オーガの村へ


 亜人の中で最も有名な種族と言えば何か。


 それはエルフだろう。


 人間とは比べ物にならない寿命と、その美しい見た目は多くの人々が欲しがるものだ。


 特に女性のエルフは人気が高く、その金額も凄まじい。


 では、肉体的に優れた亜人と言えば何か。


 代表的なのは獣人だが、多くの人はこう答えるだろう。


 それはオーガだと。


 鬼のゴブリンと呼ばれる事もある種族オーガ。その見た目は確かに筋肉をつけて巨大化したゴブリンと言われても無理は無いが、彼らをゴブリンと同じにくくるのはあまりにも失礼な事である。


「遠くから見た時にもしやと思ったが、エレノト嬢だったか。久しいな」

「えぇ。久しぶりね。とは言っても仕事に行く前にも顔を出したから、一ヶ月ぶりとかそのぐらいかしら?」

「ハッハッハ。そうだな。何時もは数年、数十年近く間を開けるだけに、少し新鮮な気分だ」


 村の門を守るオーガの一人が、エレノトと親しそうに話す。


 そう。ゴブリンには無く、彼らにあるもの。


 それは知能と言語だ。


 言葉を話し、そして考える。


 本能に頼りきったゴブリンとは違い、彼らは多くのことを自分たちで考え人と変わらず言葉を話すのだ。


 体内に魔石も存在していなかったはずである。魔物と亜人種の違いは、体内に魔石が存在せず、言葉を話す知能ある生き物が定義になっていたはずだし。


「それで、その人間は誰だ?迷子にでもなった子供を連れてきたのか?」

「迷子の子供だったら、今ごろ人の街に送り届けていたわよ。この子は私の仲間よ。そして、私が求めていた人材なの」

「........なるほど。いつも語っていた王の。人間がか?」

「人間でなければならないのよ。人間が自分達の過ちを知るためにはね」


 どうやらエレノトは、この村のオーガ達に自分のやるべき事を色々と語っていたそうだ。


 亜人達の王を作り、新たなる国を作り上げるという事を。


 しかし、その王が人間であるという事は何も話していないように見える。この村で死ぬ覚悟もしておいた方がいいかもな。


 次はオーガに殺されるのかぁ........死に方が豊富になってきたな。


「........はぁ。まぁいい。エレノト嬢のお仲間となれば、通さない訳にも行かん。おい、そこの人間。下手な真似をしたら貴様を殺す」

「こんな子供に何か出来るとでも?無理だよ。俺は所詮ただの人間だからね........ところで、ひとつ聞きたいんだけど」

「........なんだ?」


 ギロリと俺を睨みつけるオーガ。


 何を言われるのか警戒しているように見えるが、俺は別に変なことを聞こうとしている訳では無い。


 オーガはとても背が高く大きい種族。身長は大体2~3m程もあり、全力で上を見上げて何とかその顔が見えるほどに差がある。


 そして、俺の最近の悩み。それは、幼い頃に鍛えてきたためか何故か身長が昔よりも伸びてないと言うもであった。


「どうやったらそんなに大きくなれるの?」

「........ん?」

「いや、流石にそこまで大きくなりたい訳じゃないんだけど、もうちょっと大きくなりたくて」


 俺が人間だから、きっと自分達を批判もしくは蔑むようなことを聞くのかと思っていたのだろう。


 身長をどうやったら伸ばせますか?という質問をされると思っていなかったオーガは、面食らったように目を丸くしていた。


「アッハッハッハッハッ!!なんて面白い顔をしてるのよバーラン!!ほら、可愛い子供の質問よ?このぐらい答えてあげなさいよ!!」

「そ、そうだな........やっぱり肉を食べることじゃないか?たくたん食べて健康的に育てば大きくなれると思うぞ」

「なるほど。やっぱり肉か。ありがとバーラン。参考にしてみる」

「お、おう」


 エレノトは大笑いし、バーランと呼ばれたオーガはキョトンとしつつも質問に答える。


 身長を伸ばす方法なんて考えたこともなかった。昔は最低限の身長はあったはずなんだけどな........


