12歳
村を追い出されてから六年が経過し、12歳となった。
俺は山の中で未来で教わった事をとにかく実践し、巻き戻る頃よりも圧倒的に強くなった。
とは言えど、元の才能があまり無かったので知れているが。
12歳になったという事は、そろそろあの化け物とやり合う時である。
今世ではリアと話すこともなかっただけに、一体誰のために戦おうとしているのか分からなくなってくる事もあった。
なんで俺はあんな村のために命を懸けているのだと。
しかし、それでも俺がこの村を離れたなかったのは、週に二、三回洞窟の前に置かれている食料があったからだろう。
もう山に入って随分と経つというのに、冒険者達は俺の住む洞窟の前に食料を置いて行ってくれた。
何度か鉢合わせる事もあった。
が、話すことは無かった。
もしも村で彼らが俺を話していたと言う噂の一つでも起きれば、次は自分が標的となる可能性があるからだろう。
“済まない”と謝罪の言葉だけを残して消えていった時は、ちょっとばかし悲しかったのを覚えている。
が、そんな日々ももうすぐ終わる。
村が吹っ飛ぶまで後、数ヶ月程。
あの化け物を殺せば、俺はリアやグリーズに前世での借りを返し終えるのだから。
向こうが気がつくことは無いだろう。俺が満足をするだけの話である。
「何時になったら奴が現れるのか........それが分からないのは困るな」
爆殺魔エレノト。
指名手配犯にして、懸賞金が白金貨数百枚と言う殺せば孫の代まで遊んで暮らせる金の成る木。
しかし、彼女の目撃情報はあれど、彼女を殺した者はいない。
俺が未来で聞いた噂じゃ、冒険者の最高峰ミスリル級冒険者ですら敗北したとか何とか聞いたしな。
........やっぱり無理過ぎないか?まだドラゴンを討伐して来いとか言われた方が可能性がありそうだ。
「確実に現れるのは、村が吹き飛んだ後。だが、その時には既に遅い。それよりも前にやつを見つけないとな」
下級魔法が使えたら、探すのも少しは楽になるのだが、俺は初級魔法しか使えない。
結局のところ、地道に探し続けるしかないのである。
村が吹き飛ぶまであと数ヶ月。
俺は毎日山の中を練り歩き、殺人鬼の影を探していた。
動くなら夜。だから、夜の活動時間を伸ばしているのだが、月明かりしかない場所で山の中を歩くのは危険である。
痕跡を見つけるのも難しいし、下手に動き回って魔物を起こすとかやりかねないからな。
ゴブリンの群れ程度なら対処できるぐらいには鍛えたつもりだが、ひとつのミスで死ぬのが人間というものだ。
死んでも戻れるが、好き好んで死にたいわけじゃない。
痛いし、苦しいし。
「まぁ、一回は絶対に巻き戻ることになるんだけどな」
爆殺魔を見つけたら、そこから色々と仕込む必要がある。
最低でも一週間は必要なので、七回は死ぬことになるだろう。
この六年間、頑張って死なないようにしていただけに、記録が途絶える気がして少し悲しい。
........いや、普通は死んだら終わりなんだから記録もクソもないか。
死にすぎてここら辺の感覚がおかしくなってるな?
未だに朝起きて無意識にナイフを手に取る事があるし、人の癖、慣れは恐ろしいものである。
もう恐怖心すら感じてないからな。
そんなことを思いながら、俺は山の中を歩き回る。
今の時刻は昼過ぎ。日が沈んでからも捜索するつもりではあるが、出来れば日が出ている内に見つけたい。
捜索を始めて既に二ヶ月近く。まだあの殺人鬼はここに来ては居ないのだろうか?
