第40話 それぞれの決着 side:he 後編

「……もちろんだ、と言いたいところだが……魔力がない」

「確かに連戦続きだ、仕方ない」

「このあと時間稼ぎに使えば、できるとして精々10秒だ。それ以上掛け続けることは不可能だな」

「十分だ、相手に魔力はなさそうだからな」


二人の男が、前を向いた。その瞳の輝きは、奇しくも同じように見えた。

ルイズも作戦会議の終了を待っていたのか、首をコキコキと鳴らしながらこちらにゆっくりと近づいてくる。


「作戦会議は終わったようネ。どちらから相手してくれるのかしラ?」

「ハッ、忍者の癖に1対1をご所望か、侍みてーだな」


ルイズの物言いを皮肉るようにユウセイが混ぜっ返すと、ルイズは顎に手を当てた。

まさかそこにツッコまれるとは思っても居なかったのだろうか。


「……確かに言われてみたらそうネ。ニンジャは乱戦でこそ活躍しているイメージがあるワ」

「だろ?」

「さすが盟友ネ、慧眼ヨ」

「……おーい、そろそろいいか?談笑するのは結構だが、戦いの後でもいいよな?」

「そりゃそうだ。【情報付与】対象:手の中の石 効果秒速500メートルで射出ゥ!」


先手を取るべくユウセイが放ったのは、いつも通りの弾丸石だった。もちろんそんなちゃちなものをランカーたるルイズが食らうはずもない。横っ飛びひとつで回避しつつ、走って肉薄してくる。

アウルユウセイの2人は眼を見合せ、散開する。二手に分かれて、狙いを分散させる……と言うよりかは、相手の隙を狙ってアウルの策を通すための時間稼ぎだ。

ルイズもそれは承知しているのかいないのか、ユウセイの方を追いかける。魔法で直接的に害することが出来るのはユウセイだから、ヘイトを買っているのだろう。

だが、精神的にそれをさせない。


「今だ!スニル!」

「スニル……!?」


突如告げられた人名のようなものに、咄嗟にルイズは急ブレーキをかけた。謎の戦術を仕掛けられる、とでも思ったのだろうが、それはアウルのハッタリだ。

ルイズが固まったその刹那、狙いすましたかのようにルイズでもユウセイでもましてやアウルでもない魔力が奔る。


「【精光弾クゲル・リヒト】ッ!!」

「なッ!」

「エディア!?」


どうやら彼女は気を失っていた訳ではなく、魔力を練りつつ隙を伺っていたようだ。駆け抜ける閃光の珠はルイズを持ってして予想外だったようで、止まっている時間が更に瞬伸びる。その隙は、刹那でありながらも致命的だ。エディアの光弾が肉薄、そのエネルギーを放出する。

ルイズほどではないものの小規模な爆発、土煙が立ち込めた。ルイズの華奢なシルエットは消えるが、この程度でやられるとは思えない。不意を突いた程度で、学院のランカーほんもののばけものを打ち倒せるのなら誰も苦労はしない。


「……やりました!?」

「エディア、それフラ────」

「───今のはだいぶヤバかったワ。完全に君のことを忘れてたかラ」

「やっぱフラグになってるじゃん……まあいい、まだもう少し時間を稼ぐぞ、アウル!!」

「ああ、頼んだ」


そうユウセイは叫び、飛び出していく。彼も化け物を前にして、怖いだろうに。アウルはとっとと終わらせようと、魔眼布にかけた指に力を込める。

ユウセイは何の考えもなしに飛び出した訳では無い。その手には、またも石が握られていた。


「ハッ、またさっきの投石?芸がないわヨ、盟友!!」

「そっちこそ、決めつけんじゃねえよ!【情報付与】対象:手の中の石 効果:21200!!」

「ナ、それハ……ッ!?」


腰だめに溜めた手を大きくフルスイング。等間隔にバラ撒かれた石は、ユウセイの残り少ないなけなしの魔力を使って、急激にその温度を上げる。急激な温度変化により、空気と周りに漂う粉塵とが反応、爆発が連鎖的に起こる!

