完全敗北
6年と半年近く。死に戻る力を手にし、過去を変えようと望んだ俺はついに全てをやり遂げた。
何度死んだのか、もはや数えていない。
正確に覚えているのは、21年前に戻った事実とその間に死んだ回数7665回と言う事実だけであった。
多分それ以上に死んでいるのは間違いない。死に戻りを始める前に二回。さらにこの爆殺魔とやり合うために最低でも100回以上はやり直している。
自分がここまで忍耐強い人間だとは思わなかった。自分がここまで頑張れる人間だとは思わなかった。
自分で自分を褒めてやりたい気分だ。
27年間生きるためなだけに逃げ続けた俺が、この世界で自分のプライドや意地を取り戻したのだから。
こんな日は酒が合う。しかし、年齢的にも物資的にもそんなものは無い。
塩を振った肉で我慢するしかないか。
その日は、1人でウサギ肉を焼いて塩を贅沢にかけながら、勝利の美酒に酔いしてたのは言うまでもない。
翌朝。
俺は拠点としていた洞窟を出ると、もう一度エレノトを殺した場所に向かっていた。
寝ている間になにか起きた訳でもないので、恐らくは大丈夫なはず。
あんな化け物じみた女でも、岩に押しつぶされれば死ぬしかない。
しかし、少しばかり不安だったので様子を見に来たのである。
「........朝起きたら首を切ろうとする癖は本当に直さないとな。近くにナイフがあるとついやりそうになる」
早朝。俺は起きると同時に自分の首にナイフを突き立てようとしていた。
頭が寝ぼけていると、癖になっている動きを俺はやろうとするのか、首にナイフをぶっ刺そうと動いていたのだ。
途中で頭がハッキリとしてナイフを止めたが、一歩間違えれば一日前に巻き戻っていた事だろう。
そうすれば、運良く勝てたこの死闘をもう一度繰り返すことになっていた。
さすがにそれは勘弁願いたい。同じように動ける自信はないし、何よりあんな手に汗握る勝負を連日やったら気が狂う。
「もう、自分を縛り付けて寝た方がいい気がしてきた」
そう言いながら、俺は岩を転がすために切り開いた山を歩く。
岩を削り出したはいいものの、木々が邪魔すぎて上手く転がらない。なら、その邪魔な木々は切り倒せばいいじゃないという事で、少しだけ山を開拓していたのだ。
こういう時、魔法とは便利なものだ。
俺は魔法の才能もほぼ無いが、その使える魔法の数と魔力の操作だけはほかの魔法使いよりも圧倒的だと自負している。
もちろん、上には上がいるのだが、少なくとも平均よりは大分上にいるだろう。
炎の糸で木を焼き切り、重さを変える魔法で木をできる限り軽くして運ぶ。
あの殺人鬼との戦いではあまり使う事がなかった魔法だが、こうして色々なところで活躍してくれていた。
魔法がなかったら、今ごろもっと苦戦していた事だろう。
縁の下の力持ちとは、まさにこの事である。
「ここだな。さて、どうなっている事やら」
しばらく歩くと、昨日エレノトを殺した場所に辿り着く。
穴を掘り、できる限り自然に見せるために色々と努力をしたその落とし穴。
これも作るのにだいぶ苦労したな。主に、落とし穴の蓋を作るのに。
蓋を作ってから一日待ち、その後ちゃんと起動するのかを確認してから死に戻る。すると、起動したことが無かったことになる上に、蓋はちゃんとその場にあると言うちょっとしたズルをしたりもしたっけ。
ちなみに、14回ぐらい失敗して作り直した。
ほら、落とし穴とか普段作らないから........
「どうなってるのかなっと........ん?」
俺派何かと苦戦した落とし穴についての思い出を振り返りながら、岩が入っているはずの穴を覗く。
予想通りなら、昨日見た岩がすっぽりと入り込んだ姿が見られるはず。
しかし、しかしである。
そこには丸い岩など存在せず、砕けた岩の残骸が広がっているだけであった。
「なっ........どういう─────ガッ!!」
「捕まえた。全く。派手にやってくれたわね」
急に後ろから襲われ、身動きが取れなくなる。
この声を俺は知っている。
昨日まで嫌という程に聞いた、あの殺人鬼の声だ。
馬鹿な。なぜ生きている?!
