15年前
全てが変わるあの日から、2日前に戻ってきた。
ここはガランド王国にある小さな村、ロスト。
人口は約200人程度のよくある普通の村であり、この村は多くの自然に囲まれている。
特徴的なのは、山に囲まれたこの地形だろう。人間にとってこの山は資源の宝庫と言えるが、代わりに魔物が多く住み着いており命の危険もある場所だ。
人が住めるという事は、そこまで危険度の高い魔物が出てくる訳では無いが。
そして、ガランド王国。
この国は大陸の東側に位置しており、多くの小国が連なる場所のひとつにある。
隣国との関係は微妙。北側に位置する国々とはそれなりに良好な関係だが、南側の国々とは仲があまり宜しくない。
とは言っても、少なくとも今後15年は戦争が起こることは無い。
「さて、どうしたものか」
とりあえず、15年前に戻って来た。
犯人探しをしなくてはならないが、それよりも先ず当時俺がどんな生活をしていたのか思い出さなくてはならない。
15年前の記憶なんて朧気だ。特に二日後のインパクトが強すぎて、その前に何をしていたのかあまり覚えてない。
冒険者をしていたのは間違いないのだが........それ以外に何してたっけな。
「........当時の感覚を思い出すか」
俺はそう言うと、自分の家を出る。
この家は死んだ母親が持っていたボロ屋だ。風は壁の隙間からや漏れるし、雨漏りも酷い。
しかし、青空の元で暮らすよりかはマシ。
殆ど物がないこの場所で、俺は育ってきたのである。
酷い日にはその日の食事すらも確保できなかったっけ。それに比べたら、15年後は贅沢な暮らしをしていたもんだ。
少なくとも、食うものに困ることは無かったからな。
家を出て、村を眺める。
家の前にはだだっ広い畑が沢山存在しており、この時期に取れる野菜が多く実っていた。
村人達は、この採れたての野菜を金のように使って物々交換をするか、保存して自分達で消費する。
もちろん、この村を収める村長へ取れた野菜の幾つかは納品しなければならない。
都市では金で税金を払うが、金が回りにくい村では野菜や肉などの食料が金の代わりとなる。
「お?物乞い野郎が出てきたぞ!!逃げろ!!物をくれってせがまれる!!」
「近寄るなよ!!汚い根性が乗り移るぞ!!」
「あはははは!!」
家から出ると、そんな声が村に響き渡る。
あー、懐かしいな。そう言えばこんな奴らもいたわ。
村のガキ大将にして、村長の息子。名前は........リードだったかな?
当時は俺の生きる邪魔をしてきたウザイやつであったが、中身が27歳の今となってはそんな言葉に耳を傾けることもない。
だって実害が無いし。
臓器を売りさばこうとしたり、俺を攫ったりしようとしないだけで聖人扱いだってしてしまう。
言葉だけの暴力はなんて優しいのだろうか。当時は結構きつかったが、それ以上に残酷な世界を知っているとね。
「ん?物乞いが起きてきたか。いいご身分だなぁ?こんな時間に起きてきて仕事もせずにフラフラと。俺の息子だって畑の手伝いをしてくれるんだぞ?」
「そう言ってやるな。親を無くして生き方を知らないんだから。勝手に野垂れ死ねばいいのさ」
「........お前、結構キツイことを言うのな」
そして、大人達も俺を見て嫌そうな顔をする。
“物乞い”なんて呼ばれているが、それは事実だ。
俺は確かに物乞いをしていたし、腐りかけた野菜なんかを貰ってその日を凌いでいた。
一応、仕事はしていたが、ガキができる仕事がそんな大きな対価を貰えるわけが無い。
自分でやった方が早いし金もかからないのだ。
「今思うと俺も大概だな?つっても割のいい仕事は大抵命懸けだったからなぁ........で、意を決して山に入ったらアレだ。気がついたら、全員死んだな」
俺はそう呟きさきながら、村にある冒険者ギルドに足を運ぶ。
冒険者ギルドとは、冒険者と呼ばれる何でも屋達を管理する施設の一つだ。
