またしても森の中
市民と王との間に深い溝が出来始めている国、エルバーン王国。
俺はこの国の内戦を上手く使い、亜人達を解放しつつ国を丸々乗っ取る方法を考えた。
上手くいくかは分からない。しかし、上手くいく行かないに限らず、やってみることに価値はある。
ここで成功すれば、亜人達の楽園が出来上がる。彼らば自分達の居場所を見つけ、決して虐げられることも無く平和な世界を過ごせるのだ。
もし失敗しても、俺が死んでやり直せばいい。
俺が死ぬことによって、全ては巻き戻されてまた新たなやり方を見つけることが出来る。
そもそも、成功するまで何度でも挑戦するという方法だって取れるからな。
絶望的な戦力差を前に、戦うことは慣れている。
「どこを拠点にするかなどは決まっているのか?」
「いや、理想はあっても決まってないね。出来れば、王都から近い方が今後のことを考えるといいんだけど、近すぎると俺たちが見つかって痛い目を見る。人が余り入らず、なおかつ王都からなるべく近い場所と言うのが一つの理想かな」
「中々に難しいお題を出してくるな。付け加えるならば、生活ができる場所でなければならん。儂らよりも圧倒的に強い魔物が住む土地なんかは無理だぞ?」
内戦に干渉し、横から国ごとかっさらってしまおうと言うやり方を思い付いたはいいものの、そもそも生活の基盤となるものが無ければ俺達は生きていけない。
簡易的な村を作れるだけの資源が存在し、尚且つ水の確保が容易で周囲に驚異となる魔物が存在せず、それでいて人目につかない場所というのが望ましい。
........かなり難しい条件だな。付け加えれば、王都から近い方がいい。
王都と村を行き来する事になるだろうし。
そんな都合のいい場所が存在しているのか?
存在していたら、既に人間がそこに街を建ててそうなものだけどな。
「冬が来るまでには何とかしないとな。ここまで来て、冬の寒さと食糧難で死にましたは笑えない」
「時期が悪かったと言えばその通りだが、儂らもそれは覚悟の上だ。食料の確保さえ何とかなれば生きていける」
「あら、食料の確保は簡単よ?」
冬を越すためにも食料がとにかく欲しい。
そう話していると、エレノトが会話に入ってくる。
食料の確保が簡単だと?
「ちょっと金は掛かるけど、私が所属する組織を使えばいいわ。どうせこんな小国に配属されている奴らなんてたかが知れているし、ちょっと金を握らせれば情報漏洩も安心よ」
「組織と言うと、
「えぇ。あそこは本当になんでもやってくれるからね。お金を払えれば」
エレノトが所属する暗部組織“
聞く人によっては顔を青くしそうな組織を、買い出しに使うつもりなのかコイツ。
何でもやってくれる組織というのは知っているが、その“何でも”は後暗いことに使われる事が多い。
世の中、消したい人間や陥れたい相手はごまんといる。
だから彼らは重宝されるのだ。
それを、買い出しのために使うって........いいのか?いや、いいんだろうな。組織に属しているエレノトが言うんだから。
「本当に文字通りの何でもなんだな........」
「その気になれば、結婚だってやってくれるわよ?実際にそれで結ばれた人もいるぐらいだしね。かなり無茶な金額を吹っ掛けたのに、それを集めてきて“僕と結婚してください!!”って言われたら、断れないわよ」
「スゲーなおい。その男もそれで了承を出した側も」
「ちなみに、今じゃ普通に幸せな家庭を作っているらしいわ。あまりにも衝撃的な依頼内容だったから、本部までその話が回ってきたわね」
でしょうね。流石にその話は面白すぎるでしょ。
惚れた相手に結婚すら依頼できる組織か。なんだか、裏の住民というイメージが大きく崩れるな。
まぁ、そんな依頼は本当にごく希なのだろうが。
