全ての始まり
群れからはぐれたであろうゴブリンと死闘を繰り広げた俺は、その日食うものを確保して一先ず安心する。
正直、ゴブリンの肉なんて食えたもんじゃない。
生臭くて味も最悪。しかし、今の俺にとっては貴重な肉だ。
この肉は不味すぎて誰も食べない。
つまり、村長に取り上げられる事は無いのである。
この村で冒険者をしていたやつが話していた。ゴブリンの肉は徴収されないから、肉を食いたきゃゴブリンを殺せと。
まぁ、ゴブリンの肉は食えたもんじゃないから、その話を聞いていたやつは“冗談じゃない”と笑っていたが。
しかし、今の俺にとっては高級品とも言える。
一応腹は膨れるし、毒がある訳でもない。
腐った野菜を食って翌日腹を壊すよりはマシだ。
「ちゃんと処理すれば食えなくもないんだよな」
俺はそう言いながら、ゴブリンの腕を切り分ける。
食料の確保は済んだ。あとは金になりそうなものを集めつつ、周囲で異変が無いか調査をしよう。
何か大事や痕跡が見つかるといいのだが........
しかし、そう上手く物事が進むはずもなく、俺は痕跡を見つけられないまま二日が経過した。
二日後。
今日は全てが変わる日。
村が焼け落ちる日でもある。
「何も得られなかったか........リアだけでも逃がすか?いや、あの子は賢いが、子供だ。真面目な性格も相まって、俺の言うことを聞いてくれる事は無い」
とりあえずリアルだけでも逃がしてやろうかとも思ったが、結局焼け落ちた村を見て彼女は悲しむ事だろう。
両親の事が好きだったはずだしな。もし、逃がすにしても両親も逃がしてやらなければならない。
そして、今の俺の立場的にそれは無理だ。
俺はそこら辺の石ころと変わらない扱いを受けている。石ころの話を誰が聞いてくれると言うのだろうか?
それに、村が焼け落ちた後のことも考えれば、村が残っていた方がいい。
「........今回は情報を集める機会にしようか。二度も死ぬことになるだろうが、我慢してくれ」
恩人とも言える人が死ぬと分かっているのに、それを見捨てる俺。
戻ってくる前の俺だったら、間違いなくこんな行動は取らないだろう。
しかし、27年間多くのことを経験し、15年間分死んだ俺は見捨てる選択をしてしまっていた。
俺が死ねば全てが巻き戻る。
誰かが死んだ事も、その日嬉しかったこと、悲しかったことは無かったことになるのだ。
それでいいじゃないか。結局やり直せるんだから。
そう考えるようになったのは、この時からだろう。俺はどんどん人としての感性を失っていた。
冒険者ギルドにも寄らず、俺は山の中へとはいる。
そして、村全体を見渡せる場所に移動すると、そこで監視を始めた。
15年前の記憶だ。
燃え広がった炎が村を焼く記憶は残っているが、具体的に何がどうあったのかはまるで覚えていない。
内部の犯行なら、最初に燃え広がる場所があるはず。
その場所を覚え、一度巻き戻って、犯人探しを再開すればいい。
「夕暮れのときだったか?炎が鮮明すぎてあまり記憶がないんだが、多分そんぐらいの時間だったよな?」
木の上に登り、村を見下ろす。
時刻はまだ早朝。もう暫く待つとするか。
「この間に計画でも立てておくか。とりあえず、ここで一度村が燃える様子を見て、何があったのかを再度把握する。その後巻き戻って犯人探し。上手く犯人を探せて、始末出来ればそのまま村を出る。もし、始末できないような相手なら、さらに巻き戻って鍛え直しかな。魔法が使えないのが痛すぎるし」
魔法。
それは、この世界の根幹を支える叡智。
この世界の生物には須らく魔力と呼ばれる力が宿っている。
俺にはもちろん、この木にだって魔力は存在しているのだ。
そして、その魔力と呼ばれる力を使って世界に現象を巻き起こすことを魔法と言う。
何も無いところから炎を起こしたり、風の刃を生み出したり。
魔法はこの世界に生きる者にとって必須だ。この村のように閉鎖的な場所でも、使える人がいるぐらいには。
「魔法が使えたら態々川から水を持ってくる必要も無いのに。魔法の便利さを知ると、元の生活には戻れないってのは本当だな」
失って気がつく、魔法の偉大さ。
どこでもお手軽に水を確保出来たり、時間をかけずに火を起こせると言うのはあまりにも便利すぎる力である。
それから昼を跨いで、日が暮れ始めた頃まで俺は木の上で村の監視を続けた。
怪しい動きをしている村人が居ないか監視をしていたが、パッと見そこまで怪しいヤツは居ない。
そろそろ村が燃え始める。
最初にどこが燃えるのかを知っておくだけで、今後の犯人探しが楽になるだろう。
そう思った次の瞬間。世界が弾けた。
ドゴォォォォォォン!!
