異種族の友人
ダレスに絡まれ、喧嘩をし仲直りをしてから一週間ほどが経った。
俺はオーガの生活の中に身を置き、オーガと共に生活をしている。
分かってはいたが、オーガも人間も然程変わらない生活をしていた。
畑を耕し、動物や魔物を狩る。
大きく異なる点があるとするならば、オーガは人間よりも仲間意識が強いという事だろう。
社会的な立場が低い彼らは、自分達が団結する事で困難を乗り越えられると信じている。
誰かが困れば村全体でその手助けをし、誰かが風邪を引けば、その代わりの仕事をだれかが請け負う。
こうして、お互いを支え合うことで、彼らは強く結束しこの村を守ってきているのであった。
俺も、少しばかり仕事の手伝いをしたり、色々と体験させてもらう中で少しづつオーガ達から信頼を得ている。
最初この村を訪れた時のような困惑と疑念に駆られた視線はいつの間にか無くなり、“ただの人間の少年”としてオーガの村に馴染んでいたのである。
「違う。そうじゃない。拳に威力が乗ってないだろ?腰を意識するんだ。しっかりと腰を落として地面を強く踏み込め」
「こんな感じか?」
オーガの村の片隅で、少年のオーガが人間の武術を真似る。
まだまだ未熟な動きではあったが、その拳は明らかに一週間前のものよりも鋭い。
人間である俺があんな拳を食らった日には、そのままあっという間にお陀仏となるだろう。
頭を殴られたら、弾け飛びそうだ。
「まだまだだけど、動きとしてはそんな感じだ。試しに適当なものを殴ってみたらどうだ?違いがわかるぞ」
「なら、ノワールを殴ってみようかな」
「死ぬぞ。俺が。俺は普通の人間だからな?人間ってのはとにかく脆い生き物なんだよ」
「あはは!!知ってるよ。ちょこっと本気で走っただけでも疲れるような奴だってね」
一週間ほど前の敵視していた視線はどこへやら。ダレスは既に俺を友人として認め、楽しそうに笑っていた。
正直、彼のお陰でこの村にある程度馴染めたと言っても過言では無い。
子供同士の遊びを見た大人達は、その純粋無垢な顔を見て自然と俺への警戒を解いたのだ。
あの詐欺師が言っていたことは正しかったな。信頼を得るなら子供から。
子供を手懐ければ自然と大人達も警戒を緩める。
あの詐欺師は今どこで何をしているのだろうか?未来では、貴族に詐欺をしようとしてヘマをして殺されていたが。
そんな未来の昔話をしながら、俺はダレスに色々と人間の武術を教える。
ダレスは真面目であり、才能と言えるものは見えなかったが、純粋に種族としての力の差でグングンと成長を続けていた。
「あら、今日も仲良く遊んでいるのね。微笑ましいわ」
「心にも思って無いことを口にするなよエレノト。その薄ら笑をやめろ」
「あら酷い。常に笑顔は必須よ?笑顔は相手の印象を大きく変えるもの」
「その笑顔の裏に隠された意味まで理解しているやつからすれば、恐怖以外の何物でもないがな。あぁ、確かに印象は大きく変わるだろうよ」
ダレスと武術の訓練をしていると、邪魔者がやってくる。
薄ら笑を浮かべた殺人鬼。
エレノトはダレスをちらりと見ると、“ふぅん”と言って頷いた。
「ちょっとはマシな顔つきになったじゃないダレス」
「そうか?」
「えぇ。少し強くなったとも言えるわね。本当に少しだけだけど」
「エレノトねーちゃんにそう言われると嬉しいな!!」
エレノトに褒められ、純粋に喜ぶダレス。
こうして見ると、本当にただの少年なんだな。おれが褒めても結構嬉しそうにしてたし、純粋な心の優しい少年である。
俺に喧嘩を売ってきた理由も、家族を守るためなんだから泣けるよ。
俺なんて家族は物心が着いた時にはいなかったし、守りたい存在は気がつけば隣にいるやつにふっ飛ばされてたからな。
「でも、まだまだよ。私ぐらい強くならないと。妹や両親を守れないわ」
「いや、エレノトねーちゃん滅茶苦茶強いじゃん。流石にあそこまで強くはなれないよ」
「あら、あなたの目の前にいる可愛い少年は、私をボッコボコにやっつけたのよ?こんなにも綺麗な女性を楽しそうに痛ぶって、最後には押し潰してくれたほどにはね」
「えっ?!」
エレノトの言葉に驚きを隠せないダレス。
間違っては無いが、色々と違う。
楽しそうに痛ぶっては無いし、ボッコボコにされた側だぞこっちは。
77回程やり直して、ようやく掴んだ勝利だったのだ。勝率だけで言えば、俺の方がボコられている。
しかも、勝ったかと思ったら当たり前のように不死身で生き返ってくるし。
なんだこいつ、理不尽の塊か?
