最も原始的な武器
さて、オーガ達の指揮権を貰い、俺は彼らをある程度好き勝手に動かせる権利を得た訳だが、まずやるべき事は武器の調達である。
当たり前だが、武器を持っていた方が強い。
極一部の例外は除いて、基本的に武器というのは持っているだけで驚異となり得る。
人間は数多くの部分で亜人種に劣る。それらを補うためにも、数多くの武器を開発してきた。
魔法の威力を底上げする杖や、剣や槍など。
しかし、今はそれらを調達する時間はない。
剣や槍は確かに強いが、如何せん製造には時間がかかる。
それに、鉄資源は今のオーガ達にとって貴重だ。
世の中には、戦争の跡地に残された武器や防具を漁って生計を立てているようなやつもいるのだがら、その貴重さが分かるだろう。
では、何を持つのか?
最も原始的で尚且つ簡単に用意できる武器と言えば、1つしかない。
それは、石だ。
最も原始的でありながら、たった一つでも人を殺し得る最強の武器。
魔法が発達し、鉄やミスリルと言った様々な資源が使えるようになった今の時代でも尚使われる、れっきとした武器である。
主に使われるのは投石器としての攻城兵器だな。
あれ、マジで怖いんだよ。乗せる石によって使い分けも可能な上に、一撃で城壁を崩すような威力をしている場合もあるから。
戦争を経験したことがあるやつほど、石という武器の素晴らしさと共にその恐ろしさを知っている。
使い方次第では、神すら殺せるなんて話もあるぐらいだ。
「よし。ここだな」
「ここは、山の洞窟か。坊ちゃん。ここで何をするんだ?」
「決まってるだろ?武器の調達だ」
「こんなところでか?何をするんだよ」
約30人ほどのオーガ立ちを引連れてきてやってきたのは、オーガ達が雨宿りに使う洞窟であった。
狩りに出かけた時に教えて貰った場所であり、雨が強すぎたりした場合はここで一晩を過ごすと教えてもらったのだ。
その後、村が燃え、何もかも失ったが。
しかし、今回はこの場所がオーガ達の救世主となり得る。
山の中にある石や土を固めて作った弾丸は、人を殺すための武器となるのだ。
「石を使う。一方的に嬲り殺すためにな」
「石?んなもん使わなくたって、殴りゃいいだろ」
「オーレン。相手は一方的に攻撃する手段を持っているんだ。近づけさせない戦い方をされれば、まず勝てない。オーガは確かに肉体的に優れているが、決して死なない体を持っている訳じゃないんだ」
「だからってこんな石ころで何ができるんだよ」
最初こそ面倒だなと思っていたオーレンであるが、オーガ達の疑問を代表して言ってくれるため、彼を説得すれば周りも従うと言う流れができている。
お陰で、少しやりやすくなっていた。
裏であれこれ言われるよりも、面と向かって言ってくれた方がやりやすい。
詐欺師のやろうも言っていた。
組織を代表してくれるようなやつは、上手く使えば洗脳の道具になると。
「石を舐めちゃいかんぞ。これはれっきとした武器であり、人を殺せる手段のひとつなんだからな。人間の戦争の中には、石を投げまくって敵軍を撤退させた戦争なんかもある。それなりの死者を出してな」
「マジかよ。石すげぇな」
「だろう?それに考えても見ろ。こんな拳のように硬い塊が豪速球で飛んで来て当たったら普通は痛いだろ?人間が投げても死者が出るレベルだ。オーガがやれば........なぁ?見たくないか?石に無様に負ける人間の姿を。そこら辺に落ちているようなもので、お前達は人間相手に圧勝するのさ」
自分が人間であると言うことを棚に上げて、オーガ達を先導する。
亜人たちは常に人間達によって虐げられてきた。
例えこのような村であっても、人間に対する怨みや思想は変わらない。
つまり、その部分を少し煽ってやれば簡単に乗ってきてくれる。
彼らは人間達に自分達と同じような悲劇を味合わせたいのだ。俺に対して好意的なオーガであろうとも、心の奥底ではそう思っている。
