1章~白黒の番14

「黒竜。外に居る二人をここ入れるけど、いいわね?」


「…青竜なら兎も角、もう一人の人間もここに入れるのか?」


「えぇ、そうよ?それと、青竜じゃなくてセラフィって呼びなさい。」


「…白竜、人間を恨んでおらんのか?」


「恨んでないわ。」


「何故だ。お主をそんな状態にしたのは、他でもない人間だろう。」


「それはそうだけど、私が人間を恨む理由にはならないわ。」


「…お主は人間に甘すぎるのだ!そんなことだから人間が付け上がる!挙句このザマだ!お主が許そうとも、ワシは許さん!…ここに人間を入れるのは反対だ。」


「別に良いじゃない。ちょっと話をするだけよ?」


「お主の身を案じて反対しているのだ!…何故わからんのだ。」


「あら、私のことを心配してくれてるの?もしかして、そんなに怒ってるのも私のためなのかしら?」


「な…いや…同胞として当然の感情だ。」


「それにしては白竜を贔屓にしているように見えるな、黒竜。セラフィも人間に殺されたのに、ほとんど話題に挙がってないぞ?」


「そ…それは…。」


「なぁ白竜。お前たちは番では無いのか?」


「…えぇ。番では無いけれど…黒竜。もう話しても良いわね?」


「…好きにしろ。」


「ふふ。カリア、外に居る二人を連れて来てくれるかしら?どうせなら、みんなの前で話したいわ。」


「待て白竜。人間をここに入れることを許可したわけではないぞ。」


「黒竜、お願いよ。カリアの友達は、悪い人じゃないわ。」


「いやしかし…。」


「白竜。アリウスを知ってるのか?」


「えぇ。ミリィの娘だと思ってるけど、合ってるかしら?」


「その通りだ。アリウスは母親の…ミリィのことを知りたくて、ここまで来たんだ。」


「やっぱり!…あの子の娘と話せる日が来るなんて、思ってもみなかったわ。…黒竜、私が生きてる内に言える数少ないわがままなの。許してくれないかしら?」


「…はぁ。勝手にしろ。」


「ありがとう!それじゃあカリア、二人を迎えに行ってくれるかしら?セラフィは結界の改ざんが終わって、中に入って来てるみたいだから。」


「あ…うん。わかった。」




まさか、こんなにあっさり黒竜の許可を取れるとは…。本当に白竜が起きてくれて助かった。




「一応、改めて言っておくけど、アリウスは俺たちの正体を知らないんだ。だから、そのことについてはあまり触れないようにして欲しい。」


「えぇ、わかってるわ。」




俺は白竜に確認を取った後、踵を返してセラフィの魔力を感じる方向へと走って行った。




────────────────────────




「…黒竜。わがままを聞いてくれてありがとう。」


「あんなことを言われては、許さんわけには行かんだろう。卑怯な言い方だ。」


「あぁでも言わないと、許してくれないでしょう?」


「良く言う。ワシの許しなど無くとも、ここに連れて来ておっただろうに。」


「…だって、あなたにも人間と仲良くなって欲しいもの。カリアとセラフィの友達なら、きっとあなたも仲良くなれるわ。」


「人間と仲良くする気など無い。」


「もう…。そんな態度だから仲良くなれないのよ?私たちドラゴンに接するのと同じように、人間と接することはできないのかしら?」


「ワシらドラゴンと人間とでは格が違いすぎる。脆弱で短命な人間と対等に接するなど、できるわけがなかろう。」


「確かに、力量で言えば、私たちドラゴンに軍配が上がるわ。生きている時間も、人間の比じゃない。でも、それだけで人間を測るのは早計よ。」


「…他に、人間を測るものがあると?」


「えぇ。それは成長の早さよ。」


「成長の早さ?成体になる早さで言えば、ワシらドラゴンとそう変わらんではないか。」


「身体の成長じゃなくて、精神の成長のことを言ってるの。」


「…はっ。それこそワシらに遠く及ばんではないか。ワシらの方が長く生きる分、経験の差は広がる一方だ。」


「長く生きただけの経験に価値は無いわ。他者と接して来なかったあなたは特に、ね。」


「…ワシの精神が、人間より未熟だとでも言いたいのか?」


「そうね。少なくとも、普通の成人の精神よりも未熟だと思うわ。」


