エルブ反乱

エルバーン王国


 レパノン軍を見事撃退し、俺という存在が明確に亜人側に立ってから数ヶ月後。


 オーガ達は森を抜け、山を超えて目的地であるエルバーン王国へと足を踏み入れていた。


 ガッツリ不法入国なので、これがバレた場合俺が人間であったとしても処罰の対象である。


 懐かしいなぁ。仕事で他国に不法入国したのがバレて、三ヶ月間臭い飯を食ったのが。


 その後、なんやかんやあって出られてよかったわホント。


 軍は規模が大きくなる度に進行速度が遅くなる。多くの人を動かせばそれだけ多く物資が必要となり、その物資が人々の歩みを遅くさせるのだ。


 しかし、オーガ達はかなり身軽であり、必要最低限のもの以外は全て現地調達となる。


 もともと肉体的に優れた種族というのも相まって、彼らの行進する速さは尋常では無かった。


 この規模の数でしかも足場の悪い森の中を歩きつつ、人間達に見つからないように移動するのはかなり至難のはず........なのだが、俺が足を引っ張るぐらいには進みが早く、冬が来るよりも早く山を登り終えてしまったのである。


 オーガの事は理解していたつもりになっていたが、つくづく自分の浅はかさに嫌気がさす。


「この山を超えたらエルバーン王国なのだな?」

「そうだよ。自然の要塞な囲まれた小国。亜人種への奴隷差別がかなり顕著に現れている国エルバーンさ。この国で捕まると大変なことになるだろうから、気をつけてくれ」

「ハッハッハ!!どこの国でも儂らが捕まれば扱いは変わらんだろうて!!」


 山を超えたことによって、エルバーン王国へと足を踏み入れた俺達。


 エルバーン王国は亜人差別がかなりキツイ国だと言うと、“そんなものはどこも変わらない”とアーノントが笑い飛ばす。


 そして、その豪快な笑いにつられ、ほかのオーガ達もケラケラと笑っていた。


「確かにそうだな。俺たちの扱いはどこに行っても変わらない。が、ノワール坊ちゃんが変えてくれるんだろ?期待してるぜ」

「期待されても困る。俺はただ、そこにいる殺人鬼に連れてこられただけの被害者だからな」

「あら、失礼しちゃうわね。ちゃんと同意は求めたはずよ?」


 同意(脅し)なら求めたな。あれを同意と言うなら。


 人が守ろうとしたものをぶっ壊すか、自分に着いてくるかの二択を迫ったくせによく言う。


 エレノトは一回“同意”と言う言葉の意味を辞書で調べた方がいい。この頭のイカれた女に、辞書を売ってくれるような本屋があるならの話だが。


「よく眺めておくといい。この国は近いうちに俺たちの国になるからな」

「そうは言ってもよノワール。たった100人足らずの俺達でどうにかなるのか?」


 この自然に囲まれた要塞の国はいずれ亜人達の王国となる。


 そう口にすると、ダレスがごもっともな質問をなげかけてきた。


 かつては武術を教え、友人として過ごしていたオーガの少年ダレス。


 未来を変えるためにこの友好関係を切り捨ててオーガ達と共に戦ったが、友情とは何時でも育めるものだ。


 この数ヶ月間、ダレスとはよく話し、色々と人間社会について教えてあげたりして友人と呼べる関係性に戻っている。


 移動中、俺が疲れきって武術を教えてやれなかったのは正直申し訳なかった。


 ある程度生活の基盤が出来上がったら、また武術を教えてやろう。その時は俺がボコられるかもしれんな。


「この国は今、内戦中なんだよ。今代の王があまりにも無能でな。特権を使った横暴な政略ばかりを打ち立てたお陰で、市民の不満が爆発しているんだ。正確にはこの国じゃなくてこの国の王都がな」

「つまり、貴族達はそこまでアホじゃないって事か?」

「いや?貴族達の中にも王家派閥と貴族派閥、そして市民派閥があったはずだ。王家に媚びを売りたい王家派閥と、自分たちが王になりたい貴族派閥。そして国の基盤を作る市民に寄り添った政策をしなければならないと考える市民派閥。この3つが今は睨みを聞かしている。内戦というのは少し違うかもな。正確には、市民による反乱と言うのが正しい」