依頼主と冒険者の仲介をしてくれる組織とでも思っておけばいい。この組織のおかげで、依頼者とのやり取りがスムーズだし、面倒なトラブルも少ないのだ。
世界中に冒険者ギルドは存在しており、こんな小さな村にも冒険者ギルドはある。
もちろん、村の規模に合わせてあるので滅茶苦茶小さいが。
しばらく畑しかない道を歩くと、冒険者ギルドが見えてくる。
こじんまりとした建物に剣と盾の紋章。ここが冒険者ギルドだ。
この村だと確か10~13人ほどが冒険者として生活していたはずである。
「お、今日も来たな。仕事は取っておいてあるぞ」
「........」
ギルドに入ると、顔が少し怖いおっさんがヒラヒラと紙を持って俺に見せびらかす。
彼はこのギルドのマスターであり、この村の唯一のギルド職員だ。
名前はグリーズ。俺が6歳の頃に特例で冒険者として認めてくれた上に、何かと必要になるからと安物のナイフまで渡してくれた人でもある。
この村の人々とは違い、彼は俺を差別しない。
一人の冒険者として、ギルド職員と冒険者として接するのである。
当時は気にする余裕も無かったが、今思えば滅茶苦茶いい人であった。出来れば、この人も救いたいな。
「なんの仕事だっけ」
「おいおいボケたのか?今日は村の住みにあった空き家の解体をするって話だっただろ?ったく、村長が金が掛からないからってお前に依頼を出したんじゃないか」
「それ、指名依頼だよね?本来なら通常の依頼よりも多くの金額を払わないとダメなんじゃないの?」
冒険者ギルドは何でも屋。色々な人が冒険者に依頼を出すのである。
通常依頼と呼ばれる、誰でも取っていい依頼。
これは金が安くなる代わりに冒険者を選べない。
誰でもいいからやって欲しい依頼は、この形で出させる。
そして指名依頼。
特定の人物を指名して依頼するものである。これは通常依頼よりも金が高くなる。
冒険者を指名するのだ。指名料とも言えるだろう。
それを指摘すると、グリーズは苦い顔をしながら声を小さくする。
「俺も思ったよ。だが、この村で村長に逆らえばこの村全ての冒険者に対して待遇が悪くなる。規則上は問題なんだが、こうしなきゃならないんだよ。分かってくれ」
「他の人の生活も背負ってるから俺に我慢してくれって事?」
「........」
無言で頷くグリーズ。
小さな村や街にある冒険者ギルドに言えることだが、冒険者ギルドはその村に置かせてもらっている立場だ。
下手に権力者に逆らえない。
ここでグリーズが下手なことをすれば、ほかの冒険者たちも纏めて村八分にされるだろう。
村としては別に冒険者が居なくとも何とかなることの方が多いのだ。これが大きな街とかになると立場が変わるのだが。
「まぁいいよ。ギルドマスターには色々と便宜を図ってもらったしね。でも、今日はその依頼は受けないよ。薬草採取と魔物討伐に行ってくる。買取は依頼がなくてもやってくれたよね?」
「は?ちょ、待て。さすがにそれは危ない........」
「大丈夫。死にはしないから。危なくなったら帰ってくるよ」
冒険者の金の稼ぎ方は主に二つ。
一つは依頼を受けて達成すること。
そしてもう一つは、冒険者ギルドが買取を行っている素材を持ってくることである。
こんな割に合わん仕事なんざやってられるか。どうせあと2日で燃えるってのに。
それよりも今は、この街を燃やした犯人探しの方が優先だ。ついでに、あの子の顔も見に行ってみようかな。
グリーズが俺を止めようとするが、それを無視して冒険者ギルドを出る。
「ノワール?」
すると、静かな少女の声がした。
懐かしい。そして、相変わらず綺麗な声だ。
「どうした?リア」
当時の俺の支えとなってくれた少女。
空よりも青く長い髪を揺らした少女が、俺の前にいた。
後書き。
今日はここまで。
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