第22話 決戦、麒麟
「カレハ!動きを止められるか!」
「さっきのデカい男を止めた時みたいな感じ?」
「まさしくそれだ。一旦、俺の眼力を叩き込んでみる。それで倒せなかったらもう逃げるしかない」
「了解。なるべく早く準備しなさいよ、前で戦うこっちも消耗してキツイから」
もちろんだ、と言わんばかりに首肯した。カレハは今度は正面から自身が近づくようだ。後ろにした左足に力を貯めて、一気に解き放つ。それはあたかも、獣が一気に距離を詰めるときの飛びかかりのように。だが、その吶喊も虚しく避けられる。そう誰もが想像するほど彼我の実力差は隔絶していた、しかし。
「──!?」
「アンタの動きは意外と単調よね。それなら、予測するのも簡単だわ」
左右に大きく突き出た枝をうまく使い、後ろにしか後退させないようにしたのだ。カレハの回し蹴りが遠心力を伴いながら雷撃の悍馬に衝突した。バチ!という異音が、奴の雷霆によるバリアにしっかりと着弾したということを物語っている。
麒麟はさも煩わしそうに鼻息を一つ。そのまま正面にいるカレハに向かって突撃、蹄を振り上げる。それを寸前で感知したカレハは、回し蹴りによって振り抜いていた足をそのまま回して、下から円月蹴……サマーソルトキックを決めにかかる。
「ああああッ!」
またしても鈍い音がなり、衝撃でカレハ麒麟ともども距離を強制的に開けられる。今度は軽く電流が流れる音に加え、何か硬いものと人体がぶつかる音であった。その音と手応えから、カレハは感づく。
「アンタ……、蹄の部分はそのビリビリするやつがないのね」
「だが、蹄の部分だけを攻撃してもあまり意味はないぞ、カレハ」
ただ徒に体力を消耗してしまうことは避けたい。そう言外に伝えるとカレハは、上等、とニヤリと微笑った。
また刹那のうちに両者が肉薄し、激突を再開する。カレハに迫る紫電は、何ともなさそうに首を振ることで顔の数ミリ横を通り抜けていく。固く握りしめられた拳は、一直線に雷電の壁に突き刺さる。
しかしバチリと弾き返され、後退せざるを得ない。麒麟が近づくために疾駆、後ろに下がってしまったカレハへと迫る。カレハは振り抜かれた足の一撃を捻って回避。地面をゴロゴロと転がり、その勢いで立ち上がる。
刹那、麒麟の巨体がカレハの前に躍り出る。そしてそのまま、致死の突貫が彼女を暴虐する。だがしかし、それをしなる枝をつかんで身体を宙に浮かせることでやり過ごし、そのまま後ろへと着地したカレハ。
そして、掴む。尻尾の先端を。
「やっと尻尾掴ませてくれたわね!」
「──ナイス、その一瞬が欲しかったんだ」
「キュアアッ!?」
地面を蹴りつけ、高く高く跳躍するアウルにさしもの麒麟も驚かざるを得なかったようだ。そのまま魔眼布を勢いよく下げ、誰に聞かせるでもない宣言のように言い放つ。
「こっちを見やがれ!」
「キュウウウアアアアアッ!!」
無理矢理に視線を強制する方法に、麒麟も目線を合わせざるを得ない。
だがしかし、外気に晒されているアウルの眼と合うその直前の瞬間、麒麟は今までで一番の大きさで吠えた。まるで、舐めるなと言わんばかりに。
その空気を存分に震わす響きに怖気が二人の背中を走る。カレハが咄嗟に後ろにバックステップで距離を取った眼前を、紫電が埋め尽くした。全方向に散らされた雷はそびえ立つ壁として麒麟と空中にいるアウルの間も遮りつつ、光速で迫りくる。
「こいつは、無理だ」
諦めたような微笑を浮かべ、ふっと目を伏せる。その瞬間、何故か耳に雷鳴ではなく、彼女の声が届いた。
「……──アウル!」
刹那、気づく。”彼女”ではないとわかっているのに、何故か彼女の顔が脳内で笑っている。
そうだ。こんな場所で、俺は。────負けてられない。
「──俺は、彼女に会うんだ!死んでたまるか!」
迫りくる雷撃の壁を目をつぶったまま通過する。触れた瞬間、全身を焼け付くような痛みが走り抜ける。……だが、それだけだ。死にはしない、幸運でもなんでも良い。
「──!?」
その行動は麒麟にとっても驚きなのだろう。奴はその
カレハは一瞬で距離を零にし、そのキツく握った拳を叩きつける!
「キュアアアアアアアアアアアアッ!?」
出会ってから一番の悲鳴をあげ、麒麟は大きく身悶えた。どうやら先の全方位紫電攻撃は、自身のバリアを犠牲にしたものだったらしい。カレハの一撃はすんなりと通され、そして大きなダメージを与えたのだろう。カレハの攻撃は休まることを知らない。
蹴り、手刀、拳骨、蹴手繰り。カレハの極めた身体能力が、麒麟の人外の巨体を破壊していく。トドメとばかりに飛び蹴りを華麗に決められ、麒麟の紺碧の身体が吹き飛んだ。吹き飛ばした当のカレハは、すぐさまこちらに駆け寄ってくる。
「大丈夫かしら」
「なんとかな……、だいぶ辛いが、死ぬほどじゃない。俺にはまだやることがあるって、お前のお陰で気づけた」
「無事なら良かったわ、立てる?」
全身の筋肉が未だに軽く痺れていて、うまく動きにくい。だが、本来の役目もあまり動く質ではない。ならば、支障などないだろう。服についた土埃を手で払いながら、立ち上がってカレハに言葉を返す。
「もちろん。お前こそ、まだ行けるよな」
そう不敵に問うと、返ってきたのは頼もしい眼差しだった。まさに、誰にものを行っているの、と言わんばかりの。
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