ガルエルと名乗ったおっさんの冒険者。


 彼がこの村でどのような立ち位置かは知らないが、彼の信頼を得ておくことに越したことはない。


 信頼、信用と言うのは、あればあるだけいいのだ。


 その分、信頼や信用が崩れた時が怖いが。


 あまりにも信用を得すぎても今の俺では持て余す。程々に信頼を稼いで、本当に困った時に助けてもらえるぐらいにしておくか。


「それにしても、本当に6歳で冒険者になるんだな........俺が6歳の頃なんてそこら辺を走り回ってたってのに」

「ガルエルさんは何故冒険者に?」

「ん?俺の所は兄弟が多くてな。4人兄弟だ。1番下っ端の面倒までは見切れないって言って、口減らしの為に冒険者にさせられたのさ。でも、最初の稼げなかった頃は親も支援してくれたし、お前ほど大変な人生ではなかったな」


 とりあえず当たり障りのない会話を振る。


 小さな村や街によくあることだが、子供が出来すぎて面倒を見きれず冒険者になるケースは多い。


 誰かと結婚出来ればいいのだが、その間は自分たちの家で暮らすことになる。


 家族が多いとそれが大変なのだ。


 村から上京してきた冒険者パーティーと話したことがあったが、似たような理由で彼らも冒険者になっていたしな。


「ま、今となっちゃ自由でやりやすい仕事だとは思っているよ。命懸けだがな。税金も冒険者になれば緩和されるし、悪くない........って言っても分からんか。今日から冒険者になるんだろ?グリーズが言ってたし。俺が案内してやるよ」

「よろしくお願いします」


 ガルエルはそういうと、“着いてこい”と言って冒険者ギルドの扉を開く。


 6年後は少し古びていたが、今は多少綺麗だな。


 汚さは所々に見えるが。


「よぉ、グリーズ。ノワールが外にいたから連れてきたぜ」

「お、来たな。昨日ぶりだなノワール。頭の整理はついたか?........いや、急に言われても困るわな。ようこそ冒険者ギルドへ。本来は子供が入るような場所じゃないが、歓迎するぜ」

「よろしくお願いします」


 少し若返ったグリーズにぺこりと頭を下げる。


 6年後は白髪が目立つ姿をしていたが、今はまだおっさんで通る見た目をしていた。


 俺の記憶にあるグリーズは白髪のおじいちゃんなんだよな。6年という歳月は人を大きく変えるらしい。


「早速登録しちまうか。本来なら銅貨五枚が必要なんだが、その分は村長が出してくれたしな」


 銅貨五枚か。今の俺じゃ出せない金額だな。


 銅貨はこの世界の金である硬貨のひとつであり、下から鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨となっている。


 100枚で1つ上の硬貨と同じ価値であり、商人や金持ちでもない限り銀貨までを使うことが多い。


 俺も金貨なんて持ったことは無い。


 街で四人家族が一月暮らすのに大体銀貨20~30枚と言われている。


 多分、1番使う機会が多いのは銅貨だ。


 ちなみに、冒険者ギルドは税金の支払いを代行してくれている部分もあるので、報酬で貰った金は好き勝手に使って問題ない。


 社会の底辺達が多く集まる組織だ。税金関係で目をつけられると面倒だから、ギルドで先に処理した方が結果的に安全なんだろうな。


「けっ、どうせノワールを冒険者にして村人達の支援を無くさせてやるのが目的だろう?あの村長夫人はやることが汚ぇ。振られた理由がノワールにあるとでも思ってんのか?」

「おい、ノワールに聞こえるだろ。子供とは言えど、内容が分からずとも何となくの雰囲気は察するんだぞ」

「分かってるよ。ノワール、何か困ったことがあったら俺達に相談するんだぞ?」

「はい」


 やはり、6歳の頃は俺に対する態度も柔らかい。


 俺、一体どんな事をやらかしたあそこまで嫌われる様なことになったんだ?


 ダメだ。思い出せない。


 その日を生きるのに精一杯すぎて、苦しかった記憶しかない。


 もしかしたら、村長が村八分にしろとか言ったのか?


