第28話 変わる乱闘
もはや霧のように空間を支配していた土埃が風によって吹き散らされ、視界がクリアになった。
ユウセイがそこで見たのは、クレーターとその中心に鎮座する二人組の男女だった。
男の方は特筆することもない、言ってしまえば平凡な顔と体をしている。しかし女の方は、この世界なら奇妙な風貌をしていた。黒主体の装束は身体全体を覆っており、静音性と隠蔽性に長けた衣装なのだ、本来は。しかし彼女のそれは、所々、肩口や太腿に眩しい肌が見えていて、隠れる気がサラサラないのだろうか。
彼女の身にまとっている衣装こそユウセイの世界で言うところの忍者……女性であるからくノ一であろうか、の服装だった。その顔はモデルかと見紛うほどに整っていて、これもまた隠密行動に全く剥いていなさそうな金髪をハーフアップでまとめている。
「アラ、これくらいで吹っ飛ぶのネ。もしかして加減を間違えちゃったかしラ?」
「アハハ、違うよルイズ。君は自分が思う以上に強いんだ」
彼女が何の気もなさそうに語尾の上がった言葉で喋ると、男のほうがそれに答えた。
ユウセイはそんな様子を見て、先ほど起きた大爆発は彼女が起こしたことであることを察した。
エディアがその矮躯を一歩前に出す。戦いの邪魔に入ったことにキレているのだろうか。
「あなた達、一体何なんですか?私達を吹き飛ばした理由とは……」
「そうだワ。アイサツを忘れていたわね。シノビたるもの、礼儀はしっかりしないとネ。私の名前はルイズ・ミシシッピ。学院の中なら、こういった方が伝わるかしらね。────第4位、”
「え、あのノーワン!?」
「どうした、女。知っているのか?」
「知っているも何も、超有名人よ。この人は、カムフトーム魔塔学院史上最速で”
「さっき第4位って言ってましたわよね、まさか……」
「マ、気づいたらこの位置にいただけなんだけド」
「なんでそんなすごい人がこんなところに来るんですか?」
エディアが再び疑問を投げかけると、ルイズと名乗った彼女は微笑んで答えた。
「純粋に興味ヨ。私がいた去年の新入生と今年の新入生、どちらが強いのか知りたかったノ」
「俺からも質問いいか?」
「どうゾ、これから戦う相手のことを知ることは悪くないからネ」
ルイズが快諾したのを受けて、ユウセイは彼女の奇妙な姿について質問をする。もちろん日本人としてのツッコみたさも有るが、忍者を知っているということは同じ転生ないしは転移者かも知れないという考えだ。
「その服、忍者の忍装束か?」
「────」
「ル、ルイズ……」
ユウセイのその一言を聞いて、ルイズは沈黙を返すだけ。いや、よく見るとわなわなと震えている。なにか不快にさせてしまったのだろうか。ユウセイを不安にさせる沈黙を破ったのは、ガバっと顔を起こして眼を輝かせている──これは多分スキルによるものではないだろう──ルイズだった。
「我が盟友……」
「は?」
「アナタ!ニンジャを知ってるのネ!?」
「あ、ああ」
「ということはもしかしなくてモ……」
「転移者だよ。日本からのな」
「やっぱリー!!」
ガシッと肩を掴まれ、そのまま前後にブンブンと揺さぶられる。どうやら彼女も予想通り転移者なのだろう。ルイズはそのまま眼を輝かせたまま、そして後ろにいた男は苦笑したままユウセイに衝撃の問を訊く。
「アナタ、私のパーティに入らない?」
「はっ?」
「何なんですか、いきなりやってきてそのセリフは!?」
「アラ、アナタが盟友のパーティメンバーかしら?見たところ転移者じゃなさそうだけド……」
なぜかルイズはユウセイのパーティメンバーは転移者であると決めつけているらしい。エディアからすれば、いきなりパーティメンバーが意味不明な論理で引き抜きされそうになっているのだ。顔を真っ赤にして、ルイズの方に詰め寄る。
「貴女、さっきから何を言ってるんですか!?たとえ学院第4位でも、そんな狼藉許されると思ってるんです?」
「許されるも何モ、本人がいいならいいじゃなイ。ね、盟友?」
「……言いづらいんだが、断らせてもらう」
「へっ?」
ユウセイが断りの言葉を告げると、まるで神に裏切られた信者のような顔をして、固まってしまった。
「いや、日本人の義理敵にな?先に組んでたコイツをほっておく訳には行かないんだ」
「ユウセイさん……」
「そういうわけで、移籍は遠慮させてもらうぜ」
ユウセイがはにかみながら告げる。さすがにエディアの前で言うのはさすがに恥ずかしいだろう。しかし決意は確かなのだ。それはルイズに伝わったようで、暫しの沈黙の後、捻り出すように彼女は言葉を紡ぐ。
「…………分かったワ。それなら、私たちと勝負しましょう」
「勝負?」
「ええ、それに盟友が勝ったら、私たちは引き下がル。だけど私たちが勝ったら、盟友はこちらのパーティに動く」
「それは……不公平じゃないか?そっちは学院ランキング4位なんだろ」
「それもそウ。だから、勝負はこれでやりましょウ」
「これっていうのは何ですか?」
「────鬼ごっこヨ」
告げられたのは、日本の伝統遊戯だった。
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