生活の安定化
翌朝、俺は昨日作った罠を持って川に来ていた。
ここに来る途中、山の中で魚たちの餌になりそうなものを集め、罠の中に放り込んでおく。
これで魚が入ってきてくれるといいのだが........
まぁ、やってみなきゃ分からない。安定的な生活の確保の第一歩となってくれるのだろうか?
「と言うか、なんで俺は鍛えなきゃ行けないのに最初にやる事は食糧の安定化なんだよ。悲しくなってくるな」
今から鍛え始めても遅いと言うのに、最初にやっていることが食料の安定的な確保。
先ずは生存から考えなきゃ行けないとか、馬鹿げてやがる。
親がいないと言うことが、ここまで辛いとは。
世界は残酷だな。平等なんて言葉はない。
死すらも平等では無いのだ。俺に訪れた死は、何故か権利を放棄した。
おかげで今もこうして生きていられるからいいんだけどね。
「安定した食料確保か........金を稼いで村から買うのはもちろん、自力で栽培って手もあるが........栽培する場所がない」
やはり、山の中での採取がいちばん効率的と言える。その効率を高めるために罠を作ったりするのが1番だろう。
地道にやっていくか。
「魔力訓練だけは先にやっても問題ないか。今日から始めよう」
魔力は魔法の根源。
魔法陣を魔力で生成することによって、この世界に現象を引き起こす。
かなり便利な力であり、俺も未来では覚えていた。
しかし、魔法を使うためにはその元となる魔力をある程度自由に扱えなければならない。
その為には魔力の訓練が必要となるのだ。
先ず、体内の魔力を感じること。
次に、その魔力を体内で循環させること。
最後に、その魔力を体の外に出して魔力を操れるようになること。
これができて、初めて魔法を使うスタートラインに立てる。
特に、最初の魔力を感じることと言うのが難しい。人によっては、これだけで数年かかる程である。
俺はかなり強引な方法でやったな。魔法が使えるやつに、俺の体内に魔力を流し込んでもらうと言う荒業だ。
これは運が悪いと死ぬ可能性がある。
魔力とは、その個人によって質が違う。他人の魔力が混ざり合うことで、肉体にとって毒となる場合もあるので推奨されていないやり方なのだ。
だが、そのお陰で俺は魔力の感じ方を知っている。
どこから魔力が流れているのか、どのように魔力が循環しているのか。
その感覚を知っているだけで、魔力の感じやすさと言うのは変わるらしい。
6歳の間には何とか魔法を扱えるぐらいにまでは成長したいものだ。
「これでよしっと。後は木の実を採取して森の中を探索するか。孤立したゴブリンとか、動物を見つけられたら万々歳だしな」
俺はそう言いながら、山の中を歩いていく。
注意深く地面を見ながら歩いていると、あるものを見つけた。
「ウサギの糞か。見た感じまだ新鮮だな。近くにいるぞ」
このような動物の痕跡はあちこちに散乱している。それを頼りに獲物を探すやり方も、俺は未来で教わっていた。
昨日は見つけられなかった。一応何かが通ったあとは見つけたのだが、途中で痕跡が消えていて見つけにくくなってしまっていたし。
しょうがないと言えばしょうがない。狩りも時の運によって左右されるものなのだ。
糞の近くを探索していると、茶色の毛皮を持ったウサギが目に入る。
お、今日はとことん運がいい。あいつを捕まえれれば、今日の肉は手に入る。
狩りとは忍耐との勝負だ。明確な隙を晒すまで、静かにただひたすらにあとを追いかけて待つのである。
........弓も必要だな。手元に弓があったら、既に射抜いて殺してる。
未来の俺は、とにかく強くなろうとした。その際にありとあらゆる武器種の訓練を多少なりとも積んでいる。
弓はその中でも得意な方であった。
冒険者としてギリやって行けるぐらいには。
無言の時間が続く。
うさぎはピョコピョコ飛びながら、移動を続け俺が先程いた川へとやってきた。
水を飲む瞬間、視線が下がる。ウサギは耳がかなり良く、視界も広いが、上からの攻撃に弱い。
さらに、川があるから逃げる場所もある程度絞られる。
チャンス!!
