星の輝きが増す


 正直、後10回ぐらいは死に戻ることを想定していた。


 作戦と言うのは、そんな都合よく綺麗に決まるものでは無い。


 特に戦争となれば幾つものイレギュラーを抱えることとなる。そしてその中で最も効果的な打撃を生み出すのが戦争だ。


 今回は規模が小さいとは言えど、人間と亜人の戦争であることは間違いない。


 絶対にどこかで破綻が起きる。そう思っていた。


「か、勝った!!俺達の勝ちだ!!」

「やったぞ!!俺達が人間に勝ったんだ!!しかも、10倍以上の戦力を相手に!!」

「ハハハ!!やったなノワール坊ちゃん!!」


 落とし穴にハマった兵士達の血がそこへと溜まり、大きな血の池を作り出した頃。誰一人として動かなくなった兵士達を見てオーガ達が自分達の勝利を確信する。


 その喜びようはかなりのものであった。


 無理もない。10倍以上の戦力を相手に、それもこの世界の支配者と言っても過言ではない相手に被害ゼロで勝ってしまったのだから。


 オーガ達の喜びは痛い程分かるし、おれも内心喜んではいる。


 だが、どうしても以前の経験が頭をよぎる。


 落とし穴にハメ、確実に死んだと思ったはずの相手が翌日のうのうと生きていた事を。


 流石にないよな?流石にもう一度同じようなことは無いよな?


 不老不死とか言うどう考えても理不尽すぎる存在が、この世界にもう1人、それもこんな近くに居るとかないよな?


「あら、あまり嬉しくなさそうな顔をしてるわね?何かあったの?」

「エレノト........お前のような理不尽が、この世界に二人もいたりするか?」

「........?あぁ。私の時みたいに生き返ってくるようなやつが居ないのか警戒しているのね?安心しなさい。この世界でこんな体を持っているのは私だけよ。断言出来るわ」

「信じていいんだな?その言葉」

「そんなに心配なら、この落とし穴を埋めておきなさい。そうすれば、多少は時間が稼げるわ」


 エレノトとか言う例外を知っているからこそ、俺は素直に喜べない。


 不老不死という理不尽な存在がそうポンポンと生まれるわけが無いのは知っているが、俺のようにひょんなことから力を手にすることもある。


 ........今思えば、とんでもない確率だな。


 不老不死の存在と、死ねば時間が巻き戻る存在。


 この二人がこれほど広い世界で出会う確率は、奇跡に近い。


 奇跡はそう何度も起こらない........よな?


