゃないか。」


「特にやることもないからな。」


「普段は何をしているの?」


「…腹が減ればそれを満たし、眠くなれば寝る。偶に人間と話せる時は、このように話し相手になってもらう。それだけだ。」


「…随分退屈そうだね。」


「そう言うお前は、普段何をしているんだ?」


「私は…世界中を旅しているんだ。色んな所で知り合いや友達を作ってる。その途中でドラゴンを見つけたら、仲良くなるために話しかけたりする。」


「なぜそんなことをしている?」


「それが私の仕事というか…やりたいこと?だからだね。」


「俺が今まで会ってきた人間と一緒だな。退屈そうにしている人間に会ったことがない。」


「まぁ、そういう人はほとんど居ないね。」


「俺も人間に生まれていれば、退屈しなかったかもしれないな。」


「人間になりたいなら、人間に転生してみるかい?」


「…そんなことが可能なのか?」


「うん。最近作った魔法なんだ。」




俺は人間の魔法使いに、『人間に転生する魔法』を教えてもらった。




「この魔法で、本当に転生することができるのか?」


「うん。一応何回か試して、成功しているから大丈夫だよ。あぁ、でもその魔法を使う時は瀕死の状態で使った方がいい。成功率が格段に上がる。」


「難しいことを言うのだな。…まぁ、その時が来たら使わせてもらおう。俺が死の間際まで行くことは、当分ないと思うがな。」




まだ半信半疑だが、万が一瀕死になることがあれば使ってみようと思った。




「それはどうかな。私たち人間が、君たちドラゴンに対抗する魔法を開発していると言ったら?」


「俺たちに対抗する魔法?」


「そう。言わば対竜魔法だ。魔法障壁を貫通し、ドラゴンの身体だけを傷つける光線だ。莫大な魔力と精巧な技術が必要で、連発はできない。」


「やけに具体的な説明だな。本当にあるかのようだ。」


「信じるか信じないかは、君に任せるよ。」


「防ぎ方も教えてくれると助かる。」


「対竜魔法は貫通力がないから、土魔法で壁を作れば簡単に防げるよ。こんな風にね。」




人間の魔法使いは、ただ土を盛り上がらせただけの土壁を作った。




「土魔法か…練習しておこう。」


「…本当に信じるのかい?『人間に転生する魔法』も『対竜魔法』も、実際に見せてないのに。」


「俺はそう言う魔法があると信じた方が、今より幾分楽しいと感じるだけだ。」


「…君のようなドラゴンが居てくれて、良かったよ。」




人間の魔法使いは立上り、洞窟の出口へ向かった。




「まだ雨は止んでないぞ。」


「もうすぐ止みそうだから、私は行くよ。やらなきゃいけないことがあるからね。」


「そうか。」


「じゃあね、赤竜。君と話せて嬉しかったよ。人間に転生したら、また会おう。」




そう言って、人間の魔法使いは洞窟から出て行った。


人間に転生したらまた会おう、か。




「少し、真面目に考えてみるか。」




俺はそのまま眠りに就き、自分が人間になった世界を夢に見ながら、雨が止むのを待った。

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