6年後にまた会おう
爆殺魔エレノト。
彼女の悪行は数あれど、その中で最も有名なのは大帝国の皇帝を殺した事だろう。
彼女の武器は爆破。
魔法なのか、技術なのかは知らないが、とにかく爆破しまくるのが彼女の殺し方である。
暗殺とも言えない派手なやり口。しかし、その爆発の音が鳴り響けば確実に相手は死に至る。
この大陸で最も大きな帝国の皇帝すらも殺して見せたのだ。そんな化け物が、なぜこんな小さな村をぶっ飛ばすのかは分からないが、間違いなく彼女の仕業である。
「ふざけやがって。こちとら12歳の痩せこけたガキだぞ。荷が重すぎるだろ........」
犯人探しが思いのほか簡単に終わった事は喜ばしいが、それ以上に犯人がやばい。
これならまだ、犯人が村人であった方が何千倍もマシだ。
「........あれを相手にしなきゃならんのか」
村を救う事すらも諦めたくなる相手。しかし、借りを返さずに居るのは俺の生き方に反する。
俺は嫌々ながらも木の上で立つと、自分の首にナイフを当てた。
勝てるとは思っていないが、一応彼女に挑んでみるとしよう。
今の自分とあの殺人鬼の間に、どれだけの差が開いているのか。それを確かめておかなければ。
「また、昨日会おう。爆殺魔エレノト」
俺はそう言うと、自分の首を掻っ切った。
【ゴブリン】
緑色の肌が特徴的な魔物。冒険者たちのなかでは弱い魔物として知られているが、毎年のようにゴブリンに殺される冒険者は多い。
基本群れで行動しており、新人冒険者の練習相手でもある。強さとしては、成人男性ほどの強さ。舐めていると普通に死ぬ。
一日前に戻ってきた俺は、早速動き始めた。
エレノトは、爆破が起きてから村の正面に立っていたはず。
もう一度村を見捨てて、山の麓で待っていれば簡単に奴と相対することができるだろう。
もしかしたら、村が爆破されるよりも早く見つけられるかもしれない。
運良く殺せればそれでよし。もし無理なら、さらに前に戻って鍛え直す必要がありそうだ。
「ここで待っていればいいかな」
俺はそう言うと、山の麓にあった木の上に登り静かにその時を待つ。
カビが生えかけた硬いパンを齧り、その日の胃を無理矢理満たすと、俺は一旦仮眠をとった。
翌朝。
朝日が登り、俺は周囲の観察を始める。
爆殺魔がどこから現れるのか知っておけば、今後役に立つだろう。
問題は、勝てるかどうかだが。
しばらく観察するも、やはり姿が見えない。俺の予想では今いる反対側の山のどこかにいると思うのだが........
刻一刻と時間は過ぎて行き、気がつけば再び村が弾け飛ぶ時刻になってしまう。
俺は静かにその時が来るのを待ちながら監視を続けていると、空気を揺らす轟音と共に村が弾け飛んだ。
ドゴォォォォォォン!!
昨日も思ったが、凄まじい爆音だ。そして、今日は山の麓にいるためか、その熱も伝わってくる。
一体どんな方法で村を爆発させているのだろうか?