 やっぱり不安だし、埋めておこう。後に偵察に来るであろう者たちに少しでも時間を使わせることも出来るしな。


「エレノト、始末した奴らはこの中に入れておけ。それと、血痕はできる限り消しておけよ」

「あら、それなら問題ないわ。あっちは綺麗に消したから。今回は死体が残ると不都合でしょう?ちゃんとそれに適した殺し方と言うのがあるのよ」

「そ、そうか」


 サラッとしたいの残らない殺し方があると言うエレノトに軽く引きつつ、俺は喜びを分かち合うオーガ達に指示を出す。


 戦争は目標を達成し生きて帰るまでが戦争。


 生き残りに奇襲されて死んだ兵士や仲間を俺は知っている。最後の最後まで気を抜いてはならないのだ。


「オーレン!!今からこの穴を埋めるぞ!!」

「証拠を隠すんだな?分かった」


 最初はあれほど俺につっかかってきていたオーレンも、今となっては大人しく俺の指示を聞くようになっている。


 態々7回も死んでやり直した甲斐があったというものだ。これで、オーガ達からの信頼を大きく得られたのだから。


「結局、保険は使わなかったな。ここまで上手くいくとは思って無かったし」

「なら持っておきなさい。いつの日か役に立つわよ」

「そうするよ」

「ちなみに、それを作るの結構大変だったから、代金として一緒に寝てもらうわよ」

「言うて最近は勝手に俺の所に来ては寝てるだろうが。こっちとしては冷や汗が止まらなくて困る。1人で寝ろ」

「嫌よ。一人は寂しいもの」


 結局保険を使うことも無く、大きな困難も試練も無くオーガと人間の戦争は幕を閉じた。


 これで俺は完全に亜人側に立ってしまった訳だが........まぁ、なんとかなるか。いざとなれば、死にまくってまたやり直すだけだしな。


「次に目指す場所とか決まってるのか?」

「まだ決まってないわ。とりあえずこの森を手放すことぐらいしか」

「........そうか」


 なら、あそこが良さそうだな。


 未来は大きく変わりつつある。滅びたはずの村は滅びず、死ぬはずであったオーガ達は生きのびた。


 これは今後の未来に大きな影響を与えるだろう。


 しかし、今はまだそれほどまで未来は大きく変わることは無い。


 それこそ、既に何年もの間変わってない所は。


「隣国、エルバーンに行くか。あそこは亜人の奴隷が多いし、何より地形が防衛にかなり適している。時期的にも俺達が入り込みやすい」

「........何をやるつもり?」


 隣国エルバーン。


 周囲を自然の要塞で守られた小国。


 資源も豊富で多くの食料や水を確保できる為、割と豊かな国として知られている。


 しかし、ある時期からエルバーンという国は大きな衰退を迎える。元々堅牢な守りがある為国が滅びることは無かったが、それでも国力を大きく落とした。


 今の時期なら俺達もまだ間に合う。あの国は亜人奴隷の文化が盛んで、かなり多くの亜人種を抱えていたはずだしな。


 俺はニィと笑うと、エレノトにこれからやる事を伝えた。


「亜人の王国の建国」

「........は?」


 まさか国を作ると言い出すとは思ってなかったエレノトは、面白いほど呆けた顔をしていた。




【エルバーン王国】

 ガランド王国の隣にある小国。周囲が山で囲まれており、また標高がかなり高いため軍が攻めづらく守りやすい地形となっている。国力はそこまで高くないが、資源が豊富でかなり暮らしやすい国。

 亜人差別の文化が根強く、かなり多くの亜人奴隷が存在している。




 死の音楽団アンサンブル


 それはこの世界に存在する最も知られている裏組織であり、この世界で最も幅を聞かせている存在である。


 この組織は世界各地に存在しているが、そのどれもがどんな仕事でも請け負うのだ。


「........は?彼女役をやって欲しい?」

「そうなんです!!今度親が帰ってくるんですけど、安心させたくて!!」

「いやまぁ、金を払ってくれるんなら手配するけど........高いぞ?仮にも何でも屋だからな」

「問題ありません!!」


 よって、こんな仕事もやってくる。


 親を安心させたいが為に、彼女役を寄越して欲しい。


 仮にも裏組織にそんなことを頼むアホがこの世界に存在するのかと思うが、裏組織だからこその信頼というのもある。


 顧客の情報は絶対に漏洩させないし、口外もしない。


 彼らはその信頼を積み上げてきたからこそ、今の地位があるのだ。


「金貨3枚で足りますか?!」

「足りるどころか、仕事の難易度を考えたら多すぎるな。1枚でいい。これでも多いぐらいだけど」


 そんだけ金が払えるなら、女を買うなりなんなりすればいいのに。


 男はそう思いながらも、依頼者を見送った。


「世の中、馬鹿なやつもいるんだな」

「全くだ........と言いたいところだが、俺は3回目だぞ」

「何が?」

「あぁ言う変な依頼を見たのは」

「マジかよ。世の中って広いな。それはそうと、婆さんがまたなにか騒いでたな。星の輝きが増したとか」

「あーあの婆さんな。予知能力者なんだって?でも言葉が抽象的すぎて理解できなかったり誤解をよく招くとか」


 組織には多くの者が存在する。その中には未来を予言できる者も存在していた。


 しかし、その老婆の言葉はあまりにも抽象的すぎる上に、割と外れる事で有名。


 エレノト以外はその話をあまり真剣に聞かないのだ。


「まぁ今回も妄言だろ」

「だな」


 彼らがその予言が本物であることに気がつくのは、遥か遠い先の話である。





 後書き。

 この章はここまで。いつも沢山のコメントありがとうございます。全部読んでるよ。

 と言うわけで、亜人は普通に強いよ回でした。ノワール君が明確に亜人側に立った瞬間でもあります。

 やっぱりリセマラは正義。

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