第2章 下階攻略篇

第42話 新たなる出会い

「武器がほしい、だって?」

「ああ。よく見ろよ」


ユウセイのその言に、アウルは全員の手の中を見廻す。

カレハ:徒手空拳

ユウセイ:色々なものに付与するので手数のために徒手

エディア:魔法サポートのもの以外は徒手

アウル:いらない。

……見事に全員素手だった。確かに、いい加減に武器を揃える頃なのだろう。

最初の激闘入学ロワイヤルより二半月ほど。アウルらエーゲン・ラフトの面々は、順調にポイントを稼いでいた。一年生のみのポイントランキングで言えば、カレハがトップを独走している。一億には未だ遠いものの、着実に進んでいると言えるだろう。

言葉を受けて、アウルはそれぞれに眼線を送る。もうすっかりカレハの肩かエディアの頭が定位置になったスニルもだ。


「私も確かに硬い相手には武器が欲しくなるけど……」

「だろ?いい鍛冶職人を探して、作ってもらおうじゃねえか」

「そうですね。杖が有ると嬉しいです」

「キュ」


はにかむエディアとユウセイの笑み。アウルの決断は言うまでもないだろう。

善は急げとばかりに、4階の転移陣へと向かう。

カムフトーム4階。ここはそんな場所であり、景色は密林のような場所だった。どこからかギャアギャアという獣の鳴き声や武器のぶつかり合う喧騒が耳を擽る、面白い場所だった。

4階の転移陣は今いる所から反対側。もちろん塔内であるが故に道中に、〈ヴータリティット〉は湧き続ける。ただ、この4階程度であれば囲まれもしない限り苦戦することはない。

事実、道を塞ぐように飛び出してきたイノシシ型〈ヴータリティット〉へ、カレハが一瞬で肉薄する。


「フッ!」


吐息を1つとともに、いっそ美しすぎるほどの蹴りあげ。イノシシの脇腹に容赦なく突き刺さり、スパーン!!!という音によって浮き上がる。

イノシシは四足歩行。畢竟、空中に浮き上がればもがくことしか出来ない。

更に魔力が膨れる。


「【精土弾クゲル・ボーデン】!」


先鋭化した土塊が、現実の書き換えによって射出される。浮いていて、腹が丸見えなイノシシを貫通したのだった。即座にポイントに、光の粒に変換されたのだった。


「やっぱりこれくらいじゃ雀の涙だな」

「……すずめ?」

「こっちの地方にいる鳥だよ」


日本の慣用句に興味を示しかけるエディアだったものの、今はそれじゃないと思い出したようだ。魔獣を追い返しつつ前に進み、やっとこさ転移陣に辿り着く。

代表してエディアが魔力を軽く流して起動、よく見覚えのあるカムフトーム1階へと転移した。


カムフトーム魔塔学院の1階は、他の階層と違い真ん中を壁で区切られていて、半月状の部屋が2つある構造だ。そして珍しく、カムフトームの中では唯一の戦闘を禁止されているエリアでもある。半月状の部屋のうち、入口が接続されている方……エントランスホールでは、生徒同士の情報交換用掲示板や生徒依頼クエストを受けることができるカウンターなどが設置されている。お目当てはその掲示板だ。生徒でごった返すホールの中をすり抜けて、掲示板の前へとたどり着く。


「混んでますね〜」

「人混みはあんまり好かないんだが……」


アウルがそうぼやく。自身の奇妙奇っ怪な見た目のせいで注目されるのが厭というか鬱陶しいと言うか、と告げた。確かに……と、苦笑しつつユウセイは掲示板を見上げる。


「鍛冶師についての情報は、っと」

「……あまり無いわね。やっぱり鍛冶師に頼むより店ででき合いを買った方が便利で早いからかしら」

「でも、俺たちが既製品で収まるのか?」

「まぁ、否定はしない」


鍛冶師に一から作ってもらう方がピッタリ会うのはルイズを見るより明らかだろう。だが、エーゲン・ラフトの全員はお上りさんで、王都に明るいメンバーはいない。コネもあろうはずないので、だからこそ掲示板に来たとも言える。

だがしかし、ここの生徒に鍛冶を希望する人間など稀有だろう。武器を作りたいのなら、冶金学院へと行くもの。カムフトームはあくまで戦いを目的にした者が集結しているのだ。


「はぁ、どっかにいい鍛冶師がいればいいのだが……」

「いるわけな────────

「今、鍛冶師って?」


ふと、後ろから声をかけられた。全員がいっせいに振り向くと、1人の女子が佇んでいた。高身長で、スラリとした体型。眼付きはカレハに負けず劣らずの三白眼。学院指定のローブを肩にかけ、巨大なハンマー……いや、槌を腰に下げて、全体的なシルエットはまさに鍛冶師のソレだ。


「アンタら、今鍛冶師を探してるんじゃないか?」

「ええ、まぁ……」


そうなんですけど、誰ですかという疑念と不信感の眼差しをユウセイは送り付ける。

だがそんな視線などなんのその、気にしないとばかりにその女は不敵に笑んで、告げる。


「オイラに依頼しないか、その鍛冶」

「藪から棒に……そもそも誰なんですか、あなた?」


物怖じをあまりしないエディアが、単刀直入に訊く。こういう時突撃する奴いるよなー、とうっすら地球のあるあるを考えながら、ユウセイも身構えた。変な奴らが集まっているところにわざわざ自分から話しかけているのだ、余程の変人か、厚顔無恥か。

嗤う、という表現がピッタリな笑みを顔に張りつけ、その鍛冶女は衝撃を告げる。



「オイラはウィーナ・アマゾン。6、"無限剣アンエンドリッス"だ」


新たなランカーとの出会いが、パーティの未来を変えるのだった。

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