「語弊のある言い方はやめろ。大体、あの時はお前遊んでただろ」
「少しは本気だったわよ?ノワールを捕まえようとした時はね」
「ノワールスゲーな!!エレノトねーちゃんは、とーちゃんにも余裕で勝つぐらいには強いのに!!」
「お前の父さんはこの村1番の戦士だったな。そういえば」
ダレスの父、オグスはこの村の中で一番強いと言われる戦士であり、ダレスが目指す憧れの存在らしい。
ダレスと遊ぶ関係上、彼と顔を合わせたことも何度かあるのだが、確かに強者の風格を纏っていた。
家族を守る!!とか言っているが、お前のとーちゃんだけで全部何とかなるんじゃないかな?と思うぐらいには強い。
多分、そんなとーちゃんを守れるぐらいまで強くなりたいと言うのか、ダレスの夢なのだろう。
ちなみに、1度だけ夕食をご馳走になったことがある。
肉を煮込んで作ったスープは、滅茶苦茶美味しかった。
「竜人族とオーガって、種族的にはどちらが強いんだ?」
「竜人族の方が強いに決まってるでしょう?竜人族は竜の末裔とも言われる種族なんだから。世界最強とも名高い種族である竜種の末裔と、力自慢のオーガ。どっちが強いかなんて明白じゃない」
やっぱり種族で考えれば竜人族の方が強いんだな。
当たり前と言えば当たり前だ。
俺の知る限り、竜人族とは全ての亜人種よりも全てが勝っている。
実際に竜人族を見たのはエレノトが初めてだが、噂では亜人種の中では最強と聞いている。
もちろん、竜人族の中で最弱とオーガの中で最強を戦わせれば結果は変わるだろうが、平均値で考えれば竜人族に軍配が上がるだろう。
「竜人族を仲間に出来たら、計画が楽になるだろうな」
「........そうね。でも、私がいるからいいでしょう?」
「戦争に必要なのは数だ。たった一人の英雄が、敵の軍を滅ぼして戦争に勝利するなんて言う御伽噺が現実のものになる事はまず無い。数が多いというのは、それだけで戦力になるんだよ」
俺は仕事柄、戦争に参加したこともある。
冒険者というのは犯罪でなければなんでもやる何でも屋。戦争の人員として募集されることも珍しくなく、国から金が出てくれるおかげで生き残ればそこそこの稼ぎになるのだ。
過去に3回程、俺も戦争に参加した事があるが、そこに一騎当千の猛者など居なかった。
いや、正確にはいるにはいたのだが、昼夜問わずの殺し合いの果てに討伐され、英雄となることは無かった。
生物である以上、疲労というものはついてまわる。
奴隷を使って体力をできる限り削り続け、その後強者を当てることで本来ならば壊滅的な被害を出すはずの相手を討ち取ったのである。
戦いは数だ。それを埋めるために、戦略や罠などがある。
「まるで戦争を経験したかのような発言ね。12歳のくせに」
「ちょっと小耳に挟んだ話を口にしているだけだ。ほら、ダレス。続きをやろうぜ」
「おう!!」
エレノトに怪しむような視線を向けられ、おれはとりあえず適当に話を誤魔化す。
それにしても、オーガの子供と遊ぶのも悪くないな。ダレスが賢いと言うのもあるが、意外と楽しい。
このまま上手くオーガ達の輪の中に入って行ければ........
そう、思っていた。
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