27年の経験
俺が山で活動できるようになるかどうかと言う今後を決める重要なこの場面。
俺がやるべきことは、とにかく一人で山に入っても安全に動けるのかという点に尽きる。
ゴブリンや魔物を倒す必要は無い。冒険者達が俺を見て“山でも行動できる”という事を理解してもらえれぼそれでいいのだ。
というわけでやってきたは山の中、村の東側にある比較的安全と言われる山に入った。
俺の後ろを着いてくるのは5人。
冒険者ギルドにいた全員が俺の後ろを着いてくる。
「歩き慣れてるな。山での歩き方を理解してる」
「まだ山に入って一か月とかだろ?凄いな」
「新人の頃なんて歩くことで精一杯の筈なんですがね........」
サクサクと山の中を歩く俺を見て、ガルエル達は驚きを隠せずにいた。
そりゃそうだ。つい一ヶ月前に冒険者となったばかりの新人、それも6歳の子供がスタスタと山の中を歩いているのだから。
俺が初めて山に入った時は、歩くだけで精一杯。こればかりは経験が全てを解決する。
肉体は過去に戻っても、俺の記憶は引き継がれている。
記憶は人の体を無意識に動かす。山での歩き方もその記憶通りに行うだけでいいのだ。
「ん、薬草」
「........しかも、売れる薬草まで理解してるぞ。グリーズ、もう認めてやってもいいんじゃないか?」
「いや、魔物に対してどう対処するのかを見るまでは安心できん」
「お前なぁ........」
道中に薬草を見つけ、採取をする。これは10枚一束で銅貨な5枚とかになるから、割と馬鹿にで来ない金額となる。
薬草は色々なところで使い道があるから、値崩れを起こしにくいのが魅力だな。その分単価が安いが。
ちなみに、あの村長が指名以来として出てきた以来の報酬は銅貨10枚とかだったりする。
冒険者を舐めてんのか。薬草を20枚集めるだけで手にできる程度の報酬で、仕事を受けるわけねぇだろ。
グリーズもおそらくかなり交渉してくれただろう。冒険者ギルドは冒険者をこのような不当な契約から守る役割もある。
しかし、ここは閉鎖的な村であり、冒険者ギルドは村に置かせてもらっている立場。
田舎の村とかになると、立場が逆転して依頼を飲まざるを得ない時もある。
俺はそれを責めるつもりは無かった。
グリーズにもグリーズの立場がある。俺としては不服だが、要は受けなければいいだけの話だしな。
指名以来はその依頼内容や報酬に納得出来なければ引き受けない選択もできるのだ。
まぁ、それで報酬金を跳ね上げようとする輩もいるので、色々と問題になってたりするのだが。
そんなことを思いながら山の中を歩いていると、地面に足跡を見つける。
僅かに凹んだ土の形からして、恐らくゴブリンだ。しかも、群れからはぐれた可能性が高い。
足跡が一体分しかないのがいい証拠だ。
「静かに。魔物を追う」
「........(頷く)」
魔物は何かと敏感だ。ゴブリンは割と鈍感な方として扱われるが、下手に音を立てれば気づかれる。
俺は後ろで雑談をしていた冒険者たちを黙らせると、そのまま静かに足跡を追い始めた。
「魔物の追跡?おい、グリーズ。あいつ本当に新人冒険者か?」
「誰から教わったんだ?誰か教えたか?」
「いや、そんな話聞いてねぇ」
「私も聞いてませんね」
先程よりも声量を落とした会話が聞こえてくる。
こちとら27年分の経験を持った6歳児なんでな。
俺は口に出さずそう思いながら足跡を追跡。
途中見失いかけたが、ゴブリンの動きを予想して移動したのが良かったのか無事にゴブリンの元へと辿り着けた。
どこから調達してきたのか分からない棍棒を持ったゴブリン。予想通り村からはぐれたのか、一人でキョロキョロとしている。
俺はこの場にいる全員に“その場で待ってろ”と言うジェスチャーを送ると、ゴブリンの裏に回り込んだ。
子供の体というのはこういう時便利だ。
