試した後は死に戻り
敵の半分近くを機能不全にするための落とし穴を作成する俺達。
その中で、オーガという種族が如何に優れた種族であるのかということがよくわかった。
死に戻る前に色々と見せてもらっていた過去がある為、オーガが肉体的に優れている種族であることは明白。しかし、俺の想像を遥かに超える体力と筋力を兼ね備えていたとなれば、さらに驚く他ない。
半日以上も動き続けていると言うのに、まるで疲れを知らず、テキパキと仕事をする姿は信じられないものであった。
人間の子供である俺は、既に体力の底を着いて一旦休憩している。
オーガと人間では、そもそもの肉体の作りが違いすぎた。
「ノワール、これでいいか?」
「あぁ。そこに作ってもらった木の槍を突き立てておいてくれ」
「こんなんで相手を殺せるのか?ここら辺の木は結構頑丈ではあるけど、鉄を切り裂くとは思えんぞ?」
「相手が全身フルプレートの装備を来ているなら別だが、基本は自身の急所だけを守るもんだ。つまり、落ち方によっては防御できない場所に突き刺さる。それと、鉄ってのは結構重くてな。全身に鉄を纏ったやつは、そもそもこの落とし穴に落ちた時点で死ぬ。人間ってのは、重いものを持って高いところから落ちると死ぬんだぞ?」
「それはオーガも同じだろ」
“ハッハッハ!!”と笑い声が森の中に鳴り響く。
この数時間で随分とオーガ達と打ち解けられたものだ。
俺も落とし穴を作る作業にできるだけ参加しつつ、色々と指示をしたのが良かったのだろう。
体力の限界が来て先に休ませて貰っているが、つい十数分前までは一緒になって土を掘ってたからな。
指揮官と言うのは、どれだけ下の兵士達に慕われるかと言うのも技量の一つである。
未来に参加した戦争で、俺は運良く優れた指揮官の元で戦争をすることが出来た。
その指揮官は、兵士達と共に作業をしつつ指示を出し、できる限り砕けた態度で皆と接していたものだ。
しかし、それでいながら、舐められないように威厳も保つ。
恐らくだが、俺が参加していた国側の中で最もしたわれていた指揮官である。
まぁ、その指揮官は戦争の中で死んでしまったが。
戦場は残酷だ。優しいやつ、優れたヤツから死んでいく。
それでも俺達は亡くなった指揮官のために戦ったものだ。今はまだ生きているだろうが、俺はかつて見たあの理想的な指揮官の真似をしているのである。
........本当はまだ一緒に作業したいんだけどな。子供の体で尚且つ人間の体力となると、オーガ達には並べない。
それでも、一緒に作業をしたお陰か、さらにオーガ達の態度は崩れていた。
偉大なる人物の真似をする。俺が未来で学んだ数多くの事の一つである。
「それに、戦争において重要なのは相手の戦力を減らすことだ。殺すことに固執して、自分達の首を絞めるなんて事もある。人間は怪我をすれば痛みで動けなくなる。怪我人をみすみすと殺せるような薄情な人間はそこまで多くないから、必ず助けようとする。そうするとどうなる?怪我をしたやつとそいつを助けようとしたヤツ。結果的に二人の戦力を削げるのさ」
敵の戦力をできる限り効率良く削ぎ落とす。
これが戦争の基本であり、戦争のやり方だ。
だから、遠距離から一方的に怪我を与えられる弓や魔法は警戒されるし強い。
弓と魔法が飛び交う中、突撃していくのはかなり怖かった記憶がある。
しかも、何が怖いって、運が悪いと味方からの射撃で死ぬからね。後ろにも目を付けろってか。
「まるで経験してきたかのような言い草だな。人間ってのは、そんなに幼い時期から戦争に参加するのか?」
「野蛮人じゃねぇか。オーガなんてガキの頃は狩りどころか、村から出ることすら禁止してるんだぞ?今回は例外だけど」
「ま、俺にも色々とあるんだ。よし。それでいいぞ。後は他の罠とこの落とし穴を隠すんだ」
「どうやって?」
「ちょいと魔法とその木を使ってね。こういう時の魔法も便利だ。維持に魔力を相当持っていかれるから、制作は明日になるな。今日はもう休もう。これ以上作業をしても、そこまで大きな成果は得られない」
