第10話 和解と誓い
着地しながら魔眼布の位置を元に戻したアウルに、カレハは小走りで近づく。
「良くやったわね。というか、アンタどうやってアイツを止めたの?見たところ、目隠しを下げたようにしか見えないんだけど……」
「まあ、これは俺のスキルがたまたま上手くいったって話だ。ここを使うスキルなんだよ」
そう、上手く嵌っただけの話だ。男は無意識の本能に任せて暴れる、といっていた。
それがどうしたのかというと、巨人は無意識の状態だった。そこに、アウルの眼力という根源的な恐怖を動きを止めさせて目線を合わせることによって強制的に押し付けたのだ。無意識に、つまりは本能に恐怖を刷り込まれた巨人は恐怖の根源──つまりはアウルから逃れるために身体の一切の動きを止めた、というのが今の流れ。アウル自身こんな綺麗に決まると思っていなかったし、そもそも本能に恐怖をすり込むことができるかなどこの世界で誰もやっていないことなのでわかるわけがなく、だいぶ大博打ではあったのだ。安堵しつつ、そういうことをかいつまんで説明する。終わると、半眼でじっとりと見ながらカレハがこちらに言った。
「アンタのその布の下、本当に気になるわね……。スキルも謎だし」
「カレハは一回見てるんだけどな。ま、覚えていないのもしょうがないことだ。俺のスキルについてはまあおいおいその時が来たらと説明しとく」
そういけしゃあしゃあと後回しにした──つまりは言いたくないことを言わないアウルに、カレハは何か思うことがあるようで、指をさして言い放つ。
「そうよ。今ので思い出したわ。有耶無耶になってたけれど、アンタ、アタシの名前どうやって知ったの?自分で言うのも何だけど、アタシは田舎出身のただの平民よ。そんなアタシの名前を知っているってことは、前から知っていたってこと以外ありえなくない?」
そういえば未だにその説明をするのも忘れていたらしい。スキルの説明にも結局繋がってしまうため、先延ばしにしたことをもう一度説明するだけになったアウルは、頬をポリポリとかきつつ言う。
「ああ。それはだな、俺の魔法だ。俺のスキルは眼の強化とそれに関する魔法が使えるようになるんだ。その中に、【看破】っていうもんがあるんだ。それを使って他人を見ると、その他人の簡単なステータス、そして名前がわかる」
「なるほどね。だから、アタシの身体能力を最初から頼りにしていた様子だったのね。そんな便利な魔法、持ってたらアタシも使っちゃうわ」
「勝手に覗いたのは謝る、すまん」
一応ステータスにコンプレックスを持っている可能性もないこともないので、平謝りしたアウル。そんな彼に、言葉が降ってくる。
「それで?」
「それでって、何だ?」
「アンタの名前よ。アタシの名前を視ておいて、自分の名前を名乗らないなんて、だいぶ不義理じゃないかしら?」
「なるほど。たしかにそうだ」
カレハの言は最もであり、そういえばそうだとアウルは気付かされた。不敵な笑みで、名乗りを上げる。
「俺の名前はアウル・リヴァーネム。ちっとばかしスキルが特殊な、凡百の凡人だ」
「アンタが凡百なら他の人は何だっていうのよ……」
呆れたように呟くカレハに、少し笑みが漏れたアウル。塔の中は、一時的な静寂で満ちていた。たまに通り抜ける風は二人の髪を揺らし、しばしここが塔の中であるということを忘れてしまいそうだ。
「まあ、それは置いといて、だ。お前はこの後どうするんだ?」
「アンタはかなり信用のおける性格だってわかった。アタシとしてはこのままパーティを組んだままにしてもいいわよ?戦闘も時間稼ぎに使われたとはいえ、相性は悪くない感じだったしね」
快活に口を開けて笑う彼女。その笑顔はまるで飾り気がないからこそとても映え、一瞬の間、眼を奪われてしまった。アウルはすぐに正気に戻り、疑うように言う。
「……そんな簡単に信用して良いのか?もしかしたら、お前だけを戦わせるイカれた野郎かも知れないぞ?」
「アタシがボロボロになったときに一緒に逃げる、なんて心根が優しいやつしかしないわよ。ヤバイ奴ならあそこでアタシを放置して自分だけ逃げるわ」
「そんなもんかな」
何かとうまい話のようで、少し疑い深くなってしまう。しかしそれすら歯牙にもかけず、彼女は微笑みながら滔々と語ってくれた。
「そんなもんでいいのよ。それに、アンタがもしアタシを裏切るような真似をしたら、ブチのめした後後悔したって言うまで殴り続けてやるわ。」
「ハハ、そりゃできねえわ。ま、俺としてもパーティを組み続けられるならそれで文句は──
「危ないッ!?」
刹那、紫電が瞬く間に空間を埋め尽くしたのだった。
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