信頼稼ぎ


 冒険者になってから一ヶ月近くが経過した。


 この一ヶ月の間、俺はとにかく食料の安定的な確保に務め、できる限り腹一杯に飯が食えるようになることだけを考えていた。


 その結果、俺は腹一杯とは言わずとも最低限の食料の確保に成功。


 その日の狩りや調子によって多少は増減するものの、安定的な食料の確保が出来るようになったのである。


「罠を仕掛けまくったお陰である程度は食えるようになったな。偶にゴブリンが引っかかってるのは勘弁願いたいが」


 俺はそう言いながら、冒険者ギルドへとやってきていた。


 食料の確保に目処が立ったので、次は村での信頼確保に動くことにした。


 味方に引き入れるのは難しくとも、村八分にしろと言われたら渋るぐらいには仲良くなりたい。


 それができるだけで、かなり村での生きやすさが変わることだろう。


「おはようございます」

「ん?おぉ!!ノワールじゃないか!!冒険者になってから全く顔を出さなかったから心配したんだぞ!!」


 冒険者ギルドに入ると、ギルドマスターのグリーズが俺との頃までやってきてぺたぺたと顔を撫でる。


 随分と優しい手だ。こんなにも優しい手に触れたのは、いつぶりだろうか。


「ご心配をおかけしました」

「全くだ。どこで何をしてたんだ?」

「ちょっとやるべき事をやってました」


 流石にこの年齢で山に入ってましたと言うと、怒られる。


 冒険者は基本的にお互いのことには不干渉。口を濁せばそれ以上の追求は来ない。


「グリーズの奴、ノワールが心配で何度も家に足を運んでたもんな。その度にノワールが居ないって騒いでたっけ」

「俺たちにもその優しさを分けて欲しいよなぁ?」

「グリーズさん、意外と優しいんですね」

「ハッハッハ!!あんなに気分の悪いグリーズを見たのは初めてだったな!!」


 俺がグリーズに心配されていると、それを見ていた冒険者達が笑い始める。


 俺の自殺を止めてくれたガルエルと、あと知らない人が三人。


 1人は女性であり、魔法使いの格好をしている。


「当たり前だろ。まだ6歳の子供だぞ?心配にもなるだろうが。お前らも面倒を見てやれよ」

「同業者として色々と教えてやるか。つっても、村での仕事だろう?教えることなんてないけどな」

「村の中での仕事は安全ですからね。あ、ノワールくん、私はサリナです。よろしくね」

「俺はグレス。よろしく」

「俺はエミルだ。よろしくな」

「ノワールです。よろしくお願いします」


 やはり、この時点では皆俺に対してかなり優しい。


 俺の記憶では冒険者達も俺をいない存在として扱っていたような気がするから、俺が何かやらかしたか上からの圧力が掛かったのかのどちらかだな。


 俺がやるとしたら盗みだろう。食い物に困って最終手段に出た事になる。


 もし、6年後も一切村の様子が変わらなかったら、俺がやらかしたと考えて良さそうだ。


「なら、山に行くか?山の歩き方とか教えられるだろ。薬草の採取とかな」

「馬鹿言え!!ノワールにそんな危険な事をさせられるか!!冒険者ギルドは冒険者の命を預かってんだよ!!ゴブリンに殺されることが分かってるってのに行かせられるか!!」

「俺も反対だな。山の中は危険が多すぎる。俺達が1人前になるまで面倒を見るってんなら別だが、まだ体も出来上がってない今の時期に一人前になれると思うか?言っちゃ悪いが、俺たちの懐事情もある。面倒は見れても週に一度ならいい方だろ?」

「まぁ、そうだな........」


 なるほど。こういう経緯で過去の俺は山に入ることがなかったのか。


 それから六年後、俺は自分で山に入る。


 まさか、山に入った初日に村が吹っ飛ぶとは思ってなかったが。


「今は村の中でできる仕事を頑張ってもらうしかない。ノワール、もし仕事で分からないこととか、どうしても手伝って欲しいことがあったら言ってくれよ。できる限りは手伝ってやる」