 もしそうなら、今後急に村人達の態度が変わるはず。


 とりあえずは、礼儀正しい子供としてやっていくとしよう。


「ノワール、ここに拇印をお願いできるか?」

「拇印がそもそも分からんだろ。ノワール、手をかせ」

「はい」


 拇印ぐらいは分かるが、今の俺は6歳児。


 当時の俺が拇印を知るはずもないので、ここは大人しくガルエルに手を出す。


 親指にインクを付けて、ペタッと紙に押し付ける。


 これで、冒険者登録は完了だ。後でギルドカードと呼ばれる証明書が発行されることだろう。


「よし。これで晴れてノワールも冒険者だ。一応、規則は伝えておくぞ。何が何だか分からんとは思うが、これも仕事なんでな」


 その後、事務的に冒険者の規則が伝えられる。


 冒険者の仕事内容や、依頼の種類、冒険者の階級などだな。


 冒険者には階級が存在する。


 当たり前だが、俺のようなガキとガルエルが同じ冒険者として扱われる訳では無い。


 優秀なやつは上の階級へとなり、場合によっては下手な権力者よりも権力を持つこともある。


 現在の俺は鉄級冒険者。一番下の階級だ。


 下から、鉄級、銅級、銀級、金級、白金級、ミスリル級となっている。


 21年後の俺は銅級冒険者であった。


 その歳になれば基本的に銀級冒険者に上がってもおかしくなかったのだが、昇格試験を受ける機会がなかった。


 まぁ、30近いオッサンよりも、未来ある若者の方を優先したのだろう。


「────以上が冒険者の規則だ。とは言っても分からんだろうから、徐々に覚えていこうな」

「はい」

「それと、これは冒険者祝いだ。安物のナイフだが、この村で活動するには十分だろ........正直、子供に刃物を渡したくはないんだがな」

「気をつけろよ。ここの鋭い部分を触ったらスパッと切れるからな。痛いなんてもんじゃないぞ。最悪指が無くなったりする」


 グリーズは嫌そうな顔をしながらも、冒険者として生きていくなら必ず必要になるナイフを俺にプレゼントしてくれた。


 もちろん、抜き身の状態ではなく、皮の鞘に入った状態で。


 これひとつで銅貨20枚ぐらいはしたはずだ。安物と言えば確かにそうだが、今の俺からしたら高級品だな。


 俺は“ありがとうございます”と言ってナイフを受け取る。


 ナイフを抜くと、綺麗な刀身が姿を現した。


 俺と共に時代を遡ったある意味の相棒。サビを落として手入れをしながら21年後も俺が使っていたとはグリーズも思ってないだろう。


「ちょ、何やってんだよ!!」

「おい!!馬鹿かお前は?!」

「へ?」


 相棒が手に馴染むなと思っていると、急に俺の手を思いっきり掴まれる。


 何か変なことでもしたか?と思いガルエル視線を向けようとして俺は“やっちまった”と後悔した。


 7665回以上死んできた。


 目が覚めたら喉を切り、目が覚めればナイフを手にする。


 そんな日々を何度も何度も続けてきた俺は、自分が意識してない内に首にナイフを突き立てる癖がついてしまったのである。


 6年後の時は意識をしていたから良かった。


 しかし、今は完全に気が緩んでしまっていたのだ。


 俺は、無意識の内にナイフを自分の首に突き立てようとして、ガルエルに止められていたのである。


「何してんだお前は!!んな事したら死ぬんだぞ!!」

「........ナイフは早すぎたか?いや、それよりも、ノワールの精神状態があまりにも宜しくないのか。ガルエル。あまり怒るな。気持ちは分かるがとりあえずその手を離してやれ」

「だがよぉ!!」

「ガルエル。四歳で親をなくし、6歳で冒険者にさせられたんだぞ?ノワールの精神状態がどうなっているのか、想像できるか?」

「........はぁ。分かったよ」


 その後、俺はちゃんと叱られつつも、生きることの大切さやら何やらを聞かされ続けるのであった。


 やばいな。死ぬ事が完全に癖になっている。これは早めに直さないと、また同じような事をするぞ........





 後書き。

 12時頃にもう一話上げます。

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