凄まじい轟音と共に、村のあちこちが吹っ飛ぶ。
そして、その吹き飛んだ場所から一気に火が広がり、あっという間に火が村を囲って行った。
「........は?........は??」
あまりにも一瞬すぎたその光景に呆然とするしかない。
こんな馬鹿げた爆発があったのか?いや、今こうして起きているという事は爆発があったんだろうな。
俺は炎に包まれた村の印象が強すぎて、爆発が起きたことを完全に忘れてしまっていたらしい。
15年前の記憶なんてまるで宛にならないな。忘れていることが多すぎる。
「........こんな爆発音が記憶に残らないほど、村が燃えた事が印象的だったのか。人の記憶って凄いな」
あまりに凄まじい爆発をこの目で見た為か、若干現実逃避したくなる俺。
そして、俺はこれが村の内部による犯行では無いと断定した。
こんな馬鹿げた爆発を複数箇所引き起こせる奴はこの村に居ない。
これだけの爆発を引き起こしたとなれば、火薬に火をつけたか魔法によるものだが、そもそも、火薬なんてものをこの村は持っていない。街でも貴重だったんだから。
爆破の魔法は考えられたが、俺の知る限りそんな魔法を使うやつはいない。
村に必要な魔法は自分の生活を豊かにしてくれる魔法。
破壊力なんて求めるのは、冒険者や兵士ぐらいだ。
そして、この村の冒険者と兵士がこんな魔法を使えるとも思えない。
となると、外部の犯行の可能性が高くなる。
「面倒になったな........犯人探しは難航しそうだ。ん?あれは........」
外部の犯行。しかも、村人達に一切気付かれずに動けるだけの猛者が相手。
無理難題がすぎるぞと思いながら、ふと村の出入口から少し離れた場所に視線を向けて俺は固まった。
遠くからでもその特徴は分かるほどはっきりとしていた。
そして、その特徴的な見た目を俺は知っている。
なんで、なんで奴がここにいる?
「馬鹿な........ここはただの村だぞ。幾ら快楽殺人鬼とは言え、こんな村にやってくるとか頭がどうかしてるぞ」
白く短めに整った髪と、太い尻尾のようなものがこちらからは確認できる。
顔は遠すぎて分からないが、あの尻尾を持った上で爆発を引き起こすような奴はこの世界に一人しかいない。
冒険者ギルドの手配書で何度も見た、世紀の殺人鬼にして竜人族と呼ばれる竜の末裔の一人。
その懸賞金は孫の代まで遊んで暮らせるほどであり、常に世界から命を狙われている大犯罪者。
その名も──────
「────“爆殺魔”エレノト........!!間違いない。エレノトだ........!!」
冒険者でなくとも誰でも知っているようなビッグネーム。
そんな頭のイカれた殺人鬼が、この村を破壊し尽くしたのである。
俺は、俺はあいつを何とかしなきゃならんのか?まだ、ドラゴン退治の方がマシな気がするぞ。
後書き。
今日はここまで。
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