四年後
村を追い出されてから四年の月日が経った。
俺は村の近くにある山で暮らしている。
意外と山の暮らしも悪くない。
小さな洞窟を見つけてそこを拠点にしているのだが、雨風は凌げるし自分が強くなる為の訓練を邪魔されずにできるのは悪くなかった。
「........今日も来てたのか」
俺はそう呟きながら、洞くつの傍に置いてあったウサギの死体に目をやる。
村を追い出されたあの日から少し経った頃、俺が拠点としていた洞窟の傍に食料が届けられるようになった。
差出人は分からない。しかし、この村で山に入れる人物というのはかなり限られる。
そう。冒険者たちだ。
ガルエルやサリナと言った冒険者達が、俺がこの洞窟を開けている間に食料を置いていくのだ。
彼らは、俺が盗みをしていたとは思ってないらしい。元々食いっぱぐれることは無かったのだが、お陰で多少なりとも備蓄が用意できたのは有難い。
礼儀正しく、できる限り素直に接してきた甲斐があったと言うものだ。
「グリーズ達は元気にやってんのかね?そう遠くない内にここを離れるけど、その時はお礼の1つでも書いておくか」
俺はそう言いながら、ウサギを解体しつつ今日の夕食を作る。
基本は焼くだけ。焼けば大抵のものは食える。
塩が中々手に入らないのは残念だが、ごく稀に塩を置いて言ってくれる時もあったのでそれを貯蓄し、ちょっとした贅沢をしたい日に食べていた。
「火よ」
俺は集めた薪に魔法で火をつけ、肉を焼く。
しばらくすれば、肉の焼けたいい匂いが漂ってきた。
「魔法を使えるようになったのは良かったな。幼い頃からしっかりと魔法の訓練をしたおかげか、未来の頃よりも随分と魔法が上手くなった」
魔力の扱いは子供の頃からやっている。大人になってから学習するよりも、子供の時の方が何かと成長は早い。
魔法に関して言えば、昔よりも使い勝手が良くなっていた。
魔力の量も昔より多い。
「それでも、本職の魔法使いに比べたら天と地程の差があるのが悲しくなるな。俺が使えるのは生活魔法と初級魔法だけだし」
魔法にはいくつかの階級がある。
魔法の難易度や使用する魔力量によって決められた階級。魔法使いは、高い階級を使えるように努力する。
生活魔法と言う、生活する上で何かと使える魔法はちょっと別枠なので省くとして、下から初級魔法、下級魔法、中級魔法、上級魔法、最上級魔法、禁忌魔法の6つの階級に分かれていた。
俺が使えるのはその中最も下の初級魔法。
見習いの魔法使いが使える魔法ぐらいしか使えないのである。
まぁ、魔法が使えるだけで何かと便利なんだけどね。
「.......ん、匂いにつられたか」
肉が焼ける間、昔少しだけ齧った武術の型を訓練していると、草木が揺れる。
「グギャ!!」
「グギギ!!」
そちらに視線を向けると、ゴブリンの群れが肉の焼ける匂いに誘われてやってきていた。
洞窟での生活は悪くないが、魔物襲撃が多いのだけは困りものだ。
食いっぱぐれることが無くなるのは有難いが、休みたい時に休めない。
「ゴブリンの肉は既に腐るほどあるんでな。食料が尽きてから来てくれ。そしたら食ってやる」
「グギャ!!グギャギャ!!」
俺はナイフを取り出すと、静かに構える。
ゴブリン達は、そんな俺を見て“肉をよこせ”と言わんばかりにこちらへ向かってきた。
ダメだよゴブリン。そんな直線的な動きで来たら。足元をちゃんと見ないと。
「俺の強みは手先の器用さ。当然罠は仕掛けてあるんだぞ?」
「グギャ?!」
この4年間、ただこの山の中で生活していた訳では無い。あの殺人鬼とやり合うために、色々と準備していたに決まってるだろ。
戦闘を走っていたゴブリンが、急に足を取られて転ぶ。
ゴブリンの足首には、ツタが絡まっていた。
「ちゃんと機能したようで何より。ほら、そこにも罠があるぞ」
「グギ────」
