第29話 乱闘は鬼ごっこへ

「おにごっこ、とは……?」


エディアが首を傾げる。無理もないだろう、この世界の遊戯では無いのだ。ユウセイは得心がいったように頷いて、確認を取る。


「鬼ごっこっていうのはあのタッチされたら捕まるやつだよな?」

「それ以外あるのかしラ?」

「すまない、久しくやってなかったからな」

「あの、ユウセイさん。おにごっこって、何ですか?」

「ああ。鬼ごっこっていうのは……」


内心、なぜそんなに自分のことを勧誘したいのかを考えながら、ユウセイは鬼ごっこの概要を説明する。単純なルールなので、すぐに理解してもらえるだろう。


「っていう感じだ」

「なるほど、とりあえず捕まらないようにすればいいんですね」

「今回は私達が鬼になるワ。つまり、盟友たちは逃げる側ネ。もちろん、逃げる時には魔法もスキルも使っていイ。ハンデとして私達はスキルを使わないでいくワ」

「そんなに譲歩していいのか?」

「エエ、速攻で片が着いたらつまらないでしョ?」


まぁ、第4位を相手にするのであれば妥当なラインだろうか。ユウセイとエディアは頷き、承諾の意を示した。ルイズは肩を回し、さぁいざ始めよう、という時に待ったをかけたものがいた。それが、今まで完全にユウセイやエディアから忘れられていた、そしてルイズからも無視されていた生き残りの3人組だった。


「ちょっと待つんですわ。貴女、このテラエイナ・インダスを無視するつもりですわね?」

「あラ、誰かしら?」

「誰ですって……!?ワタクシを舐めているの、ワタクシはこれでも生き残ってきたのよ」

「そうなのネ」

「勝手に話を進めないでくれない?」

「……そこまで言うのなラ、アナタも参加していいわヨ」

「渋々みたいに言うなーっ!後ワタクシはパーティを組んでいるの!」


なんだか、彼女が不憫に見えてきた。先程までのお嬢様言葉もなくなり、もとの砕けた口調が垣間見える。

だがルイズはテラエイナ……長いので便宜上エイナと言わせてもらおうか、の最後の言葉が引っかかったようで、そのたおやかな指をエイナの方に向けて、指摘する。


「パーティ?どこにも姿は見えないけド……」

「え?あっ、ホントだ!?」


どうやら先程の着地の爆発によって、吹き飛んだらしい。モオトのメガネがいまだプスプスと煙を吐き出す地面の上に落ちているのが証拠だ。だがそんな光景を見ても、彼女はいまだやる気の眼をしている。無視されていたことに、相当ご立腹のようだ。


「いいわ、パーティはいなくても、私だけで」

「そウ。なら、アナタも逃げる側ネ。アナタが勝てば、私が自腹でポイントを払うワ」

「わかったわ」

「そういえば、俺達側の勝利条件は何だ?そっちは、全員捕まえることだろうが」

「盟友たちは、10分間逃げ切るか、私とこのシュウを倒して頭を地面につけさせるかしたら勝ちよ」


シュウと呼ばれた男が片手をあげる。その動作もどこか平凡で、まるで印象につかない感じが逆に印象的だ。

それにしても、なんとも難しい勝利条件であろうか。前の方は、手分けして逃げれば行ける気もするが、後者の方は相当な難易度に違いない。なぜなら、彼女はこの『最強のカムフトーム』で4位の人間、つまりはユウセイもエディアも全く及ばないほど隔絶した実力を持っているということだ。

なので自然と前者の勝利条件になる、上手い策だ。


「ま、そんなところでどうかしラ?異論はもうないわネ?」

「ああ」

「未だに納得はしていませんが……ユウセイさんのためです、いいでしょう」

「ワタクシも異論はありませんわ、やるからには勝たせてもらいますわ」

「30数えるわヨ…………よーい、ドン!」


弾かれたようにユウセイたちは駆け出すのだった。


 @


「エディア!後者の勝利条件を狙うぞ!」

「は?馬鹿ですか?」


走りながらユウセイが叫ぶと、帰ってきたのは絶対零度の暴言だった。まあ、突飛さは否定しないし、説明を省いたユウセイもユウセイだ。タッタッタッとリズムよく足を動かしつつ、ユウセイは追加の説明をする。


「わざわざ2個条件を出してきたんだ。何かあるのが明白だろ」

「それはそうですけど、お遊びで付け加えただけという可能性もありますよ」

「いや、それはない。前者の達成難易度のゆるさに比較して、後者が難しすぎる。つまりは前者を意図的に簡単に見せて、油断させて一気に捉える作戦だろう。なら俺達はあえて後者を狙うべきだ」


10分間この塔の中で逃げる。それだけ聞くと、いかにも簡単そうではないか。この塔は1階が円柱状になっていて、半径が700メートルほどある。そこを10分間走り切るだけ、というのは第4位が提案するゲームにしてはあまりにも。何某かの策を用意していると考えるのが妥当だ。

そしてそれだけを考えてユウセイは後者の方を選ぼうとしているわけではない。


「それに、この1階は巨大な森が半分以上を占めている。その地形を利用すれば頭をつけることもできるんじゃないか?」

「さすがに楽観視ですよね、それ」

「だがそれだけじゃないぞ。この塔にはギミックがあるじゃないか」

「あ、〈ヴータリティット〉……」

「それで撹乱しつつ、倒せば……って待て。鬼ごっこのルール的に、手に触れたらアウトだな」

「ですね、聞いた感じは」

「つまり倒すためには、手に触れず触れられず倒す……」

「それって、無理ですよね」

「無理だな、あの気配の感じが無理って語ってるわ」

「じゃあやっぱり駄目じゃないですか!馬鹿!」

「シンプルな罵倒が効く!ごめんて!」


作戦の失敗──机上の空論だったが──を謝りつつ、ユウセイは魔力を取り出す。横で並走するエディアの肩にポンと手をおいて、予防線を張っておくのだ。


「【情報付与】対象:俺とエディア 効果:透明化」


瞬間、ユウセイとエディアの姿が掻き消える。ルイズが通るまでの一時しのぎだが、ある程度効果はあるだろう。そう思っていると、後ろから爆音が聞こえてきたのだった。

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