一を殺されれば、十を恨む。
例えば自分の子供が魔物に殺されれば、魔物そのものを恨むのだ。
戦争によって仲間を失えば、その敵国全てを恨むのだ。
結局、個人が悪いと言う思考にはならない。種、あるいは全体で物事を肥大化してしまう。
俺はそこを突く。
オーガもやられっぱなしじゃ気がすまねぇよなぁ?と。
ちなみに、これらは全てあの詐欺師の受け売りだ。
当時はクソの役にも立ちやしないと思っていたが、意外と使いどころが多くて困っている。
「んじゃ、俺達はこの石ころを集めりゃいいのか?」
「いや、採掘は俺がやる。そっちの方が早いしな。あくまでも武器の紹介だ。使い方は........さすがに分かるだろう?」
「バカにしてんのか。分かるよ」
「よし。それとここら辺の木々も斬り倒して集めるぞ。ところで、オーガってどうやって木を切るんだ?」
オーガの生活は色々と見てきたが、そういえば木の調達現場を見た事がないと思った俺は疑問をなげかける。
今回の作戦ではこの木も大切だ。
相手に何もさせずに勝つとなれば、相手の不意を着いて一気に畳み掛ける他ない。
木はよく燃えるよな。そして、尖らせれば武器にもなるし、殴れば鈍器にもなる。
石も強いが、木も強い。真の強者が相手でなければ、これだけで相手を殺せるほどには、使い勝手がいいものである。
「木?んなもんこうやって........殴るんだよ!!」
ドゴォン!!と、オーレンが近くにあった木をぶん殴る。
すると、木がメキメキと音を立てて、へし折れてしまった。
........は?
いや、いやいや。流石にそれは無理があるって。
結構太い木だったよね。一体どんな威力で殴ればこの木がへし折れるというのだ。
そりゃ、戦場で暴れ回っていたオーガが危険視されるわけだ。こんな奴が戦場で暴れ回ってたら、たまったもんじゃない。
腕を振り回しただけで、人が死ぬぞ。
遠距離武器でオーガを寄せつけずに殺す方法は理にかなってたんだな........ロクな食料も与えられず、やせ細ったオーガですら驚異になる。
遠くから見ていたことはあったが、こうして間近で見るとその強さは一目瞭然。
こんなのが戦争に負けるんだから、人間は本当に運がいい。
「で、こいつも集めるのか?」
「あ、あぁ。とりあえず100本ぐらい集めておいてくれ。集め終わったらそれを持って移動するぞ」
「はいよ。人間にこき使われんのは気に食わないが、村長の命令だからな。やってやるよ」
「そうしてくれ」
こうして、俺達は武器の調達を始めるのであった。
石と木。
今回はこれだけで軍に勝つとしよう。
大丈夫。失敗しても、やり直せばいいだけだ。
【ミスリル】
この世界に存在する鉱石の一つ。鉄以上に頑丈であり、鉄よりも魔力を通すことから貴重資源とした扱われ、またその数もかなり少ない。
日本円にしてg100万円レベルの超高級品。あまりにも高すぎるので、熟練した冒険者なんかは大枚は炊いてミスリルの粒を買い、鉄に練り込むなんてこともする。
エレノトはその日、ノワールにあることをお願いされて家の中で作り物をしていた。
本来ならば、オーガ達と共にノワールと行動するつもりであったのだが、ノワールがそれを許さなかったのである。
「全く。人使いが荒いわね........これは許されないわ。私の不満を受け止めてもらわないと」
エレノトはそう言うと、早速出来上がった1つの物を見て満足そうに頷く。
そして、直ぐ様二つ目の制作に取り掛かった。
「これは一緒に寝るしかないわね。あの可愛い寝顔と細くて可愛い体を抱きしめて寝たいわ」
エレノトはそう言うと、黙々と作業を進めるのであった。
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