第48話 暗雲たちこめ
「ギャガアアアッッッ!!」
「うるさいわよッ!」
文字通り飛び出したカレハが、鉱石を生やしたトカゲに肉薄する。そのまま大きく振りかぶられた拳が、背の鉱石へと命中した。ゴン!!!!という鈍い音が響き、カレハは飛び上がった体を着地させてトカゲを睨んだ。
「硬いわね、無駄なくらい」
「ガガァッ!!」
またも叫び、石トカゲはカレハのモノマネのように壁を蹴りつけ、強襲してくる。飛んできた身体は存外大きく、直撃すれば一溜りもないだろう。ただ全員、避けるのは難ない。この程度で怪我をする雑魚など、突いてきては居ない。
その巨体が岩の地面へと辿り着き、そのままそれを大きく揺さぶる。腹に響く重低音が、あの下に居続けた場合の未来を想像させる起爆剤となりそうだ。トカゲは、その爬虫類特有の瞳をぎょろりと動かし、5人を敵として認める。
地面に降り立ったその
「改めて見ると、大きいですね……!」
「ビビってるんじゃねえよ、エディア。こんな低い階層程度の〈ヴータリティット〉で怖がってるようじゃ、天辺なんて不可能も良いところだぜ?」
「いえ、どうやって攻略しようかと考えていたんです、よ!【
鍾乳洞を、光が疾走る。とりあえずの様子見とばかりに放たれたエディアの魔法は、風を切って石で武装したようなトカゲに肉薄する。避ける素振りを全く見せないトカゲ型〈ヴータリティット〉に、エディアは命中しただろう、と口許に笑みを浮かべた。だが。
「ゴギャアアア!!」
背中の鍾乳石のような器官が玲瓏な朧の光を放つ。それだけで、近くの地面から剣山の如く鍾乳石が一斉に生えてきた。その切っ先はどれも鋭く、光の弾丸も貫かれて消えた。更にどんどん追い詰めるように生えてきて、バックステップで後ろに下がって避けざるを得ない。
「クッ!出鱈目な……!」
「いや、いいわよ。これを足場にすればッ!!」
カレハは生えてきた鍾乳石の一つに足をかけて、勢いよく蹴っ飛ばす。先ほどと同じようにカレハが吹っ飛んで、トカゲにグングンと近づいていく。速度は蹴っ飛ばしただけなのに相当に速く、生えている剣山の上を飛行しているように見える。そんな速度だが、二回目とあれば流石にトカゲも対応してくる。
身体を回転させ、尻尾をしならせながらカレハにぶつけんとする。それはまさに、カレハをボール、尻尾をバットとした野球のように。
「それだけで迎撃できるつもり!?11階層の〈ヴータリティット〉にしちゃ頭が悪いわよ!」
「グギャ!?」
カレハは構えた姿勢から急に立ち上がったような姿勢へとなり、地面に生えた剣山を蹴って向きを変えた。空中で天井へと近づくように飛び上がり、そして背中の鉱石へと蹴りを見舞った。ガゴン!!!と石トカゲの巨体が動くほどの衝撃が走り、鉱石の一部が砕け散った。
「ギャアアオオアア!?」
「まだまだァ!!」
「俺も忘れてくれるなよ!」
どうやら身体強化の
「多分あの鉱石っぽいやつが魔力臓だ!破壊すれば石柱攻撃はなくなるはず!!」
「「了解!!」」
カレハは先程の蹴りと同じような肉弾戦を、ユウセイはその強化された肉体を持ってカレハのサポートを。脅威的なフィジカルを誇る二人による流水のように自然な連携が、石を生やすトカゲを追い詰めていく。更にその上、エディアの光属性系魔法が延々と翔んでくる。石トカゲにとっては一溜まりもないはずだ。
「ギ、ガ、グウウウ……!!」
「トドメに行くぞ!エディア、カレハ!」
「ええ!【
その瞬間、エディアの優しくも苛烈な魔力が床を覆った。いや、正確には床の石を、だ。そして、魔力を纏った石たちが、集合して一つのある道具を形作る。それは、無骨で荒削りではあるものの、たしかに剣の形をしていた。カレハは石トカゲの背中からヒラリと降りて、その岩剣をしっかりと握りしめた。鬼に金棒、水を得た魚。鬼気迫る雰囲気へと変貌したカレハが、無造作に石トカゲへと近づく。
「ギャッギャッギャッ……」
あまりにも歩みが適当に見えるので、石トカゲは好機とばかりに石柱を束ねて、射出する。
だが、それは一瞬にして砕け散る。カレハのノックするような裏拳に、吹き飛ばされたのだ。
そしてトカゲ型〈ヴータリティット〉の顔面へと近づき、一閃。それは粗が目立ち、握りも甘かったであろう。しかし、それは
「─────」
「終わり、よ」
顔面を横一文字に切り裂かれたトカゲは、断末魔を上げることなくその魔力による命を散らしたのだった。カレハの手の内の岩製の剣はボロボロと風化していく。魔力による操作をエディアが解いたのだろう。
「すげぇ……お前ら、本当に1年生か?」
「……ああ。正真正銘1年生だ、ほら」
鮮やかなまでの〈ヴータリティット〉討伐劇に、ゴドウィンが眼を見張った。側で立っていたアウルに懐疑の声を向けるものの、アウルが自信たっぷりに学院証を見せたことで一応信用したようだ。一つ頷き、飲み込んだような顔をしながら、ゴドウィンがしみじみとつぶやいた。
「これは相当な拾い物をしたな」
「拾い物?まあ、俺達は1年のポイントランキングトップだしな」
「そうなのか?」
「正確には、あそこのカレハが、だけどな」
感嘆の瞳をカレハに向けたゴドウィンを気にせず、前線組の二人が帰って来る。しっかりと絶命したことを確認したらしい。二人は何やら会話をしながらだ。
「おい、カレハ。あの剣技って……」
「ええ。ウィーナの剣技を模倣させてもらったわ。かなり適当だし、もっと練習しないと通用しなさそうだけど」
「それでも、
「だ、れ、が化け物よユウセイ!」
「へいへい余計でしたね」
「意外と傷つくのよ、そういう事言われると……」
「おかえり。やっぱりすさまじいな、カレハは」
「…………そこまで褒めてもらうものでもないわよ、猿真似でしかないわけだし」
「俺との対応の差ァ!」
3人がそうやって談笑をしていると、真面目な顔をしたエディアとゴドウィンが割り込んできた。
「すまない、今は……」
「崩落のほうが先でしょう?」
「あ、ああ。そうだな。カレハ、行けるか?」
「疲れてるけど、五発くらいなら……」
「お願いしてもいいよな?」
「もちろんよ。ユウセイ、念の為強化頂戴」
「応。【情報付与】対象:カレハ・ライン 効果:身体能力強化、硬質化」
魔力がカレハを優しく包んで、尾を曳く。カレハはトコトコと崩落した鍾乳石の壁に近づき、腰を落とす。
ゴドウィンが、何かに気づいたようで口を手で塞いだ。
「おい、まさか……」
「─────フッッ!!」
轟音が、空間を揺らした。凄まじい衝撃が走り抜け、破砕音が連続する。
カレハの極限まで溜められた拳が、鍾乳石を穿ち破壊したのだ。
そして、災厄が撒き散らされる。砕かれた鍾乳石の壁を乗り越えるものは、数多だった。
「ギャギャ……!!」
「ゴアアアアアアア!!」
「────」
「ブルラアアアアアア!!!」
「まさか破壊するなんて思っても居なかったが、まあ計画通りか」
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