第31話 集結、乱闘
「カレハ・ライン……聞かない名ネ。もしかしなくても」
「ええ、新入生よ」
その女子は鮮やかな紫の髪を風に任せており、目元の吊り上がり具合やその好戦的な笑みから、快活で男勝りという印象を見るものに与えている。────ご存知、カレハ・ラインだ。
「喰らいなさい!」
彼女は何ら魔力を放つことなく、地面を蹴りつけて飛び上がった。その飛び上がりは見ていたユウセイも感嘆するほど綺麗で、勢いが良く、力強かった。脚を前に伸ばした、飛び蹴りのポーズのまま驀進するカレハ。
「ハッ、私にphysical勝負とはネ!いいじゃなイ!」
「大口叩いて、すぐに負けないでよ!」
ルイズが両手をクロスさせた防御姿勢をとると、カレハの蹴りが直撃した。ドッ!!という衝撃波が、互いの人外さをその音と衝撃、気配によって浮き彫りにしている。常人なら圧倒されるばかりでしばらくは動けなくなるだろう、常人なら。エディアは異世界出身で戦場はもはや慣れ物、ユウセイも覚悟は決まっている。2人ともこの好機を逃すほど馬鹿でも鈍重でもない。
「エディア!」
「アウル!」
意図せず、ユウセイとカレハの叫び声が重なった。ただ、どちらの叫び声も意図は汲み取られたようで、後ろの木から人影が2つ、飛び出してきた。
1つの方はもちろんエディア、その矮躯である。
もう1つの方にユウセイは眼を向ける。それは奇妙な男だった。オレンジ色の髪を無造作に、眼元は適度に装飾が施された謎の布を巻いている。日本人のユウセイからしてみれば、盲目の人かのように見えるが、輝く眼元を見ればスキルの影響を抑えるためということは推察できた。
「どうした、カレハ?なにか非常事態か?」
「えぇ、この子、強いわ……」
「……相当らしいな」
2人で通じあっているところを見るに、多分パーティを組んでいるのだろう、とユウセイは思った。事実パーティを組んでいるので、ユウセイの推測は結構当たるらしい。
「支援お願い!」
「了解!」
「作戦は決まっタ?もっと私を満足させなさイ!」
もう1合、1合と彼女らがぶつかる。その光景を尻目に、ユウセイとエディアは木の裏で合流した。
「一旦作戦を立て直そう。色々アクシデントが重なったからな」
「ええ、もちろんです。戦う作戦は、だいぶん難しそうな印象でしたね」
ユウセイは首肯した。激突して初めて分かったが、彼女の実力は想像より遥かに上回っていた。なぜ彼女が最速で4位の座まで昇り詰められたのか、その身をもってして理解できた。こうなると、自分が立てた作戦がいかに愚かかということが分かる。まあ悔恨の念はとりあえず今は置いておいて、有効な作戦を練ることがいちばん重要だ。
(透明化は見破られたから、 かくれんぼに移行する作戦も不可能に近いだろ。それに直接戦う作戦は……いや待て)
今、カレハと名乗った女子とルイズの方を見てみると、そこではまさしく死闘と言わんばかりの肉弾戦が繰り広げられていた。格闘技の経験もなく、本当の素人目から見てもどちらも卓越した技量を保有していることはありありと伝わってきて、介入の余地などないように見える。
「エディア、あのカレハとかいう女子を支援できるか?」
「何を……、ああ、そういう事ですか。彼女は鬼ごっこに参加する、とは言っていない」
「だが、ルイズが提唱したルールは彼女が倒れて頭が一瞬でも地面に着いたら負けというもの」
「誰が倒したかは一言も触れていないですものね」
そう、ルールの穴を突くようで申し訳ないが、ルイズが出してきたルールにユウセイたち自身がルイズを倒さないといけないというルールは一言も言っていない。今戦っているカレハを支援して、削ってもらう、あわよくば倒してもらおうというのがユウセイの算段だ。
「それならユウセイさんが支援魔法をかけてあげればいいじゃないですか。私の時みたいに」
「それが出来ればいいんだが、あいにく俺の魔法の発動には触れることが必須だ。あの中に割り込めるか?」
エディアが顔を向けた。そこでは衝撃によって地形が変わりかけるほど激しくぶつかる両雄。
エディアは納得がいったようにため息を吐くと、それから肩を竦める。
「私もできる限り魔法で支援しますけど、当てられるとは限りませんからね」
「もちろんだ。多分カレハとかいう奴はロワイヤルの残りの1組だ。冷たいかもしれないけど、共倒れしてくれたら一石二鳥だろ?」
「まぁ、そう……ですね」
返答に一瞬の逡巡があったのがエディアらしいが、直接関与しない破滅はセーフらしい。
と、そこで企みをしていたのに気づかれたか、先程の奇妙な男がこちらに来た。
「俺の名はアウル。アウル・リヴァーネムだ。あそこで戦っているカレハとパーティを組んでる」
「やっぱりか。俺はユウセイ・シナノガワ。んでこっちが」
「エディアーナ・チョーコウです。でもなぜ、急に名乗りを?」
「ああ。俺は─────」
その言葉は、奇しくもユウセイたちの考えと部分的に一致しているものだった。
「取引をしに来たんだ。あの最後の1組の女を倒すために」
(ん、最後の女……?)
その言葉が引っかかるユウセイ。とここで、気づいた。ルイズが1度もこの2人に2年生だと言っていないことに。ユウセイは心底ほくそ笑みつつ、言ったのだった。
「もちろんだ」
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