「ありがとうございます」

「んじゃ、依頼を受けるか?一応、ノワールに幾つか仕事が来てるんだ」

「けっ、どうせ村長からだろ?村のやつが誰もやらない仕事を押し付けているだけの」

「冒険者ギルドは権力者からの干渉を受けないんじゃないのかよ」

「無理言うな。冒険者ギルドとは言えど、上手くやっていくには色々と気遣うところがあるんだよ」


 グリーズに見せられた依頼は全部で3つ。


 ドブ掃除と家の解体と畑耕しだ。


 報酬はどれも明らかに安い。どんな依頼なのか気になった冒険者たちも覗き込んでいたが、あからさまに顔を歪めていた。


「これだからあの村長は嫌いなんだよ。冒険者を下に見やがって」

「村長と言うよりは、おそらく夫人の方ですね。夫人のわがままを全部聞くような方ですから」

「それも含めてダメなんだよ。あの村長達がどれだけ嫌われていると思ってんだ?あいつらをよく思ってんのは、甘い汁を啜れる奴らだけだ」

「どうするノワール。正直受けない方がいいと思うが、この報酬なら野菜を2つぐらいは買えるぞ」


 村長、滅茶苦茶嫌われてんな。


 俺も嫌いだったが。


 ここで依頼を断ると村長との間にヒビが生じる可能性もある。だが、ここで依頼を受けると足元を見られるのも事実。


 断っても不自然では無い依頼内容なので、ここは断るとしよう。


 食料は確保できるしな。


「どれも受けません。報酬が安すぎる」

「........だが、ノワール。冒険者は働かないと食っていけないぞ?どうやって飯を........ん?そういえばお前、この一ヶ月間どうやって飯を食ってたんだ?」

「あ、そういえばそうだな。村人たちから色々と融通してもらってたなんて話も聞かないし」


 うーん。言うと怒られるだろうから、出来れば隠したかったが、山での活動を大々的に出来るようにする為に話してしまった方がいいか。


 一応、冒険者ギルドも冒険者達も俺を止める権利はないからな。


「山に入って色々と取ってました。その日の食事を取るぐらいはできますよ」

「何ぃ?!山に入っただと?!お前、山がどれだけ危険なところなのかわかってるのか?!」

「ハッハッハ!!すごいじゃないかノワール!!やっぱり男ってのはそうじゃないとな!!」

「山で飯が食えるようになるってことは、それなりに知識が必要だよな?俺もかなり苦労した記憶があったんだが........」

「あなたは馬鹿ですからね。ノワールくんは賢いんですよ」


 案の定怒り始めるグリーズと、笑い始める冒険者達。


 グリーズ、俺が思っていた以上に俺の事を気にかけてくれていたんだな。


 血も繋がってないガキにナイフをプレゼントしてくれるような人だ。優しいなんてもんじゃない。


「いいかノワール!!山には魔物っていう怖い存在が居てだな────」

「やめてやれよグリーズ。この一ヶ月間、山に入って無事に生きてるんだから魔物も見てるだろ。ノワール、緑色の人型の魔物を見たか?」

「ゴブリンですよね?見ましたよ。群れでいたので引き返しましたが」

「ほら見ろ。グリーズ、ノワールは既に立派な冒険者だ。心配なのはわかるが、過保護は嫌われるぞ」

「いや、だがな........」


 グリーズは引き下がらない。


「そんなに心配なら、今から一緒に山にでも行って来たらいいんじゃないか?そこでノワールの動きを見て決めればいいじゃないか?」

「は?いや、でも俺には仕事が........」

「グリーズが半日居ないぐらいで困るような冒険者ギルドでもないだろ。と言うか、俺達も今から山にはいるからみんなでノワールの活動を見てみようぜ」

「賛成です。これを機にノワールくんと仲良くなりたいですしね」


 こうして、俺の意思とは関係なくこの倍にいる全員で山へと入ることになってしまった。


 まぁ、みんな俺の心配をしてくれているし、ここでちゃんとやれば山での活動を許されるからいいか。




 後書き。

 今日はここまで。

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