俺はできる限り音を立てずにウサギに接近。
ウサギはこちらに気が付き逃げようとしたが、それを見越していた俺はナイフを投げていた。
右か左か。
「キュッ!!」
「よーし!!勝った!!」
右に逃げたウサギは見事俺の投げたナイフに命中。新品同然のナイフに突き刺されたウサギは足をやられたらしく、動けなくなっていた。
これ、刺し所が悪かったらこのまま逃げられてたな。しまった。未来の時はよくやってたからつい........
「直さなきゃいけない癖が多くて困る」
俺はそう言いながら、ウサギが逃げられないように首元を抑える。
つぶらな瞳が俺を見つめ、涙ながらに見逃してくれと訴えてくるが、悪いな。この世界はどこまで行っても弱肉強食。
俺は生きるためにお前を殺さなきゃならないんだ。
「その命、余すことなく頂くよ」
俺はその目を真っ直ぐ見つめ直し、ウサギの首にナイフを突き立てるのであった。
その後、ウサギの解体を済ませ、肉を焼く。
味付けをしていないただの肉であったが、今の俺からすれば超高級品。
最近食べた肉がゴブリンの肉だったこともあって、俺は久々に飯を食って涙した。
うめぇ........ウサギうめぇよ。
その日の夜。俺は村人達から逃げるように家に帰ると、持ち帰ったウサギの肉を貪る。
久々に腹いっぱいに肉を食べれて、俺は兎に角機嫌が良かった。
さて、このままて寝しまいたいところだが、今日からコツコツと魔力訓練を始めなければ。
それと、肉体の訓練も。
「背筋を伸ばして胡座をかき、そして両手を膝の上に置いてへその下辺りに集中。ここが魔力のたまり場。ここの魔力を感知するところから、魔法使いへの道は開ける」
未来で教えてもらった魔力の感じ方を思い出しながら、俺はへその少し下辺りを意識しつつ目を閉じる。
この場所に戻ってくる前に既に魔力を感じていたためだろうか。15分もすれば、モヤモヤとした何かが自身の体内でゆっくりと動いていることを感じ始める。
まだ鮮明に魔力を感じられている訳では無いが、それでも大きな進歩だ。
未来の俺はこの段階に行くことすら出来ず、仕方がなく最後の手段を使ったのだから。
「いい感じだ。確か、感覚が敏感な子供の方が魔力を感じられるって聞いたこともあるし、もしかしたらそれも作用しているかもな」
そんなことを呟きながらさらに15分。俺の中にあったモヤモヤが徐々に鮮明になっていく。
が、ある程度のところまで行くと止まってしまった。
流石に一日で魔力の全てを把握するのは無理か。
また明日、訓練するとしよう。
「今日はこの辺にして寝るか。生活が安定し始めたら、村人たちとの交流と装備を整えないとな」
後は、村長をどうするかも考えね置かなければ。
あまりにも邪魔になるようなら、始末することも考えた方がいい。
大義のための犠牲とかそういう綺麗事を言うつもりは無い。邪魔だから排除する。それだけだ。
未来でも当たり前のようにあったしな。目障りなパーティーを事故に見せ掛けて殺すとか。
仕事を選んでられなかった時期に後始末の仕事を受けたことがあったが、あんな風にはなりたくはないと思ったものだ。
「それになりかけているってのは、皮肉なのかねぇ。でも俺は、恩は恩で仇は仇で返すと決めてるんだ。相手が誰だろうがな」
俺はそう言いながら硬い床に倒れ込む。
そして明日の朝日が拝めることに感謝しながら目を瞑るのであった。
そんな生活から、一ヶ月が経過した。
後書き。
12時頃にもう一話上げます。
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