あんな複数箇所を同時に爆破できる魔法なんて俺は知らないぞ。
「........!!来た!!」
滅びゆく村を片目に、村の前に現れるはずである爆殺魔を待っていると、向かいの山からローブを被った1つの影が現れる。
顔を隠しても尻尾が特徴的過ぎて、嫌でも分かるな。
やつが、この村を滅ぼした張本人。エレノトだ。
彼女は村の真ん前まで来ると、被っていたフードを下ろして村を見る。
それと同時に、俺は動き始めた。
手配書で見た顔とそっくりだな。しかし、手配書よりも綺麗な顔をしている。
昨日........いや、同じ時と言うべきか?に見た時の彼女は遠すぎて白髪のように見えたが、どうやら白髪の中に赤い触覚のような髪が混じっているようだ。
そして、左側の額から1本の角が生えている。
竜人族と言えば、二本の角もその特徴として上げられるが、彼女は違うようだな。
「あら。この時間帯は全員村の中にいるはずなんだけど........調査不足かしら」
「爆殺魔エレノトだな?なぜこの村を焼いた」
ナイフを握りしめ、俺はエレノトの前に立つ。
もしかしたら別人の可能性もあったので、名前の確認は忘れずに。
「へぇ?こんな辺鄙な村にも私の名前は轟いているのね。私を殺して英雄にでもなるつもり?」
「まさか。俺は英雄だなんて器じゃない。だが、借りは返す主義でな」
「それはそれは。子供にしては随分と真面目な心がけじゃない。世の中を知らないのかな?ボクちゃん。この世界は借りたら借りっぱなしが基本よ?」
「それが嫌なんだよ。昔嫌った大人と同じになりたくはない」
彼女は自身をエレノトと認めた。つまり、最悪の敵が目の前にいるということになる。
ここで殺してもリアが既に死んでいるからやり直しは確定。それに、こうして直接対面して分かった。
こいつは俺がどれだけ鍛えても勝てるような相手じゃない、と。
あぁ、クソ。作戦を考える時間や鍛える時間も加味して、あと6年ぐらいは戻らないといけない。
15年巻き戻ってきたかと思えば、追加で6年か。
........15年の半分以下か。ならそこまでキツくは無いな。
死にすぎて感覚が狂っている俺はそんな事を思いつつ、ナイフを構える。
殺せるとは思っていない。だが、少しでも情報は集めさせてもらうぞ。
「ガキにしちゃカッコイイ姿をしてるじゃない。今なら見逃してあげるわよ」
「悪いが、こちらの事情でそれは出来ない」
「勇敢と蛮勇は履き違えてないかしら?それとも、実力差が分からない?」
「実力差を見極められなきゃ今まで生きてきてない。いや、それでも死んだんだがな」
「........?」
何を言っているのか、お前には分からないだろうな。
分からなくていい。どうせ6年前に帰るのだから。
俺はナイフを強く握りしめて、エレノトに向かっていく。
エレノトは呆れたような、どこか楽しそうな、そんな感情が入り交じった顔で俺を迎え撃った。
「遅い。遅すぎる」
「チッ!!」
突き出したナイフは当たり前のように避けられる。
フェイントもかけたはずだが、そのフェイントが意味をなさないぐらいには実力差がハッキリと着いていた。
紙一重の所で避けられているが、ワザとだな。
俺は持っていたナイフを逆手持ちに切り替えると、突き出した右手を横に振ってエレノトに傷を付けようとする。
「いいナイフ捌きじゃない。でも、脆いわね」
「........」
が、これは片手で抑えられる。
実力差があるとは分かっていたし、こうなることも分かっていた。が、実演されると絶望感が凄まじいな。
勝てない。どう足掻いても。
「今ならまだ見逃してあげるけど?」
「犯罪者の言葉に耳を貸すのは、本当にどうしようもない時だけだ」
俺はそう言うと、ナイフを離して持ち手を変えようとする。
が、動きが遅かったのだろう。
当たり前のようにエレノトは俺が手放したナイフを奪い取った。
「........こんなナイフじゃ私は殺せないわよ。なにこれ、錆び付いているじゃない」
「フッ!!」
「おっと。子供は元気でいいわねー」
ナイフを奪われようがお構い無しに拳を突き出す。少しでも逃げられないように足を踏もうとする。
しかし、全てが避けられる。
実力差とかそう言う話じゃない気がしてきた。そもそもの格が違うわこれ。
「まだ許してあげるわよ?私もそこまで鬼じゃないの。子供を殺す時は胸が痛いわ」
「どの口が言ってんだ。笑ってんぞ」
クソ。攻撃がまるで当たらない。
少しでも情報を引き出せたらと思ったが、引き出せたのは絶望感のみ。
俺は本当にこんなやつを相手にしなきゃならんのか?
逃げたくなってきた。
そう思いながら、俺は最後の最後まで攻撃を繰り出し(途中でナイフを返された)。疲れきったところで、自分の首にナイフを突き立てるのであった。
6年後にまた会おう。その時は、こんなに簡単に死んでやると思わないことだ。
後書き。
12時頃にもう一話上げます。
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