「........ん?ここら辺じゃ見ない足跡だな。魔物じゃない」
そんな事を思いながら歩いていると、普段では見かけない足跡を見つける。
冒険者の足跡は大体覚えている。
俺の記憶にあるそのどれもとは違った足跡。
村人が山に入った可能性も考えられるが、あの女のものである可能性はかなり高いだろう。
俺はその足跡の形を覚えると、追跡を開始した。
足跡を追うこと数十分。
遂にその足跡の持ち主を見つける。
白く靡く髪と、赤い触角のような髪。
奇抜な服装は以前と変わらず、蛇のような眼光。
見つけた。
6年越しの邂逅。アレが、爆殺魔エレノトだ。
これで居場所を掴めた。後は仕込みをして殺せれば俺の勝ちである。
しかし、その前に今の俺とあの化け物にどれほどの差があるのかを知りたい。
情報はあればあるほどいいのだ。
「奇襲は........いや、今じゃないな。もう少し後にしよう」
「〜〜♪」
何やら機嫌が良さそうだ。
頭を左右に大きく振りながら、鼻歌を歌っているのが聞こえる。
呑気なものだ。お前は全世界から追われるような殺人鬼だと言うのに。
街に姿を表せば、その賞金欲しさに街全体が殺しにくるだろう。
それなのに、当の本人は鼻歌を歌いながら山の中を歩いている。
これが強者の余裕ってやつか?
そんなことを思いながら、追跡を続ける。
そして、少し開けた場所にたどり着いたその時、殺人鬼はピタリと止まってこちらに視線を向けた。
「出てきなさいよ。さっきからずっと追いかけてきているのは分かっているわよ」
「........」
かなり本気で気配を消して尾行したと言うのに、気づかれるとは。
ここまで来るともうどうしようも無い。逃げようとしても捕まるだろうし、ここは大人しく姿を見せた方がいいな。
どうせ後で死ぬし、巻き戻れば俺の顔なんざ覚えちゃいない。
「あら、随分と可愛らしい子が私を追ってきていたのね。どうしたの僕ぅ?迷子かな?」
「分かってて言ってんだろ?爆殺魔エレノト」
「ふふっ、ふふふ。バレた?」
「わざとらし過ぎる演技だな。舞台に立てば大根役者として大成できるんじゃないか?舞台上の道化師として」
「ガキの割に難しい言葉を知ってるじゃない。なぁに?覚えたての言葉を使ってみたかったのかしら?」
エレノトはそう言うと、ニヤニヤと笑いながら俺を見つめる。
いい機会だ。今の俺が以前と比べてどこまでやれるのか試してみるとしよう。
俺はナイフを引き抜き、静かに構える。
前回はまるで鍛えておらず、食事もろくに取れてなかったが、今回は違うぞ。
「私とやり合う気?実力差が分かるほど大人でもないか。私、あまり子供を殺す趣味はないんだけどねぇ?」
「どの口が言ってんだ。今まで多くの子供も人も、殺してきただろ」
「それが仕事だもの。殺らなきゃお金は貰えないのよ?冒険者と同じね。依頼を達成しなければ、報酬を得ることが出来ない。私の場合は、人殺しが依頼なのよ」
「反吐が出る。せめて、その口の笑いを辞めてから言うんだな」
「あら、私笑ってた?本当に子供を殺す趣味はないのよ?」
薄ら笑いを浮かべるエレノト。
別に俺に関係の無い相手を殺そうが勝手だが、笑いながら人を殺せるその神経は理解できない。
いい気分じゃないんだけどな。人を殺すのは。
例え極悪人であろうとも、同族を殺すのは少し気分が悪い。
種族が生き残るための本能なのだろうか?同族で殺しあってたらあっという間に滅びるもんな。
それでも争いを辞めないのが人間という種族なのだが。
という事は、慣れてしまうわけだ。俺が死の恐怖に慣れてしまったように。
「お前はここで死ね」
「私はまだここでは何もしてないけど?」
「その言い方の時点でなにかする気満々だろうが。あの村を吹っ飛ばすつもりか?」
「鋭いわね。仕事の依頼でね、村を消すのよ。今なら見逃してあげるわよ?仕事の内容は村を消せだからね。特定の個人を殺すことでは無いの」
「村は滅んで欲しいとすら思っているが、借りがあるんでな。悪いがそれは断らさせてもらう」
「そう。残念」
二度目の戦闘。リベンジマッチ。
勝てるとは思ってないが、この六年間でどれだけ戦えるようになったのか試させてもらうとしよう。
どうせ後で死ぬし、ここで殺されても変わらないしな。
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