これは戦争
その日、オーガ達は自分たちの暮らしていた村を手放すことを決めた。
オーガの村は良くも悪くも村長の権力が強いらしく、アーノントの村を捨てると言う話を疑いはしつつも彼らはその言葉に従うしか無かった。
もちろん、今まで生活してきた愛着のある村を手放すのは惜しい。
過去に何度も移動してきたらしいが、ここ数十年近くはこの場で平和に暮らしていたと言うのだから、そりゃ名残惜しさもあるだろう。
しかし、命には変えられないし、村長の言葉は絶対である。
閉鎖的な村であり、規模も小さいからこそできる判断だ。
これが街の規模とかあったら、そう簡単に手放せなかったはずである。
「村長、俺達に人間の下に付けと?」
「そうだ。今回の作戦の指揮は彼が取る。言いたいことは分かるが、相手は人間だ。同じ人間が指揮をした方が、何かと都合がいいだろう」
「そういう事じゃない。俺は未だこの小僧を認めたわけじゃないと言っているんだ」
村を手放す判断をしたとは言えど、1週間後にやってくる軍だけでも最低限片付けなければならない。
もし、村を見つけてそこに誰もいなければ、捜索を開始することだろう。
その捜索に引っかかれば、またしてもオーガ達の平穏は消えてなくなる。
少しでも時間を稼ぐために、彼らを全滅させて街へ報告が行かないようにするのだ。
戦争でもよくやったな。別働隊や偵察部隊を全滅させて時間を稼ぐ方法。
俺も一度その作戦に参加したことがあるが、ちょっとお手柄を上げて褒賞を貰ったっけ。
元々様々なことを学んできた都合、相手のやりたいことが何となくわかっていたから進行ルートを絞れた時の話だ。
お陰でその時の戦争はかなり稼げた。元は弱いから、貴族とかにも目をつけられないし、少しばかり生活が楽になった瞬間である。
「俺を信じなくてもいい。だが、この村にやってくる軍は撃退するべきだ。それは分かるだろう?」
「........」
「勝ちたいなら、人間を殺したいなら俺に従え。もし、その作戦で1人でも犠牲者が出れば、俺の頭を叩き潰して貰って構わない」
「それは、殺してもいいと言っていると受け取っていいんだな?」
「あぁ。この作戦で一人でも犠牲が出れば、俺を殺せ。代わりに、俺の指揮には従ってもらうぞ。勝手に行動して死にましたは知らん。俺もそこまで面倒が見られるわけじゃない」
まぁ、一人でも死んだらその時点でやり直しだし、オーガに殺されるのも自分で死ぬのもそう変わらん。
いいね。この能力。
自分の命を易々と掛けられるから、俺にとってはとくに大きなデメリットがない。
だが、この言葉を聞いた相手は俺が命を賭けてまで本気でやろうとしているように見える。
俺は死んでも死なないということを、彼らは知らないのだ。
面白いものだ。この俺の力を知っている時の言葉と、知らない時の言葉でこれ程までに印象が変わるとは。
「........分かった。いいだろう。そこまで言うならやってみろ。もし一人でも仲間が死んだら、お前を殺すからな」
「構わんよ」
これで、オーガの戦力を自由に動かせる権利を得た。
それにしても、1週間後に同じことをお願いしたら、もう少し結果は違っていたのかね。
現在の俺はまだダレスと遊んでいない。つまり、子供をこちら側に引き入れていない状態だ。
1週間後には、少年達が仲良く遊ぶ様子を見て大人達もだいぶ砕けた表情を見せていたのだが、それは有り得た未来の話。
今は、こうして俺に敵意を向けている。
一日を巻き戻るという事は、その日に得た信頼も失う。
こればかりは少し悲しいな。
「話はついたな。では、ノワールの指示に従ってお前達は迎撃のために動くのだ。頼んだぞノワール」
「任せておけ。事前に準備させて貰えるなら、俺は快楽殺人鬼すらも殺せる。まぁ、その殺人鬼は当たり前のように生き返ってきたけどな」
「ハッハッハ!!アレを真の意味で殺すのは無理だな。と言うか、殺せた事実がすごいわい」
「ここに来る前に殺しあった。向こうは相当手加減していた上に、遊んで油断していたからできた芸当だがね」
「だとしても凄いな。あやつは、本当に強いのだぞ?」
「知ってるよ。ぶっちゃけ、一人でも世界を変えられるんじゃないかと思うほどにはね」
俺はそう言うと、約30人ほどの大人のオーガ達を引き連れて、村を出ていく。
オーガ達の反応は様々で、俺に好意的なオーガもいれば懐疑的なオーガもいた。
基本的に俺に好意的なオーガは俺の事を名前で呼ぶ。
逆に、懐疑的なオーガ達は俺の事を“人間”や“小僧”と呼んでいた。
尚、1番判断に困るのは“坊主”である。
親しみを込めて言っているオーガもいれば、軽蔑を持って言っているオーガもいるので判断が難しい。統一してくれない?