「後は、畑仕事の手伝いとか、年寄りのお婆さんの話し相手になったりと本当に色々ね。畑仕事は体を壊した農夫が依頼してきて、年寄りのお婆さんはお爺さんが他界して寂しかったからとかいう理由だったかしら?」
「なぁ、本当にそれ同じ組織か?俺の知る
「もちろん、そっちの方面でも色々とやっているわよ。貴族の暗殺依頼なんて毎日のように飛んでくるし、市民の殺害も多いわね。後は王の暗殺とかかしら?流石にこれは難易度が高すぎて断る場合もあるわ。失敗する未来しか見えないから、とんでもない額を吹っ掛けて間接的に断るのよ」
そんな断り方もあるんだ。
俺は未来で1度だけ死の音楽団と出会った事がある。
殺しを依頼されたとかそういうのではなく、偶然彼らが人を襲う現場を見たのだ。
その時は他人のフリをして回れ右をして逃げたが、あの時の彼らの顔は完全に殺し屋であった。
俺の隣にいる快楽殺人鬼とは違う。仕事人の顔をした、関わったらやばいやつである。
エレノトも関わったらヤバいやつだが、コイツが可愛く見えるほどには目が恐ろしかった。
「ま、そんなわけで、食料問題はなんとでもなるわ。私が何とかしてあげるから、安全な場所を探しましょう」
「とは言っても、また森の中になりそうだがな。やはり、人目に付かずなおかつ資源が豊富となると森の中が最も適しておる」
「それはそうね。王都に近い森を目指してみましょうか」
こうして、俺達はエルバーン王国で根を下ろす場所を探し始める。
今は秋に入って少しだった頃。冬が訪れるまでのことを考えると、後二ヶ月程までに拠点を構えないとな。
【王家派閥】
エルバーン王国に存在する貴族達の派閥。最も勢力が大きく、王家にゴマをするので忙しい者達が多いが、団結力は殆どない。貴族こそが至高という選民思想の持ち主が多く、彼らが収める土地に住む住民はかなり苦しい生活を強いられている。
新たな土地への移植先を探す事約一ヶ月程。秋の寒さが冬の寒さに変わり始めた頃、俺達は理想とする場所を見つけていた。
川が流れ、資源も豊富で人目につかない場所。
王都からは少し離れているのが残念だったが、これは俺の我儘な部分もあるので仕方がない。
歩いて1週間ほどの範囲に作れたら最高だったのだが、結局3週間ほど歩かなければ付かない場所に拠点を構える事となった。
「はい。もう怪我すんなよ」
「悪い悪い。ちょっと足を滑らせちまってな........それにしてもノワールの魔法は本当にすごいな。放っておけばそりゃ治るが、一瞬でこの怪我を直せるだなんて」
「あまり過信するなよ?俺が使えるのはあくまでも初級魔法までだ。それ以上は使えない。小さな怪我は治せるけど、大きな怪我は治せないという事を覚えておけ」
「分かってるよ。ありがとなノワール」
拠点を作る過程で、怪我をしてしまったオーガの1人は俺にお礼を言うと優しく頭を撫でてから仕事に戻る。
オーガ達は大きな図体をしている癖に意外と細々とした作業や、ものを作ることが得意な種族だ。
彼らはあっという間に仮の拠点を作ると、今度はその拠点の防衛として壁の建築を始める。
力仕事は俺よりもオーガ達に任せるべきだろう。
そう思い、俺はこうして裏方に徹しているのだ。
「回復魔法。私でも使えない魔法を一体どこで覚えたのかしらね?」
「それは秘密だ。隠し事の一つや二つは誰にだってあるだろう?それと、お前の場合そもそも回復魔法は不必要だろ」
「生意気な子ね........そんな生意気な子にはお仕置が必要かしら?」
俺がなぜ回復魔法を使えるのか怪しむエレノト。
俺が適当にはぐらかすと、エレノトはつまらないとでも思ったのか俺の後ろから抱きついて頬っぺた出遊び始めた。
いやお前も仕事をしろよ。
俺はそう思いながらも、抵抗するだけ無駄だと知っているので全てを諦めてなされるがままにするのであった。
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