 大人の感覚でいるからどうしても自分の体が小さく感じてしまうのだ。


「ね?変わった子でしょ?貴方達を蔑むだけの存在として見てないのよノワールは。対等な関係だと思って見ているのよ」

「子供だから知らないだけじゃないのか?」

「あら、今どきの子供は亜人種に向かって石を投げるのよ?人間社会に染み付いた亜人蔑視の文化は根強く、貴方達が思っている以上に大きいの。村の子供であってま亜人は人間よりも劣る劣等種だなんて口にするんだから」

「そう考えれば、この子の反応は随分と変わっているという事か」

「そういう事よ。私が連れてきた子がそんな普通の人間なわけないじゃない」


 確かに今どきの子供は亜人種に向かって石を投げるな。未来で訪れた街でそんな光景を見たことがある。


 獣人に向かって石を投げる子供、そしてそれを受け止める獣人。


 反撃もできず、ただひたすらに耐えていた姿を見て“俺よりも不幸なやつはいるんだな”と思ったものだ。


 彼からすれば、傍観者であった俺もあの子供達と同じだろう。


 子供達を止める訳でも無く、ただその光景を見て見ぬふりをした俺は。


「バーランだ。少なくとも、俺が嫌悪する人間でないのは間違いなさそうだからな。すまなかった」

「ノワールだ。気にしてないからいいよ。俺もそっちの立場なら厳しい目を向けてただろうし」


 どうやらこのオーガは随分と考え方が柔軟らしく、俺が普通の人間達とは少し違った考えを持っていると分かると握手を求めてくる。


 俺はその手を握り返した。


 俺の手が小さすぎて全く握手になってないのはご愛嬌だが。


「たが、気をつけてくれ。俺はノワール君が他の人間とは違うと認識したが、中には頭の硬い連中もいる。エレノト嬢からはなるべく離れないことを薦めるぞ」

「わかった。忠告感謝するよ」


 とりあえず、このオーガと仲良くなれただろう。


 今度その肩に乗せて貰えたりしないだろうか。一度見てみたいんだよな。背の高い種族が見ている景色ってやつを。


 未来では話すこともほとんどなかったオーガと握手を交わし、俺はエレノトに連れられて村へと入る。


 そこは、思っていた以上にしっかりとした村となっていた。


「........俺のいた村よりも下手したら豪華だな」

「そうでしょう?オーガは意外と建築技術や畑仕事が得意なのよ。まぁ、そうしないと生きていけなかったと言うのもあるだろうけど。あの大きな巨体で、ちまちまとした事をやるのが好きなのよ」

「俺のイメージはどうしても戦場で暴れ回る姿だからな。こうして普通に暮らしているのを見ると、彼らも人間と変わらないのがよく分かる」


 少し違う点があるとするならば、その建物がオーガに合わせて作られている事ぐらいだろう。


 家が全体的に大きいということ以外は、ほぼ人の村と変わり無かった。


「むしろ、戦場では素晴らしい活躍をしてくれているのだから、人間よりも上よ。私は亜人至上主義者では無いけれど、人間よりも多くのことは亜人の方が優れていると思っているわ」

「安心しろ。俺もそう思っているし、多くの人間も一部分の関してはそうであると思ってる。ただ、自分達よりも存在そのものが劣ると思っているだけだ」

「傲慢すぎると思わない?人間の癖して」

「その傲慢さに関しては、他の亜人種よりも上にあるんじゃないか?」

「ふふふっ。そうかもしれないわね。中には自分達こそ神によって作られた存在であると言い放つ頭のイカれた亜人種もいたけど」


 ........どこの世界にも似たようなやつはいるんだな。人間と同じように、自分達が最も優れた種族であることを疑わないやつが。


 俺はそう思いながら、エレノトから離れないようにしつつオーガの村を歩くのであった。

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