「ノワールくん、どこへ向かうんだい?」
「レパノン軍が来るルート上に罠を仕掛ける。それと、武器の調達だね。剣や槍を持ってくるのは流石に時間が足りないから、簡単な武器を作るよ」
「武器だと?そんなのは人間が使う軟弱者の為のものじゃないか!!」
一人、あからさまに俺に突っかかってくる奴がいるな。
おそらく、彼が最も俺の事を毛嫌いしているのだろう。
今の世界線では、俺はまだオーガ達から完全な信頼を得られていない。
ダレスと遊んでゆっくりと村に馴染む事が出来ていないからだ。
よって、このように俺に対して敵意を出す者も現れる。彼らをどう上手く使うのか。
今後の課題にもなりそうだな。
「武器は軟弱者の為のものじゃない。勝つための手段だ。えーと........名前なんだっけ?」
「オーレンだ」
「オーレン。俺が君をこの拳で殴ったら、君は血を流すか?」
「........流すわけないだろ。人間の、それもガキに殴られて」
「そうだな。当たり所によっては血を流すことがあるだろうが、基本的にはちょっと何かがぶつかった程度の衝撃しかない。では、このナイフを君に向かって突き刺すとしよう。君の身体は、このナイフを弾けるほどに屈強なのか?」
「死にはしない」
ここで、即答で“死にはしない”と言える辺り、オーガの体が人間とはかけ離れていることを実感させる。
普通の人間はナイフで刺されたら死ぬんよ。肩や腕ならばともかく、腹とか刺されればあの世行きなんだよ。
「でも、血は出るだろう?つまり、ナイフを使った俺の方が強いというわけだ」
「........?それがどうした?」
「これはオーガだろうが人間だろうが変わらん。極一部の例外を除いて、基本的に武器を使った方が強い。いいか、オーレン。これは人間とオーガの戦争だ。勝つ為ならば手段を選ぶな。出ないと、数で劣る俺達は負ける。俺が人間だから気に食わないというのは知っているが、今は大人しく従ってくれ。人間の戦争は俺が一番理解している。この中ではな」
「そうだぞオーレン。村長の指示に逆らうのか?」
俺がそう言うと、俺に好意的なオーガが援護射撃をしてくれる。
いいぞやれ!!村長の権力をチラつかせて、もっと言ってやれ!!
村長という単語を出されたら、流石の彼も静かにならざるを得ない。
オーレンは目に見えて悪態をつきつつ、舌打ちをする。
「チッ、わーってるよ。ちょっと意地悪したかっただけだ」
「少なくとも、今は彼に従うんだ。つい先日来たばかりの少年とは言えど、村長がなんの考えもなしに彼を僕たちの指揮官にした訳じゃないだろうしね。オーレンだって嫌だろう?彼の言うことが全て正しかった場合、それでも犠牲者が出たら君の責任になるんだぞ」
「分かった分かった!!分かったからしつこい!!ちゃんと従うから、黙っててくれ!!」
こうして、俺は30人ほどのオーガの軍を率いて、森の中を歩くのであった。
オーガも人間とさほど変わらない。
オーレンのようなやつもいれば、俺な好意的なやつもいる。
ところで、オーレンの説得を手伝ってくれたオーガの名前を知らないんだけど、なんて名前なんだ?
後書き。
さらっと自分の命を賭け金にしているヤベー奴。ノワール君、もっと自分の命を大切にして。
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