情報付与によって、石を実質的に手榴弾として運用したのだ。ルイズは意趣返しのような一撃に、為す術もない。だが、これで生き延びてくる可能性は高い。いついかなる時も、悪い方を想定して動くのは常だ。

というわけで、石を放った後、飛び退ってアウルの方へと戻ってくるユウセイ。作戦通りのその行動に、アウルは魔眼布の下の眼を眇め、口の端を上げる。


「よし、ここまでは作戦通り……行ける!!」

「───────残念ネ。時間切れヨ」


爆発によって巻あがった粉塵は、数分も経たずに流れていく。

そしてその中から、不吉な声が響き、。ルイズのシルエット思しきものの前に、巨大な炎熱弾が、精製されているのだ。


「「ッ!!?」」

「私の魔力が切れてると思っタ?違うワ。アナタ達を一瞬で消し飛ばせるほどの熱量を圧縮してたのヨ」

「騙したのか……!」

「戦場に騙したもクソもないわヨ、覚えておきなさイ」


煌々と輝くソレは地面を、ドロドロに溶かしている。ある程度離れているはずのアウルですら、汗ばむどころか暑さで思わず服を脱いでしまいたくなる衝動が抑えきれないほど暑い。表面だけでこれなのだ、もしそんなレベルの熱弾が解放でもされて爆発すれば、この辺り一帯は軽く消し飛ばせるだろう。


「ハッ、これで終わりにしましょウ。【獄炎の術・閃ファイア・シュタイン】ー!!」


その熱弾が、割れる。刹那、爆発的熱量を内包する熱線が、光速で射出された。触れるもの全てを融解、溶融、蒸発させる最強の熱線。その暴威を前にして、ユウセイとアウルは、ニヤリと微笑った。


「【情報付与】対象:アウル・リヴァーネム 効果:10─────!!!」


アウルをユウセイの魔力が包み込み、一時的にアウル自身の魔力を10倍にまで膨らませる。

そして今まで体外に出ることのなかったアウルの魔力が、世界を書き換える。


「─────────────喰らいな。【魔眼エーゲン絶明ウェイズ瞬閃光サーシェマター】ッ!!!!」


刹那、余りにも眩すぎる、極光が生まれた。ソレは先程のルイズの火球に負けず劣らずの熱量が濃縮されているのをヒシヒシと感じられる。

そして、走る。疾走る。奔る。

その球体は隔絶的な極光線となり、空間を文字通りの光速で駆け抜ける。

迫り来るルイズの獄熱線に即座に衝突し、超大な爆烈が巻き起こる。それも、連続で。


これぞ、アウルの魔法。それは、眼力と呼ばれる概念的な恐怖を、現界にエネルギーとして顕現させる最後にして最強の切り札。

アウル自身の魔力量では賄いきれない消費魔力量を誇るソレは、何らかの方法で、アウル自身の魔力が増えることでしか発動できない。


「はあああああああああああああああッッ!!!!」

「死になさいッッ!!!!」


アウル、ルイズ。

2人の裂帛の叫びに呼応するように、2条の熱光線もその熱量を、光量を、エネルギーを増していく。

より熱く、眩く、強く。

周囲はもはや気にならない。

閃光と獄炎、眩い光が眼を焼き付け、灼熱が肌を焼き付けさせる。


その激突は、いっそ神々しかった。

天から降臨したかのような光の剣。

地獄から顕現したような熱の剣。

2本はその切っ先を、ぶつけ続ける。

その爆烈は、永遠に続くかと思えるほど濃密だ。


だが、そうはいかない。

アウルの極光が段々とその密度を減じているのだ。


「どうしたノ、弱くなっているわヨ!?」

「くぅぅッ……まだまだァ!!」


振り絞る。魔力の残り滓1つすら残さずに、余すことなくつぎ込む。

閃く極光、盛る灼熱。


どちらが勝つか分からないこの一撃は。


超絶的な光が眼を焦がし─────────────────────。











































そして、ほぼ同時に、2人は倒れた。

アウルはもう眼を瞑って、死んだように見える。


「フフ、起きたらすぐ捕まえて……」

「いや、俺たちの勝ちだ」


アウル諸共魔力を全て使い切って肩で息をしているユウセイが、そう呟いた。


10

「…………やらかしたわネ。時間を気にしなかったのが、悪、かった……の……かし、ラ」


そう言ってルイズは墜ちた。その様子を見届けたユウセイもエディアも、莫大な疲れでその場に倒れ伏す。

かくして、乱闘から始まる激戦は幕を閉じたのだった。

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