人を殺せるか


 暗部組織“死の音楽団アンサンブル”。


 彼らの悪行を数しれず、一国の王すらも殺す戦力を持った化け物達の集団。


 そんな組織を相手にする為に、俺達は仲間集めをしなければならない。


 この国の亜人達を解放し、戦力にする。


 その戦争をするために更に戦力が必要な為、エレノトの宛がある場所を巡って亜人種達を仲間に引き入れるのだ。


 亜人種の多くは人間達の奴隷である。


 彼らは、多くの人々に虐げられているが、そんな中でも人目を避けて生きている。


 そんな者達を率いて、表舞台に立つ。それがやるべき事という訳だ。


「どこへ向かってるんだ?」

「この山を超えた先に、小さな集落があるのよ。色々と世話にもなった場所でね。彼らならきっと、いい戦力になってくれるはずだわ」


 村を離れて1週間。俺とエレノトは凄まじい勢いで国を南下していた。


 亜人種は人間よりも肉体的に優れており、体力も多い。


 俺が疲れ切って歩けなくなっても、俺を担いでスタスタと歩けるぐらいには肉体的な差があるだ。


 とくに肉体的、魔法的に優れていると言われている竜人族となれば、その差は歴然。


 よく俺はコイツを一度でも殺せたなと感心するほどである。


 そして、確信した。


 あの時のエレノトは油断に油断を重ね、更には遊んでいたのだと。


 多分、本気を出されていたら俺は瞬殺されていた事だろう。


「足いてぇ........」

「あら、疲れたの?ならお姉ちゃんがおぶってあげようか?もちろん、可愛くお願いしたらね」

「ふざけんな」


 今日もある一日歩き続け、しかも、エレノトの速さに合わせているため足に限界が来ている。


 エレノトは俺の疲れを見抜くの、楽しそうに俺を見た。


 ここでお願いすれば、エレノトは俺わおぶってくれる。しかし、俺はいつもそれを拒否していた。


 プライドが許さないとかそういう話ではなく、単純にこの女がウザイのである。


 単純にあまり頼りたくはない。


 ........それを人はプライドと言うのか。どちらにせよ、エレノトの背中に身を任せるのは普通に嫌であった。


「いっつも嫌がるわね。何?亜人の背中には乗れないって事?」

「お前だから乗りたくないだけだ」

「あら酷い。私のように心優しき慈悲に溢れた聖母の優しさを棒に振るだなんて。なんだか悲しくなってきちゃう」

「そういうところだぞ」


 真に優しいやつは、自分の事を“聖母の優しさ”だなんて口にしないんだよ。


 殺人鬼の癖して、よくそんな事が言えたな。


 それから更に歩くこと一時間。


 既に限界が来ていた俺の足は、ついに悲鳴をあげる力すら無くなってしまう。


 ほぼ早歩きの状態で朝から晩まで歩き続ければ限界も来る。昼に少し休憩したとしても、子供の体では無理があるな。


 遂に歩けなくなってしまった俺。今日も頑張って歩き続けたが、昨日よりもバテるのが早い。


「あら、もう歩けないの?あと2時間ぐらいは移動したいというのに」

「........おれは子供だぞ。子供の歩く速度に合わせて歩いて欲しいものだがな」

「そんなことしていたら、いつまで経っても目的地には付けないわよ。ほら、手を貸しなさい」


 エレノトが手を伸ばす。


 普段は俺を茶化して遊ぶエレノトだが、本当に俺が疲れ切って動けない時は何も言わずに手を貸してくれる。


 俺がその手を掴むと、エレノトは俺をおんぶして歩き始めた。


「全く。少しは余裕を持ちなさいよ。1時間ほど前に手を貸してあげると言ったでしょう?」

「あのウザイやり取りがなかったら素直に甘えていたさ」

「大人びていたとしても、貴方は子供なんだから素直に甘えておきなさい。其れが子供の義務よ」

「........」


 俺、一応中身は33なんだけどな。


 もちろんそんな事は言えないので、俺は黙る。


 エレノトに俺の力について話すべきか悩んだことがある。


 死に戻りの力。エレノトは俺の事を未来視ができる少年だと思っているが、少し違っているのだ。


