第37話 眼力男の作戦

「それで作戦会議は終わったのかしラ?盟友ッ!!」

「ああ、存分にやったさ。お前を倒す!!」


お互いに叫び合い、その戦意を顕にする。間に炎の弾を挟んで、睨めつけ合った。多分ここが分水嶺、この一撃を乗り切れるかどうかがお互いの勝敗に直結するということをユウセイもルイズもひしひしと感じていた。もはやここまでくれば、パーティがどうのやアウルたちとの戦いがどうのだの、そういうことを宣うのは無粋だ。有るのは、負けたくないという純粋な願いだけ。

むき出しの闘志が、炸裂する。


「喰らえ!!【獄炎の術・珠クゲル・ヘレンファイア】ーーッ!!」


ソレが、動き出した。中空に光臨した太陽の如き超巨大な炎熱弾が、ゆっくりと堕ちてくる。離れているというのに真夏よりも暑い地上で、ユウセイ、アウル、カレハ、エディアは同じ眼で、その火球を迎撃せんと魔力を、眼力を、闘志を、高めていく。


「作戦通り行きます!【瞬精光条リヒトシュタイン】!」


魔力が光として、溜まっていく。すぐさま、1本の光条が太陽に向けて奔る。いざ向けられたらかなり太いように感じるはずだが、ルイズの炎弾が膨大すぎて、豆鉄砲と勘違いしてしまいそうだ。ルイズもそう感じたようで、鼻で笑って声を落としてくる。


「あラ、その程度の抵抗が作戦なんて言わないわよネ」

「ええ、もちろんです。貴女の魔力が異常なことは存分に伝わったので、今度はこちらの番ですよ。【瞬精光条リヒトシュタイン】!」


更にもう一本、光条が疾走り抜ける。元の一本も合わさり、より太く、力強いレーザーカノンとして太陽と見紛う炎弾を堰き止めにかかる。しかし、それでもやはりルイズの力はどうしようもないほど強大だった。光線がいくら太かろうと関係ないとばかりに、その落下は少し遅くなっているものの未だに落ちるものは落ちている。


「大言切った割に止められてないわヨ?」

「まだまだぁッ!全て注ぎ込みます!!【土光融合・隕閃クゲル・メテオリット】!!」


エディアは今までで一番の、魔力を放った。その魔力が現実を書き換えて、巨大な岩を生成する。小柄な彼女が生み出したとは思えないほどの岩石に向けて、さらに光条が放たれた。その衝撃によって、岩石が光の尾を牽いて吹き飛んでいく。まさに魔法名の通り、隕石の閃光のように。

その一撃はさしものルイズも予想していなかったようで、その眼を一瞬見開いて、しかしすぐニヤリとした好戦的な笑みを浮かべる。


「2属性の融合魔法……、なかなかネ」

「……これで終わりだと思っているんですか?」

「まさかこれ以上有るのかしラ?だとしても……」

「違いますよ。

「─────ッ!?」


そういえば。この女が攻撃し始めた頃から全くと言っていいほど他の3人の姿が見えない。火球で下の視界が遮られているとはいえ、それは不自然だろう。いや、盟友だけは見つけた。何か飲み物……ポーションを飲んでいるのだろうか。


「一体どこニッ!」


慌てて魔法のサーモグラフィーを起動するが、視界は真っ赤に染まっている。何故。


、ですよ」

「ッ……そうカ、私の魔法」

「気づくのが遅れましたね」


そういえば、この女は何故最後に溶けると分かっている岩の弾丸を放ったのだろう。……。


「まさカ……透明化ッ!?」

「その通りよ」


カレハの凛とした声が響いて、莫大な衝撃が炎のベールを襲った。紛れもなく本人が打ち込んだその一撃を契機に、カレハの姿が現れる。かなり勢いが強かったのだろう、かなり上に位置どっている。


「あの石の一撃はお前を発射するためのブラフだったのネ……やられたワ」

「でも、防いでるのは流石よね」

「本心から言ってル?そレ」

「まさか。それに、この程度でくたばらないでしょ?」

「そうネ。単騎で突進してくるなんてビックリヨ」

「ハッ、面白い冗談ね。単騎ですって?」

「だって熱の位置的にお前一人しかいな、イ……」


いや違う。ルイズの視界には、熱いと思われる場所が大量にある。


「フッ、私の魔法ですよ」

「光とエネルギーは熱を帯びるって、知らなかったのかしら?」


そう、エディアの得意技、光の弾幕だ。先程のレーザーもブラフで、エディアの魔力が切れたと錯覚させるためのものだ。更に中空にどんどん石が飛んでくる。エディアの土属性魔法だろう。


「ナイス、エディア!使わせてもらうわ!!」

「しちめんどうネ!この際ハッキリさせてあげル!」


カレハは体勢を変えて、そこいらに浮いている石を蹴飛ばす。それによって水中で壁を蹴って加速するようにカッ飛んでいく。ルイズへの人間砲弾は、彼女が炎の衣をはためかせて避けることでなかったことにされる。

が、それで終わるわけもない。飛んで行った先にあった石を一回転してから蹴り、方向転換してまたルイズを狙う。


「鬱陶しイ!コレで燃え尽きテ!【火遁の術ヒッツェ・ヴェトリブ】!!」

!」

「ハ?」

「解除だッッ!!」

「─────────喰らいな」


死の眼力が、ルイズを襲う。ルイズは咄嗟に腕を使って顔を庇うも、眼が合ってしまった。ビクリとその身体が震え、その忙しく動くはずの身体が止まっていた。

今起こったことを最初から説明しよう。ルイズが炎を操る魔法を身体の周りに放つ。すると、カレハと一緒に近づいて未だ透明化を解除していないアウルがその透明化を解除してもらい、必死の眼力を油断したタイミングで浴びせたのだ。

フラリとその姿勢が崩れ、保っていた炎のベールが掻き消える。


「今だ!!!」

「キュキュウウン!!」


トン、と彼女の身体が軽く押された。謎に着いてきていた、スニルが、ルイズの身体を押して、彼女を空中に押し上げていた上昇気流から外したのだ。

そのまま風を切ってルイズの身体は真っ逆さまに落ちていく。

ユウセイは笑んだ。


「俺たちの勝ちだ」


勝ち誇ったその瞬間に、爆発がルイズを中心に巻き起こったのだった。

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