第12話 チートスキルはどこへ消えた?

そういうことはあったものの、商店や飲食店が立ち並ぶ通りを歩くこと15分ほど、右手側にお目当ての建物を発見した。


「お邪魔しまーす、と。思ったより人いるな」


ヒローワーク内部では多くの人でごった返しており、奥には受付のカウンターらしき机が伸びているのが見えた。人混みをかき分け避けて、受付へと赴き、佇む女性へと話しかける。


「こんにちは。本日はどのようなご要件ですか?」

「すいません。実はかくかくしかじかで……」


何も知らぬまま王都にやってきた旨を伝え、ステータスの確認もしたいと告げる。それを聞いた受付の彼女は、ニコリと笑って頷いた。営業スマイル全開である。


「はい、分かりました。それでは、まずステータスの確認からしましょうか」


そう言いながら、机の下から薄い紙と謎の丸い石を取り出した受付の女性。それをコトリと長机の上に置き、ユウセイへと告げる。


「それでは、ここに触れてみてください。紙と分析晶はリンクしているので、すぐに出ますよ」

「分かりました」


指先で軽く触れる。そうすると体内になにか暖かいものが流れていく感覚を受け取った。石が淡く白い光を放ち、紙に字が踊り始める。1分ほど後、光が収まると同時に、紙の字も完成しきった。そこには──。


「えーと、何々?ステータスは普通だ、飛び抜けて数値がデカいとかもないな。で、スキルが……」


そこに書かれていたスキルは、至ってチートになる要素が何も無い、逃げ足が早くなるというスキルだった。ここでもテンプレのようにチートスキルが、みたいなことは無く、ユウセイはちょっとげんなりする。

しかしよく見てみると、魔法の欄に面白そうな一文が書いてあることがわかった。

その魔法とは、【情報付与】。説明を読んだところ、文字通り、モノやヒトに情報を付与することで改変できる魔法のようだ。しかし、デメリットが重い。デメリットとは、情報を付与し続けると魔力をドンドンと消費してしまう点だった。しかも、維持すればするほどその消費量が増えるおまけ付き。つまりは、バフのように運営することはできるが、維持している間は魔力を使い続けてしまう、ということなのだろう。

正面からヒョイと覗き込んできた受付嬢は、その営業用の顔を軽く揺らして、語る。


「随分と珍しい魔法を持ってますね、シナノガワさん」

「そうですか?」

「ええ。魔法は多々ありますが、その殆どが8属性のうちどれかに属するモノです。しかしあなたのスキルはその8種のどれにも該当しないようなもの、いわゆる固有魔法なので、結構珍しいんです」


その言葉を聞いて内心自分のスキルがなかなかに良いことを思いながらも、それを顔を出さずにしながら、話を進める。

……魔法は良くとも、何をするべきかわからない道のりというのは辛いものがあるのだ。早くやるべきことを見つけねば、という焦りが少しにじみ出てしまったようだ。少し言い淀んでしまったユウセイに、彼女は見かねてかフランクに話し始めた。


「それで、俺は……」

「シナノガワさん、今年で17歳なんですね。それなら、学院に通うのはどうでしょう」

「学院?学校ってことか?」

「ええ。この王都にはこの世界で一番と言われている学校があるんです」


一番と呼ばれる学校。何とも興味をそそられる響きではある。確かに、学校というのは課題や指導で指針が明確になっている場所。右も左もわからない異世界ではまず間違いのなく方針が決められる場所だろう。ただ、街を見回ってもそれらしき建物は一個も見当たらなかったので、果たして一体どこにあるのだろうか。その旨を訊いてみる。


「それらしき建物は見当たんなかったんですけど……?」

「ええ、知らなければわからないでしょう。────その学院の名前はカムフトーム魔塔学院。街にある、あの巨塔が学校なんです」

「あの塔が!?そりゃわかんねえよ……」


あれはてっきりランドマーク的な観光用の建物かとユウセイは思っていた。しかし実際は天の国まで届いていそうなあの塔すべてが学校であるらしい。思わずぼやくように言葉が漏れてしまうユウセイ。

だがなるほどそんな規格外の学院ならば一番と呼ばれることも頷ける。


「けど、入学試験とかは大丈夫なんですか?」

「ちょうど7日後にありますので、それまでに書類の準備をしてくれれば」

「ナイスタイミング、ってやつですね」


一週間もあればそれなりの情報と実力を付けられるだろう。自分のスキルの確認もできる。そう考えたユウセイは、一つ聞きたいことを聞くことにした。


「ここに図書館みたいなところってありませんかね?」

「図書館、というものが何かはわからないですが……」


ゆるゆると首を横に振って、知らないことを示す受付の女性は、申し訳無さそうな表情を浮かべている。その表情に少し心を痛めたので、軽く説明をする。


「あー、本がいっぱいあるところです」

「あ、資料室ですね。それなら二階にありますよ。どなたでも無料で使えるので、確かに使ってみるのはいいですね」

「あと一つ良いですか?」

「ええ、もちろん。何でもおっしゃってください、私に答えられる範囲であれば答えます」


最後に一つ聞きたいことがあるのだ。それは、入学試験までに身体を鍛えられる場所。


「どこかダンジョン的なものってありますか?」

「ダンジョンは守護者の証がないと這入ることができませんが……、お持ちなのですか?」


どうやら、資格が必要らしい。確かに異世界モノでは、ギルドの許可証がいる、みたいなものもたまに見る。この世界もそう云うものらしい。

……ステータスが任意で見れないくせに、そういうところはテンプレ感があるんだなとほんの僅かに思ってしまったことは内緒だ。


「では、何か戦いの練習ができる場所みたいなところはありますか?」

「ジムがありますよ」

「ふーんジム……ジム!?」

「ハイ。戦闘練習をするのであれば、ルイザップがおすすめです」


これはまた何処かで聞いたことしかないような名前のジムである。もはや、こっちの世界のネーミングは元の世界ちきゅうの物を参考にしているのではないかと疑うレベルの近似性だ。


「分かりました。資料室に行った後、少し寄ってみます。様々なことを教えてくださって本当に助かりました。ありがとうございます」

「いえ、これが仕事ですので、お気になさらず」


ユウセイはその後もしっかりとお礼を言って、受付のカウンターをあとにしたのだった。

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