78戦目
あれから何度殺人鬼に挑んだのだろうか。
俺は何度も何度も爆殺魔エレノトに挑んでは軽くあしらわれ、その度に自殺してはやり直した。
その数なんと77回。
77回も挑んで、俺はエレノトを殺しきれなかった。
エレノトの手で殺されたのは計12回。
一度目は知っての通り抱きつかれてそのまま締め上げられ、2度目は軽い反撃を上手く躱せなくて死んだ。
3度目も2度目と同じように、攻撃を躱せず首の骨をへし折られた。
その後も色々と殺され続け、結果12回も殺されたのである。
俺自身を除けば、1番俺を殺した相手と言えるだろう。
軽いビンタに見えたから、上手く受け流して反撃だ!!とか思ってたらボキッって首が折れるとは思ってなかったよ。化け物すぎるだろあの女。
そんなこんなで、俺は何度も何度も過去に戻っては罠を張り替えてエレノトと殺し合う日々が続いた。
そして、今は78回目の邂逅。
今回は1ヶ月前にまで戻って色々と準備をしてきた。
正真正銘、俺の持てる全てを使った総力戦である。
「出てきなさいよ。さっきからずっと追いかけてきてきているのは分かっているわよ」
「78戦目。今回は殺してやりたいもんだな」
何度も何度も聞いてきた同じセリフ。
過去にはこの場所に来る少し前の所で待ち受けて奇襲を仕掛けるとか、遠くから矢を放って攻撃すると言うやり方も試したが、相手が化け物すぎて何も出来なかった。
奇襲は当たり前のように避けられるし、矢はそもそも当たらない。
結果、こうして罠が敷き詰められたこの場所で戦った方がいいと結論づけたのである。
奇襲に失敗した時点で勝ち目が無くなるのは辛いな。掴まれた時点で逃げ出せない。
「あら、随分と可愛らしい子が私を追ってきていたのね。どうしたの僕ぅ?迷子かな?」
「迷子に見えるか?」
「........ふふっ、見えないわね。そんな殺気を向けられてたら」
「爆殺魔エレノト。死んでもらうぞ」
「実力差が分からないのかしら?まだ子供だから?」
「分かってる。だがな、折角やり直せる機会を手に入れたのに、負けっぱなしってのは嫌なんだよ。村とかもうどうでも良くなりつつあるしな」
「........?」
俺が何を言っているのか分からないのか、首を傾げるエレノト。
そりゃ、死ねば一日巻き戻って何度もやり直すような人間がこの世界にいるとは考えられないだろう。
この一連のやり取りだけで分かったら、そいつは人の頭の中を見れる。
「何を言ってるの?」
「こっちの話だ気にすんな。ほら、やろうぜ」
正直、ここまで来ると村とかどうでも良くなりつつあった。
六年間、村の人達と関わることもほぼ無かったし、顔を合わせたのは冒険者達ぐらい。
しかも、ココ最近はこの殺人鬼と顔を合わせる事の方が多い。
会話の相手が殺すべき殺人鬼なんだぞこっちは。お陰でちょっとした親しみまである。
ではなぜこうして戦おうとしているのか。
それは、俺が捨てたはずの意地でしかない。
折角やり直せる力を手に入れたのだから、俺が満足するまで何度も何度も挑めばいいのだ。
試行錯誤しながら戦うのが、罠を作るのが楽しくなっていたとも言える。
「ノワールだ」
「........あぁ。それが僕のお名前ね?私はエレノト。遊んであげるわ」
ここで殺すと言う時に名乗る。全てが上手く行けば、俺が勝つ。
俺はナイフを構えると、エレノトに向かってナイフを突き出す。
「おっと、危ないわねー」
そしてこれは、当たり前のように避けられる。
もちろんいつものように紙一重で。
これは何度もやってきたし、ここで相手の体制を崩すやり方も考えた。
俺はナイフを突き出した腕を曲げると、肘でエレノトの体を押す。それと同時に回転しながら回し蹴りを繰り出した。
6歳の頃から柔軟はしっかりとやっていたお陰で、自分よりも背の高い相手の顔面に足が届く。
