六歳児冒険者


 死に癖と言う、普通に生きていたらまず付かないような癖がついていた事を知った俺は、少しショックを受けつつも無事に冒険者となった。


 ナイフを取り上げられなくてよかった。


 自殺を測ったからという理由でナイフを取り上げられるような事態になれば、またやり直すことになってしたかもしれない。


 そんなアホな理由で死に戻るようなことはしたく無かった。


「まさか死ぬ事が癖になるだなんて........人間って恐ろしいな」


 人の癖と言うのは、思っていた以上に無意識にやってしまうらしい。


 この癖をちゃんと直さないと、どこかで絶対に失敗する。


 そう心に刻みながら、俺は山の中を歩いていた。


 冒険者としての初仕事........と行きたかったのだが、俺に任された依頼は村の中での雑用ばかり。


 しかも、古くなった家の解体や、井戸の掃除など元々の報酬が少ない上にどう考えても割に合わない。


 村での評価を上げるという点においては感謝されそうだし、使い道もある。


 だが、今はそれよりも食糧の確保を優先するべきであった。


 食料確保が最優先。子供の頃の食生活で今後の成長が決まる。


 6年後にはあの殺人鬼とやり合わなくてはならないのだ。あの馬鹿げた奴とやり合うためにも、体作りは必須である。


「お、あったあった。あまり美味くはないが、一応食える木の実だ」


 出来れば肉が欲しいものの、孤立したゴブリンを見つけるのは難しい。


 基本的に群れで行動する彼らから偶然はぐれたヤツを見つけなければならないとなると、本当に運まかせとなるのだ。


 当面の目標は、ゴブリンの群れを1人で狩れるようになることだな。


「薬草もあるな。ギルドで買取ってくれるから金になるし、怪我をした時の治りが早くなる。幾つかは保管しておくか」


 この村はド田舎な上に閉鎖的な場所だが、山に囲まれていて資源だけは豊富にある。


 山の麓で木を取ってこいなんて言う依頼をされたこともあるしね。


 お陰で食い物の確保は難しくない。だが、肉の確保だけは厳しいのである。


「動物もいるのはいるけど、税関系でかなり取られて数日分の食料にしかならない。後、ゴブリン達よりも本能が強いから、直ぐに逃げられる。鹿狩りとかはしない方がいいか。少なくとも、罠が作れるまではお預けだな」


 動物の確保も考えたが、奴らはゴブリン以上に手強い。


 ゴブリンのように攻撃してくるのではなく、逃げに徹するので捕まえられないのだ。


 ちゃんと罠を敷いて、相手が飛び込んでくるのを待った方がいいのである。


 しばらく森の中で今日の食料を集めていると、山から流れる川の近くにやってきた。


 丁度いい。喉が渇いていたし、喉を潤すとしよう。


 手で水を掬い、喉を潤す。


 冷たく冷えた水は、俺を生き返らせているかのような感覚に陥らせた。


「........あ、魚がいるか」


 と、ここで俺は気がつく。


 そうだ。肉以外にも食料を確保できる方法があるじゃないか。


 魚は肉の代わりになり得る。罠も作りやくす、そして大体焼けば食える。


 塩があれば尚の事いいが、この村で塩は貴重品。


 味は落ちるが、腹は膨れる。


「作り方は昔、教わったな。東側の島国出身の奴がよくやってたっけ」


 昔と言うか、未来なのだが。


 俺は早速そのことを思い出しながら罠を作ることにした。


 冒険者は取ってきたものを換金して税を納めているが、実はその場で取って食べたものに対しては税が掛からない。


 当たり前だ。誰もそいつが食べたものを把握なんてできやしないんだから。


 ここが農民との大きな違いだな。黙って食えば、バレないのである。


 動物もその理論で行けば納める必要は無いのだが、持ち帰った分は税として徴収させられる。


 ウサギのような小さな動物ですら、結構な量の肉になるからな。隠して持ち帰れればいいが、今の俺には監視の目が多い。


 森の中に隠せば別だが、それができそうな場所をまだ見つけていない。


 そのうち山の中に住もうかな........そっちの方がいい気がしてきた。


「えーと、水に強くてしなりのある木の枝、もしくは薄く引き伸ばした強度のあるもの........この木は確か頑丈だったよな。皮が水に強くて家にも使われていたはずだし」