その後ろを走っていたゴブリンの一体の頭に、大きめの石が落ちてくる。
まさか頭の上から意思が落ちてくるとは思ってなかったゴブリンは、強く頭を打ち付けて気絶した。
当たり所が悪ければ多分死んでいる。もう少し大きめの石を用意していたら、確実に殺せていたんだろうなぁ。
これで残り四匹。
先陣を切った二体があっさり無力化されたのを見て、少し足が止まったゴブリン達。
俺は足元に落ちていた手の平サイズの石を拾い上げ、思いっきり投げる。
「フッ!!」
「ゴギッ!!」
顔面に直撃。
うわぁ、滅茶苦茶痛そう。
他人事のように俺は顔面が潰れたゴブリンを見る。10歳の子供が投げた石なんてたかが知れているが、投げ方次第ではかなりの威力となるのだ。
何よりちゃんと鍛えていたからな。大人には勝てないが、それなりの速度は出るのである。
「グ........グギャ!!」
と、ここで残ったゴブリン達は即座に退散。
ゴブリンはアホだが、自分達が明確に敵わないと分かった相手からはちゃんと逃げるぐらいの頭は持ち合わせている。
翌日には忘れてまたやってくる個体とかも居るけど........
「牙と骨は確保させてもらうか。肉は今沢山あるからいらないし、魔石とかもギルドで売れなきゃ意味が無いしな」
加工がやりやすく、罠を作ったりするのに役立つ骨と、弓の矢の材料となる牙だけ回収させてもらうとしよう。
俺は、足を絡め取られたゴブリンや気絶したゴブリン達を殺し、必要な部分だけ取り除いておいた。
魔石も一応確保してあるが、今の俺では使えない。
これが終わって、別の街に行った時に纏めて売り捌くぐらいしか使い道がないか。
「丁度肉も焼けたし、食事前の軽い運動になったな。罠の貼り直しだかが面倒だが、安全のためにもちゃんと作っておかないと」
俺はそう言いながら、焼けた肉を貪るのであった。
保身の為に俺を見捨てた冒険者達。しかし、こうして影で俺の援助をしてくれている辺り、彼らは彼らなりに思うところがあったのだろう。
借りができたとは思わないが、その心は少しだけ嬉しかった。
四年もの間一人でいると、ちょっと寂しさは感じるしな。
俺は自分が思っていたよりも寂しがり屋らしい。
【生活魔法】
魔法の分類の一つ。生活に必要な魔法がここに分類される。
この魔法は初級魔法よりも更に下の魔法として扱われており、この魔法が使えるから魔法使いという訳では無い。
魔力を感じられるだけの才能があれば誰でも使えるものとして作られた背景があり、使用出来る人は結構多い。
「はァ?また仕事?」
「そうだ。そんな嫌そうな顔をするな。今回は前回のような難易度のものでは無い」
影に潜む者達の集まり。
そこで心の底から嫌そうな顔をする爆殺魔エレノト。
彼女はつい先日、ひとつの大きな仕事を終わらせてきたばかりであった。
「お前のような亜人が我々の組織で生きていけるのは、その能力の高さからだ。拒否することは許されない」
「はん。自分の無能さを棚に上げて、よくもまぁそんな口を効けるわね。死にたいの?」
「組織を敵に回してもいいならな。予言があった。厄災の星が強く輝いているらしい。始末しろ」
「気が向いたらやっておくわ」
「........期限は二年だ。詳しいことはここに書いてある」
影に潜む者の1人が資料を机に置き、部屋を出ていく。
エレノトはその資料を見て、つまらなさそうに溜息をついた。
「はぁ........何時になったら現れるのかしらね?予言のババァが居るからここにいるけど、ここ臭いが酷いのよ。臭いったらありゃしない」
その資料に書かれていた国と村。
それは、ノワールが住む場所であった。
後書き。
今日から一話更新になります。ストックがね。流石にね...
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