「何故、そう言い切れる。」


「人間の数が多いということは、あなたも知っているでしょう?数が多いということは、それだけ様々な人がいると言うこと。そんな人間社会で育つということは、様々な他者と生活を共にすると言うことなの。人間はその中で、自分が他者にされて嫌なことや嬉しいこと。自分が嫌いなものや好きなものを知ることができるの。当然、生きていく中で過ちを犯すこともあるでしょう。でもそれを反省したり、改善したりすることで、自分という個を確立していくことができるの。自分のことを知れる機会も、省みる機会も多い人間の精神の成長は、私たちドラゴンより何倍も早いのよ。」


「…そんなことは無い。」


「じゃあ、あなたはどうして私との関係を口外しないよう、私に口止めしたのかしら?」


「…他のドラゴンに知られたくなかったからだ。」


「その理由を聞いてるの。」


「…わからん。」 


「そうでしょう?自分のことすらわかってないあなたの精神は、まだ幼稚だと言う証拠よ。…私はあなたに、それを理解して欲しいから、人間と仲良くなって欲しいの。」


「それを…理解してどうなると言うのだ。」


「あなたが人間を嫌悪する感情に、区切りを付けることができるわ。…それと、私が死んだ後も、きっと前を向いて生きて行けるようになるわ。」


「そんなこと…できわけが…。」


「黒竜。私を信じて、人間と向き合ってみて。カリアやセラフィ、アリウスがここに来るなんて、またと無い機会よ?だから私はこうして起きて来たの。」


「…。」




────────────────────────




「あ、カリアが近づいて来てる。」


「ほんと?私たちが入って来たって気付いたのかな?」


「うん、多分そう。黒竜も落ち着いてるみたいだし、白竜の魔力も少し復活してる。カリアが話しを着けてくれたみたい。」


「…すごいわね。これからドラゴンと話ができると思うと…緊張して来ちゃった。」


「大丈夫。私もカリアもついてる。」


「…うん。」


「おーい!二人とも!」


「あ、カリア!…どうしたの?服がボロボロじゃない?」


「ん?あぁ…黒竜の咆哮魔法をまともに受けたからかな。」


「…え?大丈夫…なのよね?」


「見ての通り問題ない。それより、白竜と黒竜のところに案内するよ。白竜もアリウスと話がしたいみたいだ。」




俺はセラフィとアリウスに合流して、白竜と黒竜の現状を話しながら、歩いて草原へと向かった。




「…そう。それじゃあ白竜は長く生きられないということ?」


「うん…どうにか助けることができれば良いんだけどな。」


「私も考えてみる。」


「あぁ、頼む。」


「…あ、あれが白竜と黒竜…?」




ちょうど説明を終えた頃、俺たちは草原に辿り着いた。




「そうだ。」


「お…大きいわね。」


「そうだね。」


「怖がらなくても大丈夫だぞ、アリウス。俺も少し話してみたけど、白竜は人間に友好的だし、黒竜は大人しくしてるみたいだから。」


「う…うん。」




俺は白竜と黒竜の元へ、セラフィとアリウスを連れて行った。




「こんにちは。…あなたがアリウスね?」


「あ、はい!初めまして!アリウスと…申します。」


「そんなに固くならなくて大丈夫よ。話し方も、もっと砕けた方が私としても話しやすいわ。」


「あ…えと…。頑張りま…頑張る。」


「ふふ。魔力はミリィにそっくりだけど、随分上品な雰囲気に育ったわね。ここまで来てくれて嬉しいわ。」


「私も…白竜さんと話せて、嬉しい…。」




アリウスはまだ緊張が抜けないようだ。




「…私はセラフィ。初めまして。」


「あら、あなたがセラフィね?私の結界を改ざんできるなんて、かなり魔法が得意みたいね?」


「そうでしょ?」


「ふふふ。相変わらず──────」


「白竜。さっきの話の続きを聞かせてくれ。」


「あ…えぇそうだったわね。黒竜との関係の話だったわね。」




危うく旧知であることをほのめかしそうになったが、俺が咄嗟に話題を切り替え、白竜と黒竜の話を聞く運びとなった。

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