第26話 激闘の報酬
ふと、ポケットから違和感を感じた。
『”名前持ち”〈ヴータリティット〉、”
『パーティメンバー全員に、5万ポイントを付与』
『”名前持ち”討伐報酬、限定使用可能ポイントを付与』
『ランキングが変動しました』
懐から学院証を取り出すと、そのようなことを宣っていた。なるほど”名前持ち”とは、だからアレほどに強く脅威的な存在だったのかと、アウルは得心がいった。
「アウル、これ」
「ああ、5万ポイントも……これで他の一年生よりも大きくアドバンテージを稼げたな」
「これで1億ポイントまで前進できたわね」
その表示を見てやっと実感が湧いてきて、体にドッと疲れが降ってきた。アウルは思わず地面に力尽きたように大の字で寝転がる。横に人の気配、カレハも同じように寝転がったのだろう。
疲労はもはや全身に浸透しきって、一歩たりとも動けないように体を支配している。巨人を倒したときとは全くと言っていいほど比にならないレベルだ。
魔眼布に魔力を流すことを一時的に止め、暗転状態になった視界。決闘中だと言えども、これくらいの休憩は許されるだろう。それに戦闘の音は遠く、近づく様子はまったくない。少しの時間であれば、戦闘に巻き込まれるということもないだろう。
「一旦ここらへんで決闘……ロワイヤルから降りるか?」
「できるだけ今のうちにポイントを稼いでおきたいのはやまやまなんだけど……この疲労なら無理はないわね」
暫し疲労を癒やす心地よい沈黙が降りる。カレハと出会ってからまだ半日ほどしか経っていないのだが、もう大分仲間意識が萌芽してきた。
ある程度の時間が流れた後、再び魔眼布に魔力を流し、透明化させる。眼の前に広がるのは、クリクリとした紺碧と紫紺、2つの瞳だった。
「うわっ、何!?」
「どうしたの、アウル!?」
ガバリと上体を起こすと、視界には何も見えなかった。……いや、お腹のあたりにモゾモゾと動くものがいる。
そちらに眼を向けてみると、先程の双眸、そして一本の角を持つ小さな犬?狼?兎?がいた。
「お前は……?」
「キュ!」
先刻までイカれた強さの一角獣と戦っていたので警戒感が高いが、そいつは可愛らしい声で鳴き、アウルに笑顔を見せてきた。カレハも立ち上がって、こちらの方に寄ってくる。
「……かわいいわね」
「かわいいな」
「キュウ?」
なぜ自分がこんなにもジロジロ見られているのかわからない、といった顔を浮かべるソイツ。殺意どころか敵意すらも全くもって感じられないその表情に、アウルとカレハは警戒感を緩めた。彼もしくは彼女はアウルの胸に飛び込み、頬を擦り寄せている。
「一体何なんだ、コイツ」
「〈ヴータリティット〉、なわけないよね……もうちょっと凶悪な感じだし」
「それにしても、アレに似てるよな」
「そうね、その角の感じとか」
「まさか…………なんてな」
「ありえない……こともないのかしら」
二人して首を捻りつつソイツのことをまじまじと観察する。何度見ても、先程まで激闘を繰り広げていた麒麟に似ている。アウルはソイツの思考を少しでも汲み取ろうと、問を投げかける。
「お前はどうしたいんだ?」
「キュ?キュキュ!」
「ついていきたい、って言ってるわね」
「なんで分かるんだよ……」
「なんとなくよ」
「キュキュウ!」
ついていきたい、とは……別にアウル自身は構わないし、カレハも反対する理由はないだろう。しかしこの塔はただの塔ではない。絶えず戦闘が行われている『最強のカムフトーム』なのだ。言葉は悪いが、こんな弱そうな謎の生物がついてこれるのだろうか。
そんな疑念を込めた視線を半眼でアウルが魔眼布越しに送っていると、ソイツも屹然とアウルを睨み返してきた。まるで、侮るなと怒っているかのように。
「──」
「そんな顔ができるなら、心配無用か」
「フ、なんで分かるのよ」
「なんとなくだ」
「キュキュウ!」
先程の似たようなやり取りを繰り返して、アウルはクスリと笑みがこぼれた。そこでふと、コイツを仲間にするのなら名前が必要だと思い至った。カレハに呼びかける。
「仲間になるんなら、名前が必要だな」
「そうね、この子って呼ぶのもなんか他人行儀だし」
「フム、名前……」
アウルはペットを買ったことはない、なので名前をつけた経験もない。ウィットの効いた名前をつけてあげたいが、パッと思いつきそうもない。カレハに名付けてもらうのも有りなのだが、コイツは最初の感じからしてアウルに懐いている。であれば、アウルが名付けることが筋だろう。
「んー、よし」
「決めたの?」
「ああ。コイツの名前は”スニル”だ」
「スニル?それって……」
「さっきアイツの名前が学院証で見られたからな。似ているコイツにも同じようにつけさせてもらった」
「フフ、なるほどね」
「よろしくな、スニル」
「キュウキュウン!!」
今日一番の歓声を上げたスニルに、アウルとカレハは笑みを零した。その愛らしい仕草と姿に、そして轡をともにする仲間が増えたことに。
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