第7話 上級生に鉄槌を

「なあ、アイツ等を逃がしてよかったのか?」


元々のパーティは6人だったのが、先程の妙に強い一年生二人によって三人がノックアウトされてしまったので、今は三人で森を歩いていた。

ちなみに、負けた三人はただ自身のポイントを吐き出しただけではあるので、戦力低下以外の影響は無い。男たちに仲間意識と言ったものは全くなさそうで、単純に戦力を削った相手にとどめを刺さなくていいのか、といったトーンの問いかけだった。軽く頷いて答える。


「ああ。あそこまでボコボコにすりゃ治るまでにそこそこの時間を要するだろ。こっちも人的資源を失ったのは痛手だが、まだ一人分のアドバンテージがある。それに……」


その先をリーダー格の戦斧の男は紡がなかったが、言わんとしていることは他の二人も分かった。男のスキルがあるし、まだ切り札がバレていない。とでも言いたいのだろう。仲間意識はあまりないとはいえ、二年近くパーティを組んでいたのだ。それくらいの意思疎通は言葉などいらない。


「さて、次の一年を狩りに行くか。ポイントが高そうなヤツから狙うぞ。矢のストックは?」

「まだまだある。俺のスキルならかなりの数持てるからな」

「了解。移動するぞ」


だが、そうは問屋が卸さない。


「ちょっと待ちなさい、アンタ等」

「それ以上は行かせねえよ。他の一年には手出すな」

「これはこれは……、くたばり損ないの生意気一年じゃねえか。どうした?さっきの一撃で懲りてねえのか?」


そう言いながらまさしく嘲笑といった笑みを浮かべる戦斧の男。カレハはそんな男に挑戦的な眼差しで、義憤の眼光をもって口を開く。


「アンタは確かに強いわ。だけど、その強さは仮初でしか無いわ。なぜなら、何も知らない一年生相手に人数と経験差でしかマウントをとっていないから。つまり、本人はたいしたことないのに相手には取り得ない角度からのアドバンテージだけよ。そんな奴らにアタシは負けない。そんな奴らを守護者にしたからあんなことが!だからアタシが守護者になる!アンタたちに勝って、アタシは誰もを救う守護者になるんだ!」


激発するカレハに感化されたのか、それともただ単純に図星を突かれて激昂しているだけなのか、ヒョロリとした男も眼窩に瞋恚の炎を燃やして、叫ぶ。


「……うるさい、黙れ!そんなもの現実を知らない戯言だ!俺のほうが正しいんだ!!」


瞬間、激突する。それは互いの信念の、正義のぶつかり合いなのかもしれない。

カレハは力強く、それは小さいクレーターができるほど強く踏み込み、自身の足を砲塔に、自身の身体を砲弾として射出した。そんなカレハを男は戦斧を横向きにして簡易な壁として衝撃を轟音を発しながらもかろうじて受け止め、振り払う。カレハはその振り払いで姿勢を崩しかけるも、上半身を固定する体幹で耐えきり遠心力そのままに風切り音を纏う拳を放った。しかしその高速の一撃はは避けられ、ただ地面を砕いただけにとどまる。撃ち切った後の前傾姿勢のカレハの背中に風切り音が迫り、それを倒れながら地面を転がることで回避する。倒れた姿勢から円月の蹴りを放ち、その遠心力で起き上がる。左の拳を唸らせ、顔を狙うが、横っ飛びで避けられた、しかし本命は右に握り込んでいた石だ。スナップを効かせたその石は男の脇腹を撃ち抜き、身体をくの字に折らせた。空気を大きく吐き出す男を無視してもう一発、腹に拳をぶち込もうとする。しかして斧が振ってくることを聴覚で捉えて、一旦引き下がる。


そんなカレハと戦斧男の戦いを横目に、アウルは避け続けていた。具体的には、矢の嵐と振り下ろされる棍棒である。


「どうした、一発も当たってないぞ?」

「お前も大概化け物だな……!目隠し野郎!」

「化け物扱いとは、傷つくな。お前らのほうが先輩なんだから、俺より強いやつくらい視たことはあるだろ?」


そろそろ矢も尽きてくる頃だろう。そう判断したアウルは避けつつも一気に駆け出し、射手の男に近づく。もちろん近づきながらも矢は襲いかかってくるので、それを余裕を持って回避しながらではあるが。

横でやっているカレハに比べたら遅いことこの上ないのだが、これでも全力なので、勘弁してほしい。男の目線を近づくことで引き付け、そのまま魔眼布を勢いよく下ろして、目線を合わせる。相手の怯えたような眼を見つめる。


「──」

「ほい、これでおしまいっと」


きっかり3秒間見つめ合い、それによって弓矢の男の意識を綺麗さっぱり刈り取る。男はその場に膝から崩れ落ち、白目を剥いていた。誰がどう見てもダウンした男をさておいて、すぐに魔眼布を元の位置に戻し、もう一人の、棍棒を持つ明らかに気弱そうな男子を見据える。


「あなたもアイツ等に協力してたんだろ。そんな許してほしそうな眼で見ても容赦はしない……と言いたいところだが、俺も鬼じゃない。あなたが今後一切卑怯な方法でポイントを稼がないと誓うのなら、ここは見逃そう」

「……わ、分かりました」


そう言いながら頷くのを見届けて、カレハの方を見やる。

そこでは。カレハが絶妙なステップで砕かれた石の弾丸を避け、そのまま拳を男に叩きつけるのが見えた。


「クソ……怪我してるくせに強えな……。あれを使うか!どうせ使っても分かりはしまい!」


そう言った瞬間、男の瞳がキラリと不気味な眼光を放つとともに、カレハの後ろにあった木の幹が爆散した。これで見るのは二度目だが、見えない拳にしては威力が馬鹿げている。これもスキルのなせる技なのだろう。

だが、その攻撃はすでに対策済みだ。カレハが不自然にフラリと身体を倒すと、瞬間後ろがまたも爆ぜる。フラリフラリと幽鬼のように身体をゆっくりと動かし続け、それをするたびに後ろの木々が爆発する。先程からの奇妙で不安定な動きは回避だったのだ。それが男にも伝わったらしい。男は輝く目玉を見開いて、驚愕の顔を作り出す。


「ッ!?何で軌道がわかるんだ!?というか、俺のスキルがなぜ分かる!?」

「生憎アイツがアンタの舐め腐った想像より頭が良くてね。アンタのそのスキルは、見えない拳を作り出すスキル、じゃないかしら?」

「……」

「当たりらしいわね」


自身のスキルの内容をピタリと当てられたことに驚愕しているんだろう。眼を見開いた顔のまま沈黙したことで、攻撃の手が緩まった。

その攻防の裡の刹那の隙を見逃すカレハではない。すぐさま男に近づき、掌底を顎へとクリーンヒットさせた。今までで一番の会心の一撃に、男は上方向に大きく吹っ飛んだ。


「ぼがぁっ!」

「戦闘中に油断するなんて、戦いの基本のきもなってないわ。やっぱり、アンタの強さは虚勢よ」

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