第27話 始まる乱闘
「フッッ!」
「グウ……見事」
ドサリ、と男が膝をついたのを見届けて、ユウセイは大きめのため息を一つ投げ捨てた。
これは戦闘による疲労なのか、それとも────。
エディアとパーティを組んでからはや4時間ほど。多分行われているバトルロワイヤル的な決闘もそろそろ佳境に入ってきた頃合いだろう。現に、学院証を取り出してポイントの欄を確認してみると、もう2000ポイント前後までに達している。〈ヴータリティット〉の討伐報酬のポイントを除けば、15、6人は倒している計算だ。
後ろから、エディアが同じように学院証を覗き込んでくる。その横顔は、ポイントが溜まってきているというのにあまり浮かない顔で、何かを悩んでいるようにも見えた。
「やはり、これくらいの時間となると強い相手が多いですね。強い相手なら奪うという感じではないのでいいんですけど、そうではないと……」
「まだ言うか、それ。なるたけ相手の実力を鑑みて、弱そうなやつは襲わないか返り討ちにしてるだろ?」
「そうなんですけど、それはそれとして私の心構えが」
やはりエディアは優しいという言葉ですら生ぬるいほど、すべてを背負い込みたい気持ちが大きいのだろう。彼女のそんな反応を見て、将来を憂うユウセイ。
そんなことを会話しているときにふと、学院証からピロン、と電子音じみた音がなった。聞き馴染みの音に、ユウセイは眼をチラリと向ける。
そこには。
「なんだなんだ」
「えーと、今回の決闘も終盤です、残り3組になりました……?」
「残り1組になることで今回の決闘は終了です、とな」
「もうそんな時間……というよりかは皆が早く戦いを進めていたからか?」
「そうですね、あの人数でこの速さは、皆が躍起になってポイントを集めていたのでしょう」
自分の学院証をためつすがめつしながら、ユウセイは今後の方針について考える。
「残り3組、俺達を除けば2組いる。なら、互いに潰し合ってくれたほうが俺達にとっては得だ」
「そうですね」
「だから、ある程度近づいて様子を見守りつつ、どっちかが倒れたら消耗しているところを襲おう」
「でも、いいんでしょうか」
「あー、正々堂々的な?俺はあんまりそういうのに頓着しないからな」
「そういう陰湿なの、嫌われますよ」
「そこまで言うかなあ!?」
頓着しない、と言っているのになぜかエディア翻訳では闇討ちの類を好んでいると聞こえるらしい、病院案件かも知れない。ユウセイは思わず大声で突っ込んでしまう。
────それが仇となるのも知らずに。
「あら、そんな戦場の中だというのに大声を出して、警戒もへったくれもないですわね」
「ッ!?」
ガサガサと茂みが無遠慮に鳴り、そこから3人組が現れた。先頭は長身の女だ。その桃色の髪で2つの房を作っている、いわゆるツインテールの髪型に薄灰色の瞳を持ち、その顔は嘲りの色がありありと浮かんでいた。後ろにはひょろりとした痩せぎすのメガネ男と、筋骨隆々のガタイの良い男がまるで家臣のように控えており、多分コイツらが残り3組のうち1組であろう。
(まずった、ここで俺達の方に来るとは……)
ユウセイが内心で苦虫を噛み潰していると、彼女が更に煽りの言葉を紡いでいく。
それに触発されたエディアも、眼を爛々と輝かせていた。
「どうやら、ここまで生き残ったのは運だけのように感じますわね」
「初対面のくせになかなか言ってくれるじゃないですか」
「事実でなくって?それなら、ワタクシ達が試してあげましょう……その実力の程をね!やって上げなさい、モオト、ボーゲック!」
指揮官のように彼女が手を前に翳し、後ろのモオトとボーゲックと呼ばれた男連中が弾かれるように駆け出す。その様子を見てユウセイはいつでも【情報付与】できるように構え、エディアも魔力の巡りを速くさせた。
そのまま魔力を放出、この数時間でもはや見慣れたエディアの魔法が放たれる。
「【
閃く弾丸が走り迫る二人組の男に、直撃する。しかしガキン、という音。明らかに肉体に当たった音ではないだろう。
立ち込める土煙が晴れると、諸手を伸ばして淡く輝く半透明の板を展開しているメガネ男が見えた。
エディアが歯噛みして、ユウセイが感嘆の声を漏らす。
「バリア……っ!」
「この僕のバリアはすべてを防ぐのです、ナーハッハッハ!」
嫌に耳につく高笑いとともに、バリアを展開しながら突撃してくる。
近づいてくるということは相手は近接攻撃を用いるのだろう、隣に筋骨隆々の大男もいるし。
ユウセイは瞬間でその判断を下し、魔力を放出する。
「【情報付与】対象:ユウセイ・シナノガワ 効果:筋力増強!」
「へへ、オデの攻撃を喰らうべ!」
その巨体に見合う、ゆったりとした口調の大音声が快哉を叫ぶ。
バリアの後ろから飛び出し、その拳が振り抜かれた瞬間、何かが飛来した。ユウセイはそれを打ち返さんと【情報付与】によって強化した拳で迎撃する。だがその行動は命取りである、というように巨体の男がニヤリと嗤った。拳と飛んできた紫の塊が触れた瞬間、バシャと弾け、紫がユウセイの手を覆った。
走る、焼け付く痛み。
まさか。
「毒……ッ!?」
「へへ、オデの毒でジワジワ苦しむべ」
「姑息な手を!」
(コイツら……能力普通逆じゃね?)
呑気にもユウセイはそんなことを思ってしまった。しかし純粋にバリアと毒の組み合わせは強いだろう。毒を浴びせて、バリアで耐久する。時間はかかるけども、ここまで生き残ったのも頷けるコンボだ。この二人を従えているあの女はどれほどの強いのだと、戦慄を禁じえない。
「ホホホ、いいですわよ、モオト、ボーゲック。そのまま嬲り殺して上げなさい」
「「イエス、マイレディー!」」
「クソ、強い……伊達にここまで勝ち残っているだけあるな」
「とりあえず、私に強化もらえますか」
「いいけど、あんまり無駄遣いすんな────
そう言い切ろうとした瞬間。ちゅどーーーん!!!と、隕石が降ってきたかのような轟音と衝撃波が、辺り一帯をまとめて吹き飛ばした。
「面白そうな奴らネ。相手にとって不足なし、ヨ」
尋常ではない土埃の中から、可憐な声が、不吉に響くのだった。
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