第45話 金策をどうしようか

「あり、高すぎた?」

「そうですよ!!」

「俺達を何だと思ってるんだ……」


四人全員から非難と呆れの眼を向けられて、流石に自分がいったことのえげつなさを理解したのかいないのか、ウィーナは申し訳無さそうに縮こまる。

200万といえば、一人頭50万ポイントだ。そう聞くとたいしたことないと思えてしまえそうだが、現実は違う。最も稼いでいるカレハですらおおよそ25なのだ。約二分の一である。全員が今のカレハの倍貯めないと行けないと考えたら、いかに無理難題かが伺えるだろう。


「すまねえ。でも、商売なんだ……」

「いや、分かりますよ。そのことは。でも流石に……」

「200万はねえ」


アウル達が衝撃の価格を告げられて絶句しているうちに、隣のフィズが口を挟んできた。その口調はおちょくるようなもので、矛先はウィーナだった。


「もしかしてウィーナさぁ、こいつら何年だと思ってん?」

「え、二年じゃねーのか?」

「ほら、そこだよ。多分こいつら一年だ」

「あっ、そうなん!?聞いてなかった!」


どうやら彼女はアウルたちのことを2年生だと思っていたらしい。だから金を吹っかけたのだろうか。2年だとしても吹っかけすぎでは無かろうか。

とりあえず相手方に自己紹介をさせて自分たちの紹介をしていなかったと、アウルたちは思い出した。


「言わなかった俺達も俺達ですね。この際だから自己紹介をば」

「俺達は『エーゲン・ラフト』。一年生四人で結成したパーティだ。以後お見知りおきを」

「すまなかった、二年だと思ってたわ。ふむ、一年生なら……160万ポイントでどうだ?」


沈黙が降りた。それはもう、とてもとても気まずいものの。一拍置いて、アウルたちの時が動き出す。


「いやだから高いですよ!!?」

「なんでそんな譲歩した感じで高い額を言えるんだ…………」

「え、これでもダメか?40万ならいけるだろ」

「確かにそうね。でも、まだ私たちは入って3ヶ月行くか行かないかくらいなのよ。そんな私たちが一人頭40万を稼げると思ってるのかしら?」


そうカレハが冷静に、諭すようにウィーナへと進言する。それを聞いたウィーナは、槌を握り続けてマメができている指を顎に当てて、言った。


「うーん、行けるんじゃね?」

「そうねこの人ポイント稼ぎの達人ランキング6位だったわ」

「期待した俺たちがバカだった」

「とにかく無理なものは無理なんですよ!」

「じゃあ、140万」

「キツイです、せめて100万」

「130万!」

「110万!」

「120万で手を打とうじゃないか」

「……1人頭30万ですか。まぁ、そのレベルなら1ヶ月ほどかければ行けると思いますが……」


どう思います?とばかりにエディアがこちらを見てくる。値段交渉を完全に任せた身としては、もうそれでいい気がするので、全員頷いた。


「じゃあ、120万でいいですよ。最大限の譲歩です」

「オーケー、交渉成立だな。値段に見合う、最高の業物を仕上げてやるよ、ルーキー共」


そう言って笑う彼女は、快活でありながらも深みを感じる、歴戦の雄だけが許される笑みをしていた。

彼女に向ける信頼は、もう揺るがないと確信できる、瞳だった。


「それで、いつ頃出来上がるんですか?終わって受け取るときに、支払いますけど」

「うーん……オイラの気分にもよるけど、3ヶ月くらいだな。これでも速いほうだぜ、オイラ」

「分かりました。なにか俺達に手伝えることがあれば仰ってください」

「その前にポイント稼ぎをしたほうがいいんやない?話の感じからして、ポイント全然足りないっしょ?」

「まあ、そうですね。効率の良いポイントの稼ぎ方があればいいんだが……」

「この塔で4年間過ごした俺が効率の良いポイント稼ぎの場所を教えてやろか?もちろんタダで、それに君たちが行ける階層で」

「……ポイント稼ぎの場所ですか。確かに、教えて貰えると嬉しいですね」


そう、唐突にフィズが提案をしてきた。もちろんタダと付け加えたのは、ウィーナに対しての当てつけであろう。フィズの人の悪さが伺える一言に苦笑しつつ、エディアが代弁して答えた。


「そうやろ、そうやろ。じゃ、教えたるわ」

「え、連れて行ってくれないんですか?」

「すまんな、この後予定が詰まってるんや。一緒したいのは山々なんやが、それはまたの機会っちゅーことで」

「それなら仕方ないですね。では、今度機会があれば。それで、その場所というのは?」


「ああ。そいつは──────────13階層。通称、『魔の13ゼファーリッチャー』さ」

「『魔の13』……」

「なんとも不吉な響きだな」


ユウセイは、魔という言葉と13という数字から、キリスト教についての云々が想起された。しかしそれとは流石に別だろう、ここまで地球文化あっちのぶんかが伝播しているとは考えにくい。またしても地球文化との一致に苦笑した。

その苦笑を名前の割に大したことはないのではという舐めだとフィズは勘違いしたようで、真面目な顔でユウセイに向き合う。


「あまり舐めない方がええ。あそこは上級生ですら近寄りがたい、本来上に有るべきの階層や」

「じゃあ、なんでそんなところをおすすめするんですか?危険じゃないですか」

「それは、そこの場所の危険性が故や。危険やが、もし帰還できれば本当に大量のポイントを得られる。それに、さっきも言ったろう?上級生ですら近寄らないんや。言い換えれば、獲物の横取りも発生しない」

「いわゆるハイリスクハイリターンだな。いいじゃねえか、な、アウル」


フィズの言葉を一言で総合して、パーティリーダーのアウルに眼線を送る。確認の意味だ。

冷静沈着のアウルが、頷く。


「ああ。ポイントを稼ぐに越したことはないし、この8階層から一階ずつどんどん攻略していけばかなりのアドバンテージになるはずだ。その階に行ってみよう」

「頑張ってな、後輩ちゃん。儂も陰ながら応援してるで」

「オイラは頑張って鉄打っとる、お互いに頑張ろな」


ウィーナのいたずらっぽい笑顔とフィズのニンマリとした笑顔。二つの上級生の視線を受けて、『エーゲン・ラフト』の四人は、ウィーナの工房に背を向けるのだった。




















「んで、ついていかなくて良かったのか?2

「後輩ちゃんの成長を邪魔しちゃあかんやろ。儂がでしゃばりゃ一瞬やしな。思いやりってーやつよ」

「はいはい。で、アンタの武器は後でいいよな」

「えー、先にやってくれや。速く誰か切り飛ばしたいんやが」

「おい後輩への思いやりはどこいったんだよ」


無言で肩を竦めたフィズに、ウィーナの拳骨が落ちた。その三白眼は半眼になって、呆れてるのは明白だった。


「いっっ!何すんねん!」

「アンタもさっさと出ていけ、集中できねえよ」

「へいへい。─────────────最後にひとつ、ええか?」

「んだよ」

「アイツら、どう思う?」

「せやな。だから声掛けたんやろ?」

「まぁな。多分アイツらはこの塔を変える、気がする」


─────知らぬ間に、アウルたちはランカーに目をつけられていくのだった。

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