「よっと。元気がいいわねー」
ま、あまり前のように避けられるが、そこはどうでもいい。
エレノトが一歩下がったことにより、罠が発動する。
何度も何度も場所を微調整しながら作った罠だ。不発なんてことは無い。
「お?」
「喰らえ」
発動した罠はエレノトの足に絡まり、一瞬だけ体制を崩させる。
膝を着いたエレノト。頭が下がった位置に向かって俺はナイフを横に振るう。
どうせこれも止められるのは分かっている。何故ならば、既に試したから。
「危ないわねー」
「チッ」
もしかしたら上手くいってくれるかなとか思いながらナイフを振るうが、やはり受け止められてしまった。
過去と同じ行動をすると同じ結果が待っている。お陰で作戦を立てやすいのだが、こういう所では少し違った結果になってくれてもいいんだがな。
即座に防御した為か、エレノトは俺の腕を掴まずに腕を盾にしながら防御した。
お陰で腕は掴まれていない。
そして、ここからは記憶が重要となる。
俺は素早くその場から後ろに下がると、先程までいた場所にエレノトの手が通過する。
何回目か忘れたが、ここで俺はエレノトに捕まってやり直すことになったものだ。
胸倉を掴まれて、“やるじゃない”と言いながら、拘束されたのを今でも覚えている。
舌を噛みちぎる自殺したな。ナイフを取り上げられてたし。
「やるじゃない。ちょっと焦ったわ」
「よく言う。汗の一つもかいてない癖に」
「ふふふっ、そう?でも、少し危なかったのは事実よ?」
どの口が言ってんだ。
余裕そうに立ち上がり、かなり頑丈に作ったはずの罠があっという間に引きちぎられる。
言っておくが、あの罠はあんな簡単に引きちぎられいい強度をしていない。
俺が本気で引っ張ってもちぎれないし、俺よりも力のある鹿や猪と言った動物も捕まえられる代物だ。
それを、そこら辺の草を取るかのようにプチッと引きちぎっているあの女がヤバいのである。
決して俺の罠の作りが甘い訳では無い。
「面白いものを作るわね。子供の発想力ってすごいわ」
「子供の作品を壊す悪い大人がなんかいってら」
「人を傷つけるような作品を作ってはダメよ僕。みんなが楽しめる作品じゃないとね」
「人殺しの口から出てくるセリフとは思えないな」
「よく言われるわ」
刹那、エレノトの姿が掻き消える。
俺は視界からエレノトが消えた瞬間、下にしゃがみ走り出した。
ここで捕まって自殺したな。本気で動いたエレノトは、俺の目に止まらぬ早さで動いてくる。
77回もやり直した原因は、ほぼこれだ。
相手が早すぎて捕まるから、その度に行動を覚えて逃げ続けるのである。
「あら?今の動きは見えてないはずなのだけれど........」
「あっぶね」
俺はそう言いながら、走り始める。
ここは逃げの一手。とにかく逃げるのだ。捕まったら終わる。
エレノトは俺に興味を持って追いかけてくるのは分かっている。この女、1人が寂しいのか、割と構ってちゃんであった。
自分が捕まった後、エレノトを殺せる隙が無いか確かめるために2日程様子を見ていたのだが、俺を抱きしめては暇つぶしの会話の相手をさせられたものである。
無視すると拗ねて俺の頬で遊び始めるし、正直ちょっとウザかった。
“話しかけてるんだから答えてよ。寂しいじゃない”と言った時は、本気で耳を疑ったものである。
顔を見たらマジだったのは本当に驚いた。
まぁ、何が言いたいのかと言うと、この女は意外と寂しがり屋なのでこうして構ってくれるやつを見つけると追いかけてくるのである。
「あら、鬼ごっこ?私、得意よ?」
「子供が相手だ。手加減しろよ」
「ふふふっ、それはどうかしらね?」
捕まれば終わり。何度もやり直して覚えた相手の動きに対処する遊びが今始まった。
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