疲れ切った中で作業をしても、ダラダラやるだけで意味は無い。
疲れたのならば、しっかりと休んで明日に切り替えるべきなのだ。
俺はそう言うと、オーガ達を労いつつ周囲の木々を見渡す。
進行ルート的に、あそことあそこに罠を仕掛ければ問題ないはずだ。念の為に、他にも色々と仕掛けておくけども。
明日は、落とし穴の上を作って、明後日に細々てした罠を作るか。
相手が軍で来るならば、罠というのは嫌という程効果を発揮する。
どれだけ気をつけていたとしても、誰かが引っかかるのだから。
「今回は使える戦力があって助かるな。あの殺人鬼とやり合った時は、俺一人で全部やってたからキツかったけど」
「おーい、ノワール。早く来いよ。帰るんだろ?」
「おいおい、ノワールは人間の子供だろ?疲れて歩けないんだよ。おら、オーレン。ノワールを担いでやれって」
「は?なんで俺が........ったく仕方ねぇな。ほらよ。帰るぞノワール」
これからどんな罠を仕掛けようかと思っていると、オーレンが近くにやってきて俺を抱き上げる。
当たり前のように俺を肩の上に乗せ、そして俺の足を掴んでオーレンは笑った。
「ハッハッハ!!なんだこりゃ。お前軽すぎるぞノワール!!もっと飯を食えよ!! 」
「オーガの子供基準で物事を考えないでくれよ。俺は人間なんだぞ?」
「だとしても軽すぎだろこりゃ。お前も持ってみろよ」
「そんなに軽いのか?........うわっなんだこりゃ。軽すぎるぞノワール!!もしかして病気か?!」
「いや、違うって。だからオーガの子供と比べるなよ」
俺を抱き上げた事で、俺の体重を知ったオーガ達。
そのあまりの軽さに驚いたのか、俺は30人のオーガ達に次から次へと抱き抱えられ、玩具のように扱われるのであった。
俺、そんなに軽いか?この時期の昔よりは絶対に重いはずなんだけどなぁ........
【落とし穴】
罠の一種である。陥穽(かんせい)とも言う。地面に穴を掘ってそれを隠蔽し、穴の上を通ろうとする動物を落とそうとするものである。その有り様から転じて、他者を陥れる策略なども「落とし穴」「陥穽」と呼ぶ。
ちなみに、普通に危ないので現代で落とし穴を作るのはやめておいた方がいい。実際にそれで死者も出ている。
四日後。俺達は全ての罠を作り終えた。
一番の目玉であるのはやはり落とし穴。落とし穴の中には先端が尖った木が突き立てられており、落ちたら間違いなくどこかを怪我するか即死するように作られている。
その他にも、相手の機動力を奪うために草で隠した片足が入る程度の落とし穴をかなりの数用意しておいた。
この落とし穴にも先端が尖った木々が仕込まれており、しかも返し構造のようになっているので下手に動くと突き刺さる。
落とし穴以外にも罠は沢山用意され、これで準備万端と言わんばかりであるが、実はそのどれもがちゃんと効果を発揮するのか試していない。
「じゃ、切ってみてくれ」
「おう!!」
既にかなり仲良くなったオーガ達に指示を出し、俺は落とし穴が正常に起動するのかを確かめる。
地面の代わりをしていた木々が崩れ去り、そして、落とし穴が口を開ける。
うん。ちゃんと起動してるな。他の罠もそれに合わせて正常に動いている。
「本当に良かったのか?罠が起動するかどうかの確認とは言えど、また作り直しだぞ?」
「大丈夫。その必要は無いよ」
罠がちゃんと起動することは確認できた。なら、作り直すよりも巻き戻った方が早い。
こういう時、この能力は便利だ。何せ、首にナイフを突き立てるだけでいいのだから。
「じゃ、また昨日。頑張ろうな」
「........は?」
俺はそう言うと自分の首にナイフを突き刺し、その日を巻き戻すのであった。
後書き。
ノワール君、罠の作動確認のために命を捨てる。
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