第51話 真相究明のお時間です

「カハハハハハッ!これは傑作だ!まさか本当に助けてくるとは!君たちはエンターテイナーの才能があるんじゃないのか!」


仁王立ちしたまま、身体を捩らせて笑うゴドウィン。その嘲る姿にエディアもカレハも強く歯ぎしりし、ユウセイに至っては舌打ちを零した。

しかしアウルとサーシャは違った。サーシャは血の気が引いたような顔をしていて、アウルはあろうことかニヤリと不敵な笑みを浮かべたままなのだった。


「おいおい、どうしたよ、その顔は!もしかして裏切られたのがトラウマになっちゃったのか!?」

、ゴドウィン」


アウルの不敵な発言に、ゴドウィンは押し黙った。

そしてアウルの言葉に引っかかるものがあったようで、エディアがこちらを向いた。


「やっぱり、って……まさか帰ってくるのを予想していたのですか?」

「まあな。コイツの行動からすれば、予想は楽だったぜ」


アウルが涼しげにそう言うと、ゴドウィンはあからさまに動揺した顔を呈した。まさか俺の行動を読まれているとは、という表情だ。


「何故、俺の行動を読んでいる?何故だ?」

「何故もあるかよ。そもそも、お前の行動には疑問点だらけなんだ」

「疑問点?」

「おかしいとは思わないか?ポイントも何も得られないのに、俺達を閉じ込めるなんて」


そう、そこがおかしかったのだ。助けに来て、と言ってこの階層に来るまではわかる。しかしそこでアウルたちを裏切って閉じ込めたとして、ゴドウィンとは決闘すらしていないのだ。どれだけアウルたちがボロボロになろうと、ポイントが増えない以上関係の無い話だろう。


「こいつの愉悦のためじゃないの!?」

「愉悦のためなら、俺たちを閉じ込めて姿を見えなくさせる意味が無いだろ。上から観察されている感じもしなかったしな」

「……」


図星なのか、それとも。押し黙ったゴドウィンを見据えて、アウルは答えを述べる探偵のように滔々と語る。


「ま、さしずめ俺たちを利用して何かをさせたかったんだろうな。例えば、とか」

「ッ……」

「さて、お前は俺たちで何をしようとしてたんだ、ゴドウィン!!」


アウルが屹と睨む。その視線は硬く、魔眼布越しでもゴドウィンは竦んでしまうほどだ。

ゴドウィンは顔を落とし、そして肩を震わせる。

それはまさに、隠していたものを暴かれた犯人のような。


「…………そうだ。俺はお前たちを利用しようとしていた、もちろん助けなんかではなくな」

「そうだろうな。この子……サーシャは関係あるのか?」

「関係あると言えばある。なぜなら、俺が求めているのは〈ヴータリティット〉だからだ」

「〈ヴータリティット〉?」

「ああ。それもただの〈ヴータリティット〉じゃない。お前らは聞いたことがないか?"名前持ちネームド"って名前を」


その言を聞いた瞬間、アウルとカレハは身体が強ばった。聞いたことがあるも何も、闘って倒した、最大のライバルとも言うべき存在だからだ。

カレハは咄嗟に肩のスニルへと注目してしまった。

そんな2人の様子には全く気付かず、ゴドウィンは独白を続けた。


「この学院には〈ヴータリティット〉の中でも特に強く、唯一無二の一体しか生み出されないつくりだされない〈ヴータリティット〉がいる。それが、"名前持ちネームド"と呼ばれる存在だ。各階層に一体ずつ配置されているのだよ」


なるほど、アウルたちが倒した"雷磁の帝馬スレイプニール"は2階層の"名前持ちネームド"だったのだろう。アウルたちが倒したということはそれまで不倒だったということ。1年生が何人あの魔馬の犠牲になったのかは計り知れない。


「俺はこの階層の"名前持ちネームド"と因縁があるんだよ。だが奴は狡猾で、頭が回る。普通の方法で誘き寄せようとも寄り付かないんだ」

「もしかして、私たちは……」

「囮だよ。奴は初見の、よく騒ぐ奴に眼をつけるからな!」


そうゴドウィンがバッと手を広げ、叫んだ。転瞬、この世のものとは思えないほどおぞましい、甲高い声が階層を震わせた。まるで、先程の爆烈のような。


「ウキャァァァァァァァァァァァァッッ!!!」


そして、爆砕音。それは、ユウセイとカレハの後ろからだ。全員が示し合わせたようにゆっくりと振り返る。

────────シルエットは異様だった。

まるで、巨大な人のような。まるで、腕だけが伸びた人形のような。

その影は大きく身震いすると、何気なく手を振った。それだけで猛烈な突風が発生し、立ち込めていた土埃は吹き飛ぶ。ご尊顔が顕になった。

アウル、エディアは絶句した。カレハは指をパキリと鳴らして、臨戦態勢だ。そしてユウセイは。


「────ウキ」

「いや、猿じゃねぇか!!」


全力でツッコんだのだった。そう、体型はほとんど猿のそれで、体毛は白。体躯は大きく、ユウセイの1.5倍から2倍ほどはあるだろうか。ともかく顔が大きく、腕も長い。どう見ても猿のそれだ。

そいつは純粋無垢に瞳でこちらを睥睨した。


遅れ馳せて壁に音とともに激突し、カレハは体内の息を痛みによって搾り取られた。


「──────ッカハ!?」


あまりに一瞬のその出来事に、反射神経の化け物たるカレハや眼力特化のアウルでさえ反応、捉えることが出来なかった。奴はどこかと視線を忙しく彷徨わせると、天井から垂れている大きめの鍾乳石をグワシ!と掴んでぶら下がっていた。


「何なんですか、アイツは!」

「アイツは"名前持ちネームド"〈ヴータリティット〉"舜烈の賢猿ヒヒ"。圧倒的速度と高い知能で相手を追い詰める、猿だ!」

「ゥゥウキィィィィッッッ!!」


まるでゴドウィンの紹介に興奮したようなタイミングで、賢猿は叫んだ。そして、隣に生えていた鍾乳石をまるでぶどうを採るように毟って、アウルのすぐ後ろの地面に突き刺さった。その周りにはまだまだ大量の鍾乳石。

まるで投げたモーションが捉えられず、アウルは背筋に凍るものが走った。すぐさま魔眼布を取り去って動体視力を極限まで上げて、回避に専念するスタイルへとなる。

どうやら猿のような姿をしているのに投げるのはあまり得意では無いらしい。連続で投げてくる石槍は良くて掠める程度、大体は当たらない軌道だ。しかし運悪く当たったり、ヤツがどんどん腕を上げてしまうかもしれない。そうなったら一貫の終わりだ。アウルは眼力と頭脳フル回転で、もはや先読みに近い精度で警告を飛ばしていく。


「ユウセイそこ、2歩前!エディア、しゃがめ!」

「キィィィィィッ!!」


どうやら当たらないことが相当腹に据えかねているらしい。捕まっている鍾乳石をバンバンと叩き、奴は怒りを顕にした。

ゴドウィンが、アウルに叫ぶ。


「お前ら、頑張ってアイツを消耗させてくれよ!」

「消耗だァ?俺たちを誰だと思ってんだ!裏切ったてめぇよりも先に、コイツを倒してやる!!」


裏切られたショックを薪に、やる気の炎を灯せ。

猿を、名前を持つ強大な仮想の魔獣ヴータリティットを先に倒すのはどちらか。

9階層の転移陣が、淡く輝くのだった。

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