四度目
目が覚める。
俺は久々に自殺以外の死に方をし、少しばかり新鮮な気持ちでいた。
人の手によって殺されることに新鮮味を感じるとは、いよいよ俺の頭も壊れてきたな。
「いや、元から壊れているか」
あの魔導書を手にした日から、俺の頭は壊れた。
自分にナイフを突き刺し、何度も何度も死に戻る日々。そんな生活をしていて、頭が壊れないやつが居たら連れてきて欲しい。
もし、頭が壊れなかったのであれば、そいつはもとから壊れたやつだ。
「沢山しかけたのに結局1つしか使えなかったな。ちょっとショックかも」
俺はそう呟くと、罠だらけのこの場所を眺める。
エレノトと殺しあった時間帯から一日巻き戻ってきたので、今はこの場所で仕込みをしている時間帯。
罠が正常に動作するのかという動作確認をしていた所だったと思う。
それはいいとして、どうしたものか。
当たると思っていた罠が、当たり前のように避けられてしまった。
化け物すぎるだろ。殺意も乗っないただの罠をどうやっで初見で避けられるんだ。視線とか感じないから、音だけを頼りに避けたのか?
それとも、俺の演技が下手すぎたのか?
どちらにせよ、矢の罠は失敗に終わったのだ。
「矢の罠は意味が無さそうだな........一旦戻って他の罠に張り替えるか?いや、それよりも、奴に効く有効的な罠を探ってから戻った方がいいか」
3つも用意し、何度も動作確認した矢の罠は意味をなさない事を理解した俺は、とりあえずどの罠が有効的な手段となり得るのかを探るために再び殺人鬼に挑むことにした。
体を当てるのはやめた方がいいな。抱きつかれて肋骨をへし折られる。
殺人鬼とは言えど、自分の年齢は気にするんだな........一応女性だろうし、当たり前と言えば当たり前だが。
「年齢の話って本当にタブーなんだな。昔、新人冒険者が知らずに年齢の事を弄って街に居られなくなったみたいな事件を見たが、年齢が絡むと女って怖いわ」
旅の途中、まだ冒険者になったばかりの純粋な少年冒険者がベテランの女性冒険者に“おばさん”と言ったことがある。
少年に悪気はなかっただろう。少しだけ話したことがあるが、彼は良くも悪くも純粋で素直な子供であったのだから。
しかし、受け手側はおばさん呼びされた事に酷く怒り、自分の持っていたツテと権力を使って彼を孤立させてしまったのだ。
仕事の妨害や無視は当たり前。
俺は睨まれると面倒だったので助け舟を出すことは無かったが、それを見かねた冒険者のひとりが彼に別の街で活動するよう助言したらしい。
ね?怖いでしょ?
たった一言“おばさん”と言っただけで、少年は街を離れる事態にまでなったのだ。
多分、20代後半だったんだろうな。
20代まではお姉さんで通じるが、30代からはおばさんみたいなイメージがあるし。
29でギリギリお姉さんにしがみついていた時に、おばさん呼びされて滅茶苦茶キレた。
子供相手になんと大人気ないとは思うが、大人なんてそんなもんだ。
大人になっても感情で物事を考えるやつは沢山いる。そしてそういう奴ほど、周りを巻き込んで事を大きくするのである。
今後の事とか考えないから。
「そう考えると、明日のアレは俺が悪いか。まさか、肋骨をへし折られるとは思ってなかったけど」
女性に年齢。ダメ絶対。
その身で体験して分かった。下手をすれば、自分の命すらも脅かすということに。
男の方が喧嘩はさっぱりしてるな。大体殴り合いだし。
俺はそう思いながら、明日に向けて罠の調整とその罠に誘導するための策戦を考えるのであった。
【ファイヤーボール】
ソフトボールサイズの火の玉を発射する魔法。初級魔法の中では火力が高く、見習い魔法使いが好んで使う傾向にある。
威力は一撃でゴブリン程度なら殺せるほど(見習い魔法使いが使って)。熟練した魔法使いだと、この魔法だけだ相手を鏖殺することも出来る。
翌日。俺は再び同じタイミングでエレノトを追いかけた。
そして、彼女は同じ場所で足を止める。
「出てきなさいよ。さっきからずっと追いかけているのは分かっているわよ」
「........」
四度目の同じセリフ。
俺は“聞き飽きたからもう少し変わったセリフが聞きたいな”と場違いなことを思いながら、姿を現す。
今回はなんて言おうかな。
「あら、随分と可愛らしい子が私を追ってきていたのね。どうしたの僕ぅ?迷子かな?」
「迷ってる」
「あら、本当に迷子なのね........なんて言うとでも思った?迷子なら私を見つけた時にすぐ声を掛けてくるでしょうに」
残念。迷子のフリをしてる不意打ちは出来ないらしい。
確かに迷子なら、人の影を見つけた瞬間に声をかけるわな。どうやってもゴブリンと見間違うはずも無いんだし。
「で?なぜ私の後を追いかけてきたのかしら?」
「このまま着いていけば、村に帰れるかなって」
「白々しい。迷子の子供はそんな顔しないわよ。笑ってるわよ?貴方」
「........」
笑ってる?この状況で?