 古い知識から無理やり捻り出して、俺は早速罠の作成に取り掛かる。


 俺は弱い。しかし、手先だけは昔から器用だった。


 気に登って枝を大量に確保すると、ナイフで傷を付けて皮を剥がす。


 そして、教えてもらった通りに皮を編み込んでいく。


 出来れば大きめの魚が取りたいところだが、あまり大きくしすぎると頑丈さに欠ける。


 適度な大きさが大事って言ってたっけ。欲張り過ぎず、それでいながらできる限り欲張れって。


 入りやすく出にくい罠を作らないといけないから、入口は小さくしつつ返しを作って........


 久々にやった為か、思いのほか時間が掛かる。


 未来ならば半日足らずで作れたはずなのに、今は半日すぎても完成しなかった。


 日が沈み始め、山の中が暗くなり始めた頃。


「ようやく出来た........皮を剥がすのに時間がかかったな。力が足りてない」


 ようやく罠が完成した。


 確か、ウケとかいう名前だったはずだ。


 もっと時間をかけたら、馬鹿みたいに大きな罠が作れるかもな。


 やり過ぎると怪しまれるが。


 この川は村の方に続いている。そこで魚が取れないなんてことになれば騒ぎになるだろう。


 程々に取らないとな。


「後は餌の確保だけど........明日にするか。今日は木の実を食って凌ぐしかないな」


 当時の俺ならば、この木の実すら確保できなかっただろう。知識が無いから、この木の実が食べられることすら知らない。


 冒険者は知識が重要と教えてくれたベテランの冒険者は正しかった。彼が気まぐれに言ったその一言で、俺はあの日まで生き残れたのだから。


 まさか、ぶっ刺されて殺されるとは思わなかったけども。


「........あまり腹は膨れないわな。まぁいいか。食えないよりはマシだし」


 家に帰り、木の実をかじる。


 空腹には慣れている。何も食わずに二日三日過ごした事だってあった。


 それに比べりゃ食えるだけマシ。明日は魚を誘き寄せるための餌と、もっと安定した食料確保のために動くとしよう。


「冒険者じゃねぇなこれ。ただのサバイバルだ」


 魔物を倒し、金を稼ぐ。それが冒険者としてのあり方なのに、俺はその日を生きるために飯を集める。


 こんな調子で俺は6年後までに強くなれるのだろうか?


 俺はそう思いながら静かに眠るのであった。




【筌(ウケ)】

 うえ、とも呼ぶ。河川,湖沼,浅海の水底において魚道の要衝に敷設し,魚類の性質を利用してその中に陥穽せしめて捕獲する漁具。捕獲対象の魚種によって大きさや形は多様であり,その名称も胴など地域によって色々。

 竹や樹枝などの細棒を縄や蔓などで編んで筒状にし,その一方を緊縛し他の一方に口を設け,そこから入った魚が脱出できないように漏斗状のかえしなどを付けている。




「ふんふふんふふーん♪」


 機嫌の良い鼻歌がその街の外で鳴り響く。


 街の人々はそれが始まりだとは知らない。


 街の人々が自分達の死を察した時には、既に全てが終わっていた。


「ドーン」


 ドゴォォォォン!!


 凄まじい爆音と共に、街が弾け飛ぶ。


 爆殺魔エレノト。


 彼女の名前を知らない冒険者は存在しないとすら言われている、世界で最も有名な指名手配犯。


 彼女が通った場所には草木のひとつも残らない。


「これで仕事は完了ね。全く、あのババァも困りものだわ」


 エレノトはそう言うと、焼け落ちた街を見てつまらなさそうに鼻を鳴らす。


 そして、その場を後にするのであった。






 後書き。

 ごめんなさい。投稿遅れました。

 今日はここまで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る