木々と少し背の高い草に身を隠し、素早く移動できるから。
そして、後ろに回り込むと足元に落ちていた石を投げる。
コン、と木に石を当てて、音を出すことによってゴブリンの注意を逸らすのだ。
頭のいい魔物ならこの時点で何者かがいると察するが、ゴブリンは有難いことに頭は弱いのである。
「グギャ?」
音に釣られたゴブリンが、音の方に動く。
その瞬間、俺はゴブリンに急接近して首にナイフを突き刺した。
そして、ナイフを引き抜いて素早くその場を離れる。
6歳児にゴブリンを一撃で殺し切る筋力はない。
出血死を狙うのが、最も有効的であるのは間違いないだろう。
食料の安定化がある程度できたので、鍛え始めているが効果が現れ始めるのは数ヶ月後とかだからね。
「ゴポッ!!」
「血が喉に入って声が出ないだろ?わかるよ、俺も嫌という程経験したからな」
的確に喉を切り裂いてやったのだ。あのゴブリンはもう助からない。
あとは静かに死にゆく様を見ているだけでいい。
1分後、ゴブリンは多量出血と窒息により息絶える。
6歳になってから初めて魔物を殺したな。
「マジかよ。ゴブリンを殺しちまったぞ」
「ゴブリンの特性をよく理解している。ノワール、お前誰かから魔物の殺し方でも教わったのか?」
「まぁ、ちょっとね」
教わったよ。未来で。
流石にそんなことは言えないので言葉は濁すが。
俺はゴブリンの死体が本当に死んでいるのか確認するために、石を投げてゴブリンに当てる。
反応がない。ただの屍のようだ。
なら解体してしまおう。
「グリーズ、買取は右耳と魔石、牙だったよね?」
「お、おう。よく知ってるな........」
念の為に買取場所の確認を済ませた俺は、右耳を削ぎ落とし、牙と魔石も回収する。
そしてゴブリンの両腕を切り落とした。
「ん?ノワール、ゴブリンの腕は買取じゃないぞ?」
「あ、これは俺が食べるから大丈夫」
「「「「えっ........」」」」
ピシッと空気が凍りつく。
全員の顔があからさまに青ざめる様は、見ていて少し面白かった。
俺だってこんなクソまずい肉を食いたくは無いが、貴重な食料になってくれるのだ。
焼けば一応食えるし、贅沢は言ってられない。
俺は早くから体づくりをしなければならないのだから。
「く、食うのか?いいか、ノワール。ゴブリンの肉は食えたもんじゃねぇ。クソまずいんだぞ?」
「そうだよノワールくん。ゴブリンのお肉は本当に切羽詰まった時しか食べないのよ?」
「でも、貴重な肉だし、不味くても食えるから食べるよ。とりあえず腹が膨れればそれだでいいんだ」
「「「「........」」」」
切羽詰まってるから食べるんだよサリナ。俺だって好きで食ってる訳じゃない。
ゴブリンを食えるだけまだマシだって生活してるからな。ある程度食料の安定はしているが、肉を確保出来るのは三日に一回あればいい方だし。
「すまんノワール。お前がここまで苦しい生活をしていたとは........」
「そうか。村の支援が打ち切られたとかそういう話を聞いたな。普通6歳の子供と言えば、親に甘える時期だもんな........」
「今度から動物の肉をこっそり持ってきてやるよ。少しは足しになるだろ?」
「そうね。そうしましょう。ごめんなさい。既に切羽詰まっていたんだね........」
うーん。いい人たち。
血の繋がってないガキを相手に飯を持ってきてあげようとするなんて、なんていい人たちなんだ。
そして、こんな人達にすら見放された俺はどんなことをやらかしたんだ。
「ありがとうございます」
ここは素直に甘えておくとしよう。
俺はそう言いながら、守らなきゃ行けない人達が増えたかもなと思うのであった。
その時はまだ。
後書き。
12時頃にもう一話上げます。
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