俺は自分の顔を手を当ててみるが、自分が笑っているのかどうか分からない。
俺は本来、こんな状況で笑えるような人間じゃない。なのに笑ってるだと?
「あら、自覚してないのね。なんというべきかしらね........そう。人を初めて殺した時に浮かべる薄ら笑いとでも言うべきかしら?大抵そういう奴は殺しの才能があるんだけど、ボクちゃん、その顔にそっくりよ?人でも殺した?」
「........まぁ、7500人以上は殺しているだろうな」
「わ、わぁ。目の感じから嘘をついてないわね。貴方、年齢は?」
「12の人間だよ」
「将来有望すぎて怖いわ。ドン引きよ」
まぁ、その7500人以上の被害者は全部俺なんですけどね。
死に戻るための自殺。あれはある意味殺人だ。
自分を殺しているのだから。
そうか。俺には死ぬ才能があったのかもしれんな。
人を殺した時に浮かべる薄ら笑を、自殺して浮かべられるだなんて。あの魔導書もきっと喜んでくれているだろう。
才能のある人物の手に渡ってくれたと。
俺の言葉に嘘はないと分かったあのエレノトが、軽く引いている。
史上最悪とも言われる殺人鬼に引かれるとは、少しばかり誇らしいのやら不満に思うのやら。
お前、俺よりも人を殺している癖して人のことを言えるのかよ。
殺し方と殺した人数だけで言えば、お前の方が頭おかしいからな?
「悪いが、ここで死んでもらうぞ」
「ふふふっ、私を殺せるとでも思っているの?実力差はまだ測れないようね」
「いや?分かっているさ。爆殺魔エレノト」
「あら、バレていたのね。あなたのお名前は?ちいさな殺人鬼さん」
「ノワールだ」
「そう。いい名前ね」
思えば、エレノトに名乗ったのはこれが初めてか。
どうせ今回も死ぬだろうし、その名前は覚えておかなくていい。だが、確実に殺せると思った時には名乗らせてもらうぞ。
俺の名前を胸に刻みながら、あの世に行ってくれ。
「殺しの先輩として、遊んであげるわ。かかってきなさい」
「言ってろ。今回も勝つ気は無いんだよ」
「........?」
こうして俺は四度目の戦いに挑むのであった。
そして、当たり前だが、ボロ負けして死んだ。
今回は殺されず、自分で自殺したが収穫もあった。
足を引っ掛ける罠は一瞬だけだか効果がある。
植物の蔦で作られた縄のため、強度がかなり低く簡単に引きちぎられてしまったが、一瞬足を取られてバランスを崩したのだ。
そのチャンスを活かせず、結局傷の一つも付けられなかったのは残念だったが。
後は何度も何度もこれを繰り返して、有効的な罠だけを仕掛けていくとしよう。
後書き。
29歳と30歳って一つしか違わないけど、大分印象変わるよね。テストで79点を取るのと80点を取るのとか。
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