第39話 それぞれの決着 side:he 前編

アウルが現れてその布を降ろした瞬間、ユウセイはルイズの矮躯に魔力が充填されたことを感じ取れた。

ユウセイは、この世界に来てからまだ約1ヶ月ほどしか経っていない。その経験の浅さが、パーティメンバーに警告を送ることを阻害した。

そもユウセイは平和な日本出身。ゲーム等で反射神経は鍛えられていれど、本当の実戦をすることなど考えていない。


「まずっ……」


呟いたときにはもうすでに遅し。今しがた“眼力”によって意識を落とされたルイズの身体が、突如爆裂したのだ。轟音と熱波が地表まで届き、空中に黒黒とした煙が立ち込める。煙が出るということはなにかに火が付いたということだろうか。それはたぶん、近くにいたアウル、ルイズ、そしてスニルだ。


「大丈夫か!?」

「私はなんとか……」


慌てて叫ぶものの、エディア以外の声が帰ってこない。そして、何かが地面に堕ちてくる音が連続する。立ち込める煙は地表を覆い隠し、まるで舞台の暗幕のようだ。

煙が晴れるより先に、中から絶望が声を出す。その絶望は、可憐な声をしていた。


「フフ……やるわネ、アナタ達」

「なッ!?ルイズ……!!」


何故。生きているのか。何故、あのような爆発が起きたのか。何故。

ユウセイの頭を疑問が支配しかける。だがしかし、なけなしの理性が敵を前にしている事実を持って現実へと引き戻す。煙からゆっくり歩いて出てきたのは、やはりルイズだった。その衣装はボロボロになっていて、肌も所々火傷を負っている。

極めて冷静を努めて、構えつつ問うた。


「あの爆発はお前の魔法か……?」

「えエ、そウ。アレは、その名も【南無三の術ゼブツシュトゥーホン】。私が気絶もしくは致命傷にに近いダメージを受けたとキ、周りもろとも爆発する魔法ヨ」


なんという魔法か、まるでゲームのラスボスが、倒す直前の悪あがきとして使う初見殺しの技じみたものだろう。しかしその説明を聞いても、ルイズ自身が生き残る理由がわからない。そこまで考えて、ユウセイは一つ思い出した。この世界に存在する、異能力スキルのことを。


「お前が無事なのは、スキルによるものってか?」

「ご明察。詳しく言うことはないけド、だいたいそんな感ジ」

「─────────その衝撃で、気絶から起きたってことか?」


やっとこさ煙が晴れる。すると、左肩を引きずる、死に体ギリギリのアウルが立っていた。息も絶え絶えになりながらも、顔はまだ死んでいない。

よく生きていたな、という感嘆を込めて視線を送ると、伝わったのか彼が口を開いた。


「カレハとスニルが直前で押し飛ばしてくれたんだ」

「ハッ、咄嗟の行動にしては判断ミスじゃなイ?」

「よく言うぜ。俺の眼力は効いたろ?」

「……生意気にもネ」


アウルの眼力が効いたことがいたくプライドを傷つけたらしい。苦虫を噛み潰したような顔で、吐き捨てた。


「さテ、まだやるのかしラ?彼女はいなくなったけド……」

「やるに決まってんだろ、舐めるな」

「俺たちじゃ分不相応ってか?」

「その威勢やよシ、ネ」


アウルは魔眼布に手をかけ、ユウセイは魔力を強く意識する。

身構えるとほぼ同時に、ルイズが口を開いた。もちろん、煽りの言葉とともに。


「二人まとめて相手して上げるワ!かかってきなさイ!!」

「【情報付与】対象:手の内の石 効果:秒速400メートルで射出!!」


ユウセイの手の中に握られていた石の礫が高速で放たれ、空気を切り裂く。その音を開戦の法螺貝として、ルイズが走り出した。カレハとの激戦を見れば分かるが、彼女の武術はもはや芸術の域までに到達している。極めし者のそれだ。何の心得もないアウルたちはなすすべもなくボコボコにされるのが見える。

まず彼女はユウセイに狙いを定めたようだ。アウルは一旦無視して、直線的にユウセイの方へと駆ける。


「まずは盟友からネッ!!」

「捕まるかよ!【情報付与】対象:自分 効果:身体能力強化ァ!!」


魔力が閃き、ユウセイの逃げ足にギアがかかる。ルイズも魔力を励起させると思いきや、やってこない。やはり先程からずっと大技を連発していて、魔力が切れてしまったのだろう。

それを出汁に、ユウセイは逃げつつ口先で煽りに煽る。


「おいおい、魔法なしで挑むつもりか?流石に舐めてんだろ!?」

「それで十分なのヨ!」


いかなルイズでも身体能力を魔法で強化した人間には追いつけない、なんてことはない。ランカーというのは、全てが最強なのだ。ルイズの魔の手が爆速で近付き、ユウセイは逃げる方向を制限されてしまう。誘導というのは、逃げたくても逃げられないものを言うのだ。


「おい、ユウセイ……そっちは!」


思わずアウルが叫んでしまうが、彼はニカッと快活に笑って、忠告を聞き入れない。


「いいや。

「おかしくなったのかしラ?逃げ道がない森が狙いなんテ……」

「……そうか、武器」


ユウセイの狙いに先に気づいたのは、アウル。森ならばたくさん枝や葉っぱ、石などが落ちているだろう。それに情報付与を施し続ければ、森は天然の武器庫へと変換するのだ。

なるほど考えたな、と思い、アウルも何かあった時のためにそちらの方へさりげなく近付いておく。

逃げていたユウセイはいきなりクルリと振り返り、そこいらの地面に手を着く。ガサリ。

そして取りだしたのは、数枚の青々とした葉っぱだ。


「ハッ!今からこっちに誘導したことを、後悔すんじゃねぇぞ!【情報付与】対象:葉っぱ 効果:硬化、先鋭化!」


投げつける。薄く、独特な形状をしている葉っぱを、天然の手裏剣として運用したのだ。弾丸まで避けられるならば、弾道が独特のもので。そういう狙いだ。

手首のスナップを利かせて、回転をつけて飛ばす。


「あラ、ニンジャの私に手裏剣とハ。粋な攻撃ネ」

「お前は忍者を履き違えてんだ、よ!」


だがそれすらも避けられ、弾かれ、往なされる。小手先の勝負では埒が明かない。そうアウルは判断し、有効策を考える。


(俺の眼力が有効なことは実証済みだ。なれば俺の眼力をいかにして当てるか、っていう勝負だな……待て。ユウセイの能力って強化魔法だよな)


「ユウセイッ!」

「何だ!?」


アウルが叫ぶと、森の中で武器をちぎっては投げをしていたユウセイがこちらに向かってくる。その逃げ足は凄まじく、流石強化魔法と感嘆する。

ルイズもまさか攻めてる途中にほっぽり出して逃げるとは思っていなかったようで、一瞬呆けてしまっていた。


「ユウセイ、お前の魔法は【情報付与】、なんだな?」

「なんだ、今更。そうだが……」

「じゃあ、───────ってできるか?」


小さい声で問われたことは、確かにやれそうなものだった。しかし、それがあの化け物たるルイズに効くのか、と。

そこまで考えて、ユウセイは頭を降った。ここまで来て、ビビっていられるか。

コイツのことは、何となく分かってきたのだ。一蓮托生、呉越同舟。それを地で行くどころか嬉々として受け入れるほどの善性を持っている。それに当てられたという訳では無いが、日本人として期待には応えたい。

ならば。


「もちろんだ」


そうキッパリと、最初に出会った時のように言い切ったのだった。

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