第34話 巡る戦況、躍る思惑

「ク……なかなか、1年にしてはやるわネ……!」

「お褒めの言葉どうもッ!はああああああああッ!」


裂帛の声が熱を切り裂く拳とともにルイズに迫る。もちろん放っている音源は紫の髪、カレハだ。

さらに重ねて彼女とは違う、氷のような玲瓏な声が後ろから響く。


「【精光弾クゲル・リヒト】!続けて【精光弾クゲル・リヒト】!」


2連発。地上に光臨した太陽が如くまばゆい光を放つ一対のボールが、射出される。ルイズは灼炎を派遣、盾のようにそれらを遮ろうとする。

それは失策に過ぎない、ように見える。熱を放つだけの炎は、光とエネルギーが主体に構成されている光弾には何ら影響はないはずだ。エディアもそう思ったはず、事実口の端は相手のミスを誘発したことに軽く歪んでいる。

だが、それは正解の行動だと、本人は不敵に笑んで答えた。


「私の能力ハ、炎を操ることじゃないわヨ!」

「ッッ!?」


炎がより魔力を帯びたかと思えば、光弾はその場に縫い留められたように動かなくなる。よく見れば、弾の形に氷が生み出されていた。その光景を見、ユウセイは一つ、思い当たる理論があった。だが、それができるのならば、にわかには信じがたい。


「まさか、コイツの能力は……熱を操ること!?」

「あラ、御名答よ盟友。やっぱり、同郷の人間はいいわネ知識があって」

「ユウセイ、なぜそう思ったんだ?」

「ああ、説明したいところだ、が、……時間がかかるからちょっと今は無理だな」

「とりあえず相手の能力が熱操作ということだけ覚えておけ、と」


ユウセイが考えたことを簡潔にまとめると、こうだ。

熱というのは分子の運動から発生するもの。そしてエネルギーとは分子の動きを生み出すもの。なれば、極端に熱を下げて、分子の動きを強制的に止め続けたことによってエネルギーを凍らせるという人知を超えた現象を引き起こしていたのでは、という推測となる。こう考えれば、ルイズが透明化を見破ったり、高速で移動ができることも納得がいく。透明化を見破ったのはいわばサーモグラフィー的に熱を感知したのだろうし、高速移動は熱膨張によって自身の身体を射出していると考えれば得心がいく。

そしてそれを告げられたアウルは、なんとか彼女の弱点を探らんと考えを巡らせていく。


(熱の操作、汎用性は言うまでもないが高いだろう。どのようなことに使われるかはわからないが、カレハなら大丈夫だと信じたい。エディアの魔法がかき消されたとなると、遠距離もなかなかに有効打となるには難しい、か。近接戦はカレハと拮抗するほど。ならば有効な手は一つしかない、人だしな)


「カレハ!で行くぞ!」

「オッケイ、任せときなさい!」

「は、今なんて?」

「説明は後だ、とりあえず俺の指示に従ってほしい」

「まあ、そう言うなら……」


決断をしたアウルの剣幕になにかあると感じ取ったユウセイは、その指示に従うことにした。聞こえた眼力という言葉。これが文字通りなら、ユウセイもエディアもルイズに触れられる心配はない。

ならば乗ってみるのも一興、第4位に本当に通用するのならそれでよしだ。勝てさえすればポイントに近づくのはユウセイ達。アイツらはルイズを新入生だと勘違いしているし。


「喰らいなッ!」


そう叫び、アウルは今まで目元を覆っていた布を取り去る。顕になるは驚異的で脅威的な眼力。そしてそのまま、カレハとルイズが鎬を削りあっている現場へと走り出した。


「誰だか知らないけド、邪魔をしないでくれるかしラ!?今この娘といい感じなのニ!」

「すまないねえ、お嬢さん!ちょっとこっち見て貰うだけでいいんだ!!」


アウルがそう叫ぶが、ルイズは一瞥もくれない。それはそうだろう。カレハと体術勝負をしながら、魔力を制御してエディアの魔法を迎撃して、ユウセイの行動に気を配っているのだ。明らかに罠とわかる誘い文句に乗るほど馬鹿ではないしリソースもない。というか、冷静になれば身体能力の化け物であるカレハを他のことをしながら拮抗しているのは、流石の一言に尽きる。

アウルはカレハたちの周りを回りつつ眼力の当て方を探っていく。身体能力お化けチート能力者どもの激突は、もはや2つの竜巻が同時に猛威を振るっているのに等しいほどの衝撃を周りに撒き散らしている。地面は砕け、木々はざわめく。そもそもこの階にこれほどまでの実力者が二人も揃うことは想定外なのだろう、薄くなっていく地面の土は所々床地のレンガが見えかかっている。


「近づけない、困ったな……カレハも多分、この激突を楽しんでいるだろうし、もう少し相手方の消費を待つか?」


パーティメンバーなので、多少の便宜はしてあげたいところだ。ただ、これ以上拮抗して徒に体力を消費しきってしまうことはこの後控えているユウセイたちとの決戦に響いてくるだろう。なるべく素早く、消費を少なく彼女を倒したい。アウル自身の体力を消費して眼力を当てに行くことができるのがベストだが、近づいた瞬間吹き飛ばされて戦線離脱なんて笑いものだろう。────最も、どこかのお嬢様口調のパーティメンバーは吹き飛ばされて一時戦線離脱していたのだが、アウルは知る由もない。

戦況を伺いつつも、眼力は顕にしている。そんなアウルに並んで、黒髪黒目が話しかけてくる。


「眼力をあの女に当てたいんだよな」

「ああ、だが……」

「巻き込まれてうまくできない可能性がある、と」


なかなかに知性の有る男だな、とアウルは思った。ユウセイはその口の端をニヤリと歪め、ポンと頼んだぞと言わんばかりに肩を叩いた。アウルは嫌な予感が背中を走り抜けて、顔が引きつりかける。


「じゃあ、?」

「は?」

「【情報付与】対象:アウル 効果:脚力増強」


アウルの身体にユウセイの魔力が絡みついていく。世界を一時的に騙す、ユウセイの事象改変がアウルの脚力をあそこの二人に匹敵するレベルまで押し上げた。アウルはその顕にしている魔眼を、驚きに見開きつつも口元に笑みを浮かべた。想定外の戦力、しかもオマケに作戦の理解度も高い。パーティとして組むならこれ以上ないほどの好条件であろう。


「フッ、ありがとう!」

「まあな、アイツを倒してくれれば俺達はだいぶ助かるからな」


走り出す。その足取りは軽快で、そして疾かった。どんどんと距離を詰めてくる音に、ルイズは驚愕したようだ。その動きを刹那止め、こちらに視線を向けかける。


「ほう、そっちから見てくれるとはね!」

「アウル!─────────まずい!」

「私はこれでも結構用心深いのヨ?」


今まで炎を操っていた魔力よりも更に大きい魔力が、迸ってアウルに迫るのだった。

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