 俺は死に戻って未来を見ているのである。


 最初から答えが全て分かっている訳では無いのだ。


 少しだけ未来を見てやり直し、その未来に対応して更に先の未来を見る。


 これを繰り返すことで、最終的に最後まで未来を見る事が出来る。エレノトは、その事実を知らないのだ。


「ねぇノワール。貴方、人を殺したことはある?」


 ふと、エレノトがそんなことを聞いてきた。


 俺はエレノトの背中に揺られながら、静かに答える。


「ある。なんなら、お前も殺しただろ。生き返ってきたけど」

「あら、私を人として数えてくれているの?やっぱりノワールは優しいわね。私以外の話、人間の話しよ」

「あるぞ。村長一家もある意味俺が殺したも同然だし、俺の手で人を殺したこともごまんとある」


 自分を刺し殺した以外での話だとしても、俺はそれなりに人を殺している。


 冒険者となり旅をすれば分かるが、この世界には危険が多すぎる。


 魔物はもちろん、人だって危険になり得るのだ。


 盗賊や野盗、そして同じ冒険者達。


 何かの拍子に殺し合いが始まり、最終的にどちらかが死ぬ。


 殺さないなんて選択肢はない。そこで優しさを見せれば、その刃は自分を殺すのだから。


「そう。ならいいわ。人を殺すことに抵抗を覚えていたらどうしようかと思ったのよ」

「今更確認することか?どうせ何人か殺せば慣れるもんだろ」

「単純に忘れていたというのはあるわね。良かったわ。嫌がる子供に無理やり殺しを強要するのは気分が良くないもの」

「お前について行くのを嫌がる子供には笑ってたのに?」

「心の奥底では涙を流していたわよ?でも、目的の為には手段を選ばないの」

「口が笑ってんぞ」

「あら?それは失礼」


 こうして、俺はエレノトに背負われながら目的地へと向かう。


 ........悔しいが、乗り心地は悪くなかった。




死の音楽団アンサンブル

 エレノトも所属している裏組織。金さえ積めばありとあらゆる仕事をしてくれる何でも屋であり、殺人はもちろん誘拐や密売までも担当している。

 世界各地に拠点があり、裏の世界を多くを支配している。

 基本的に後暗い仕事ばかりが来るのだが、金さえ積まれれば何でもやるので畑仕事とかも頼めたりする。




 2日後。村を離れてから約2週間近く。


 エレノトと適当な会話をしながら歩き続けると、ようやく目的地が見えてくる。


 山をひとつ超えた先にある森の中。人里離れた森の中で切り開かれた小さな村。


「見えてきたわね」

「あれが目的地か?仲間になってくれるっていう........」

「そうよ。彼らとは個人的に交友があってね。昔、色々とお世話になったりもしたのよ」


 かなり頑丈に作られている柵。城壁と言うには少し心許ないが、ロストの村よりはかなりしっかりと作られている。


 そして、その上にある見張り台に見える人物。あれほどまでに特徴的な亜人は一つしかない。


 ゴブリンと同じく緑色の肌を持ち、ガタイのいい肉体を持った亜人種。


 その力は人間を容易く引き裂き、人の街では肉体労働でよく見かける彼ら。


 その名も──────


「オーガ」

「よく知ってるじゃない。そうよ。ここはオーガの村。人間達から逃れてきたオーガの多くが集まる村ね」


 鬼のような顔と大きな図体。


 冒険者達の中でも肉壁としてかなり人気が高く、前線を張るために使われていたのを何度か見たことがある。


 そんな彼らが集まる村がこの国にあったとは驚きだ。


「さぁ、行くわよ」

「なぁ、これ俺が行っても大丈夫なのか?下手したら殺されそうなんだが」

「大丈夫よ。私の仲間だと分かれば、彼らも手出しはしてこないわ」


 亜人種の多くは人間を恨んでいる。彼らが俺を見て殺しにくる可能性だって普通に有り得るのだ。


 あれ?もしかして、エレノトがやろうとしている事ってかなり無理があるのでは?

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