第33話 決着…………?

「伊達に9位まで上り詰めていますわね……!」

「あっ、よく見れば"凡人ノマラワイゼン"だべ!」


ボーゲックは今更になって気づいたのか、驚きの声を上げた。

シュウはモオトの展開したバリアを砕いたが、その戦果には全く興味を持たずに、一直線にエイナを狙いにかかってくる。やはり怒りの矛先はエイナなのだろう。

ちなみにモオトは、魔法を打ち砕かれた衝撃によって、その場に崩れ落ちている。耐久が売りなのだが、いかんせん突破されると辛いのが彼の魔法らしい。

エイナはもうモオトは動けないなと思いつつ、叫ぶ。


「ボーゲック!合わせるですわよ!」

「もちろんだべさ!」


そう言うと、ボーゲックの身体から魔力が放たれた。やはり、その巨体に見合う訳が無い繊細な操作だ。いや、身体が大きいからこそ身体の隅々まで気を配っているのだろうか。

おっと、話が逸れた。その魔力は空間を書き換え、濃い紫の、いかにも毒毒という色の塊が何玉もできた。更にその上に、エイナの魔力が艶っぽく輝く。ボーゲックの事象改変の上に事象改変を重ねる、この学院に来てからパーティを組んだにしては信頼感が高すぎる、元からの主従関係なのであろう。


「【精風波ヴィット・ウィンデ】!」


そのエイナの宣言と共に、乱気流が発生した。生み出された乱気流は本来であれば空間を暴虐し、ありとあらゆるものを吹き飛ばす魔法だ。だが、今回は違う。毒弾がある。その毒弾は風に乗ってランダムに舞い踊っていく。


「フッ、これがワタクシたちのコンビネーション!」

毒の死風ギフト・トドウィンデだべ!」


風はこそ不規則なものだ。その確率をいじることは出来ても、その軌道を完全に予測しきることは出来まいという打算だ。本来であればこれはもう少し出力が高く、暴風の名のごとく相手ともども暴れるのだが、今回は違う。それを今やってしまうと、エイナたち自身も巻き込まれてしまうのだ。そう、これは三位一体の、バリア有りきの高出力技だった。でも今現在モオトは意識がない。なので加減して、自身らが巻き込まれない程度の風で抑えているといわけだ。


「さらに!これも追加でどうぞですわ!」


もちろん投擲するは円月刃だ。毒、風、そして刃。異なる三種の成分がそれぞれにシュウへと殺到する。

だがシュウは、そんなモノ気にしていられるか、自身の怒りが優先だと言うようにいっそ愚直なほど真っ直ぐ突撃を敢行してくる。やはり、刃や毒は不自然なほど曲がったり、当たったとしても一瞬で治癒するのだが。


「チッ、堅いですわ!」

「オデの腕力を食らうんだべーッ!」


毒や刃では削り切れぬと判断したボーゲックが、その鍛え抜いた筋肉で主人の敵を破壊せんとする。その振り抜かれた巨大な拳は、しかしシュウの弩の早撃ちによって慌てて引っ込められた。


「邪魔だと言っているだろ、クソデカノロマ野郎!」


あまりの言いように、戦闘中ながらもエイナは眉をひそめて苦笑してしまった。だが脅威は実際に迫っている。自分も攻撃を加えたいが、毒と刃の嵐は自分達にも仇となってしまう。攻撃の失策に、頭を悩ませる他ない。

シュウがその弩のトリガーに指をかけた。もう既に矢はしっかりと番えられている。致死のロックオンだ。


「殺すなんてルール違反ではないの!?」

「そんなこと一言も決めていないッ!」


確かにそうだが、人として、倫理観を完全に失った理論でしかない。自分がナンパしたかった女に男がいたとわかった瞬間ヒステリーになって殺しにかかるなど、そもそも狂人のそれだ。

エイナはこんな奴に殺されてたまるかと、屹然と眦を上げた。たとえどんなに実力差があろうとも、最後まで抵抗してやる、と。

その時だった。


「【精壁球クゲル・ワンド】!」

「!?」


魔力が迸り、球体状の淡く輝く障壁が発生する。エイナとボーゲックは見覚えがありすぎるその魔法に、そしてシュウは不意に自分の殺意を止められたことに瞠目する。そしてそれは、シュウにとって致命的なものに等しかった。もちろん、誰と誰何されればモオトである。バリアを破られたことの衝撃から、立ち直っていたらしい。

すぐさまエイナとボーゲックは魔力の端を手繰り寄せ、操作する。


「モオト、アレやりますわよ!」

「了解!」

「はああああああっ!」


瞬間、バリアは内側に毒を、風を、そしてムーンナイフを取り込んだ。これぞ本当の、エイナ、モオト、ボーゲックによる三位一体攻撃のひとつだ。

その名も。


「「「"紫翠の死牢ジファングニズ"!!」」」


1度中に閉じ込められれば、その意識や命が消え切るまで相手を刻み、侵し、閉じ込める絶死の障牢である。いかな9位とて、確率操作がいかな強くとて、避ける隙間も失敗する余地もないこの秘技に、為す術もないはずだ。

もはやこの戦いは鬼ごっこではない。相手方が殺意をぶつけたことから、もう死合なのだ。それに、この程度でランカーがくたばるとは思えない、今までの様子からして。そう判断し、今までの状況も加味した上で、エイナはコレを使うに踏み切ったのだ。

毒で満たされる寸前のバリアの中、シュウはゴンゴンと壁を叩いている。そして聞こえるは、耳を聾する絶叫。


「クソォ、クソオオオオオオオオオオオ!!」


シュウは一瞬の内に絶体絶命の状況へと貶められたことに、そのプライドを大きく傷つけられたはずだ。バリア内に響き渡る絶叫は、ひとり虚しく、いつか絶えていくのだろう。

ランカーとは思えない呆気ない幕切れに、エイナはため息とも取れぬ息を一つ零した。


「コレで決着させたこと、謝らせて欲しいですわね」


エイナはそうポソリと願う様に云うのだった。

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