確実に殺したはずだ。あの落とし穴の中ならどこにいても死ぬんだぞ!!
俺自身で検証したんだから間違いない。しかし、この女は生きている。
一体どうやって?
岩を砕いた?
それなら昨日、岩に押しつぶされそうになった時に既にやっているはずだし、俺も気がつく。
穴を掘った?
その可能性は有り得る。俺も考えなかった訳じゃない。
だが、あの状況で咄嗟に穴を掘る選択ができる場面では無いはず。
俺の知らない何かをした?
これを言い出したらキリがない。
どんな方法を使ったのかは知らないが、生きている。確実に殺し、勝利の美酒に酔いしれただけに、その絶望は大きくのしかかる。
「やってくれるじゃない。久々に痛い思いをしたわ」
「はふへ(なんで)........」
口に指を入れられ、上手く話せない。
これでは自殺もできない。息を止める以外に方法がない。
指ごと噛みちぎれないかとも思ったが、歯にあたる指の感覚が明らかに硬い。
本当に人の指の硬さか?これが?
クソッ、手も口も封じられた時に死ねる方法を考えておくべきだった。息を止めて死ぬ方法は、かなりの博打になるんだよ。
苦しいし。
「どうして生きているのか不思議そうな顔をしているわね。なんで生きていると思う?あれだけ大きな岩で押しつぶされたはずなのに、どうやって生き残ったのか。気になるでしょ?」
「........」
俺は何も答えない。
エレノトは俺の口の中に入れた指を動かして、俺の舌で遊びながら楽しそうに答えた。
「ふふふっ、分からない?正解はね、1度死んで生き返ったのよ。おかげで服に血が染み込んで洗って取るのが大変だったんだから。土も凄いし、着替えの服を用意しておくべきだったわね」
「........?!」
「ふふっ、ふふふっ!!驚いてるわね。そうよね。普通は死んだらそれまでだもんね」
なんだと........死んでも蘇るだと?!
確かに考えるべき可能性ではあった。
俺が手にした摩訶不思議な魔導書と同じように、不老不死の魔導書がこの世界のどこかに存在していてもおかしくない。
しかし、そんな話は御伽噺の世界だけだと思っていたのも事実。
俺はなんて運がないんだ。あるべき可能性の中で、1番最悪を引いたぞこれは。
殺しても死なない。つまり、俺に勝ちは無い。
俺が勝てないと言うことは、村はどう足掻いても吹っ飛ばされる未来でしかない。
つまり、俺が今までやってきたことは全て無駄であったという事だ。
「........」
「私はね。死ねないの。たとえ死を望んで自殺しようとも、どんな方法をとっても生き残る。食べ物を食べずとも空腹感を感じるだけ、水を飲まずとも喉が渇くだけ。溺死しようと水の中に飛び込んでも、死んだ後水を全て吐き出した状態で復活する。今回も押しつぶされたけど、周囲の岩の一部を削った状態で肉体が元に戻る。この世界は私の死を許さないの。この呪いは私を一生この世界に縛り付けるの」
「........」
「おっと、ごめんさない。勝手に話しすぎたわね。ともかく、私を殺すのは無理なのよ。死ねないから」
エレノトはそう言うと、クルクルと回り始める。
俺とはまた違った死ねない存在。まさかそんな奴がこの世界にいるとは思っていなかった。
俺が特別だと思うつもりはなかったが、やはり心のどこかで俺以外にこのような力を持つ奴がいるはずも無いと思っていた。
こんなに何度も顔を合わせたようなやつが、それを持っていたとは。
完全敗北。どうやってもこの女は殺せない。
俺は、どうしたらいいんだ?
後書き。
即落ち2コマならぬ、即落ち二話。
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