 エルバーン王国は現在、王都で反乱運動が盛んになっている。


 もちろん、表立ってやれば粛清されるのは目に見えているから、陰に隠れながら彼らは準備を進めているはずだ。


 そして、冬が開けた頃に大きな反乱を引き起こす。


 その反乱が引き金となり、貴族派閥と王家派閥の内戦が勃発。


 更にはその戦争に巻き込まれた市民達を守るために市民派閥までもが参戦し、国家全土を巻き込んだ大きな内戦が起こるのだ。


 俺が別の街に入って色々な仕事をしつつ食いつないでいた頃に聞いた情報である。


 確か、貴族派閥のどこぞの公爵家が最終的に勝ってたかな。ただ、内戦の影響で凄まじい国力の衰退を見せ、最終的に市民にもう一度反乱を起こされてこの国の王は消え去ったはずである。


 それ以降は市民を代表する者をみなで選ぶ民主主義が採用され、評議会が設立されていたはずだ。


 ここまで国がボロボロになれば他国に侵略されそうなものだが、この国は自然の要塞で守られている。


 守りに関してはあまりにも鉄壁。内戦さえなければ、この時代も平穏な生活を送れたしこうして俺に目をつけられることも無かっただろう。


「よく知ってるわね?誰から聞いたのかしら?」

「ちょっと村で話題になっただけだ。商人がやってきた時に偶然聞いてな」

「........ふぅん?そういうことにしておくわ」


 ここまで他国の情勢を知っているのはさすがに怪しすぎると、エレノトが俺を見て目を細める。


 エレノトには俺が未来を見れる存在ではなく、死に戻れる能力を持っている事は伝えていない。


 必要になれば言うかもしれないが、その必要が今のところ見当たらなかった。


 でも、今後のことを考えるとエレノトだけにでも伝えた方がいいかもしれない。


 俺が不自然な動きをした時に、フォローを入れてくれる役目として。


 俺の能力は先を見て死に戻りその情報を生かす事が強み。つまり、死ぬことを前提に動く場面が必ずあるという事である。


 そう考えると、1人ぐらい理解者が居てくれてもいい気がする。


 そっちの方が、何かと立ち回りやすくなるのは明白だ。


 だが、エレノトと言う頭のぶっ飛んだ殺人鬼にそれを伝えていいものかと言う疑問も残る。


 だから、俺はまだその力の事を誰にも打ち明けていない。


「なるほど、その内戦に我らが干渉するという訳だな?」

「まぁ端的に言えば。まだ細かい作戦なんかは何も決まってないから、取り敢えずはこの国で暮らせるだけの地盤を整えよう。王都で反乱が起きるのは少なくとも冬が開けてからの話だ」

「なるほど。では山下りと行くか。気をつけるのだぞ。ここで滑って死にましたとかいう奴がいたら、儂が笑い転げるからな!!」

「「「「ハッハッハ!!」」」」


 縁起でもない事を言うアーノントの冗談に笑うオーガ達。


 オーガ達って以外とこういう冗談が多いよな........


「ほらノワール。危ないからお手手繋ぎましょうね」


 そんなことを思っていると、エレノトが俺に手を差し出して手を繋ぐように行ってくる。


 俺はもちろん全力で拒否した。


「ふざけんなよ。1人で降りられるわ」

「もう。つれないわね。偶には私に甘えてくれてもいいのよ?」

「それならまだダレスやオーレンの方がマシだな。誰が殺人鬼の手を嬉々として握るんだよ」

「........あの二人を殺そうかしら?」

「そういう所だぞ」


 尚、その後結局エレノトに無理やり手を繋がれ、俺はオーガ達の生暖かい視線(主におば様達から。野郎共は同情した視線だった)を向けられるのであった。


 クソっ、力勝負だとどうやっても抗えない!!

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