第17話 彼女の実力はいかに
その顔を、紅蓮の怒りに染め上げた奴の姿を見て、驚きを隠せない。思わず、独りごちてしまった。
「まだ生きてるのか!?思ったよりもしぶといな」
「さっさととどめを刺しましょう。さっきの様子を見たところ私の方しか魔術攻撃ができなさそうなので、あなたはそこで見ててください」
「……その言い方、嫌だな。俺は確かに魔法…じゃない、魔術攻撃は持ってない。だけどな、【情報付与】対象:目の前の彼女 効果:魔術威力増強、魔力回復速度増加」
肩に手をおいた。その瞬間、彼女の小さな身体に光の粒が数多まとわりつく。それはまるで蛍雪のように淡く、そして泡沫のようにすぐに消えていってはまた現れている。他の生物に情報を付与すると、こうなるということは入学する前に実験して観察済みなのだが、それでも少し見入ってしまうほどの儚さだ。光粒に纏わられている彼女は、その透き通った眼を見開いて顔を驚愕に染めている。
「あなた……支援魔法術の使い手なのですか?」
「ま、バフも、使えるんだ」
も、の部分を強調しながら、笑みを浮かべて自慢するユウセイに、彼女は初めて笑みを見せた。その笑みは、これから戦場に行くものとは思えないほど眩しく、彼女の矮躯に見合って可愛らしかった。
「ありがとうございます。じゃあ、行ってきますね」
「早くしてくれ、魔力の消費がひどいから」
「相変わらず一言多いですね!
彼女が威勢よく快哉の声として魔術名を叫ぶ。その声に対抗したのかは分からないが、よろめきつつも立ち上がったキマイラが、森を揺るがす大音声を放つ。しかし、どれだけ行っても音は音。栗色の髪を揺らす彼女が放つおびただしい数の光弾は気にも留めずに驀進、直撃し周りの木々ごと破壊を撒き散らした。
「ガアアアッ!?」
「
連打、連打、連打。ユウセイと、彼女自身の魔力を犠牲に、もはや感動的なまでの弾幕が射出されていく。その光量は顔をそらさなければならないほどで、いかに彼女の魔力と才能が強いかが分かる。あんな間隔で放つのなら、魔力消費も馬鹿にならないだろう。魔力回復速度増加もおまけして正解だったと微苦笑するユウセイとは対照に、キマイラは避けきれるはずもない光の槍衾に、苦悶の表情を浮かべて、喀血していく。まさにズタボロという擬態語が似合う有り様だ。
「これで終わりです、
最後と通告した刹那、これまでの光弾とは一線を画す光量の弾が、彼女の眼前に降臨する。ユウセイは瞬きを一つした。そして眼の前には、腹のあたりに大穴を開けた肉塊と、その向こうに見える同じくぽっかりとドーナツのようにくり抜かれた木々が、自分に起こったことを理解しないままにくずおれる光景が広がった。
あの巨大な光弾がこの光景を作り出したということは想像に難くない。多分あのまま発射され、延長線上にあった障害物ごと──もちろんキマイラの身体もだ──を貫いていったのだろう。彼女は魔力消費の反動のごとく、一息ついて言った。
「ふう。流石に支援魔法術があるとはいえ、こうも連続で魔法術を使うと疲れますね……」
「あ、ああ。倒した……んだよな?」
日本ではありえない、物理法則を無視した魔術による現実的ではない光景のせいで、ユウセイは疑問形で倒したことを確認する。少し気が動転したのも理由の一つだ。
「何で疑問形なんですか……。これで死んでないとでも?」
「あ、いや、そうじゃなくて。お前が、思ったよりもやり手だった事に驚いているというか。お前の魔術が思ったよりもえげつないというか」
「フン、見直したということですか。それ自体はありがたいです」
なんか、慇懃無礼で丁寧な口調かと思いきや毒舌なのだが、チョロそうな雰囲気が出ているのが微笑ましい。先程までの不安が小動物のような彼女によって霧消したのは気づいていないユウセイなのであった。
「支援魔法術も、ありがとうございます。無ければかなりキツイ戦いになってたでしょう」
「俺はバフかけて魔力減ったせいでキツイけどな」
「……」
ユウセイが先程の意趣返しのように皮肉を言うと、黙ってしまった。ユウセイはこれ以上話を妨げないために、すまん、と謝る。と、もういいと言うように大きな、それはとても大きなため息をつき、彼女は言う。
「あなたのその態度はもういいです。突っ込むだけ無駄だって分かりました。それで──」
言い切られる前に、横からの大音響の叫びがそれを妨害した。
「グルルラアアッ!!」
「って、生きてるじゃん!?」
二人が同時にそちらの方を向くと、尾のヘビがしなだれているだけの、ほとんど元通りのキマイラの姿がそこにはあった。
「っチ、流石は魔獣と言ったところですね……!」
「スキルで耐えられたってことかよ」
彼女が明確に舌打ちをして、その怒りと苛立ちがはっきりと端正な顔に浮かぶ。まあ、ユウセイもほぼ同じような気分だ。またフラグを立てて、キレイに回収しているので、尚更何とも言えない気分にさせられる。
「こんどは俺も役に立つ!」
そう言って、木の棒を一本手に取るユウセイなのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます