第48話 アーウィナの愛する勇者

 ……なんだ? なぜ止めた?


 俺は意図が理解できず、清正の顔を眺めた。

 すると、剣を持っている清正自身も困惑の表情をしていた。


「な、なんだ? なんで止まった? このっ!」


 俺へ向かってデタラメに剣を振る。

 しかし一向に当たらない。すべて寸前で止まっていた。


「どうなってんだっ! このっ!」


 清正はさっき俺を吹き飛ばしたときのように目を見開く。

 俺は身構えたが、なにも起こらなかった。


「なんでだっ! なんで勇者の力が発動しないっ!」


 清正はそう叫びながら俺へ剣を振るが当たらない。

 なにをやっても俺へダメージを与えることはできないでいた。


「やはりの。そうなると思っておったわい」

「えっ?」


 うしろからシャルノア校長が歩いて来て俺の側に立つ。


「ど、どういうことだっ!」

「どういうこともなにも、なぜそうなったかお前にもわかるはずじゃ」

「なんだと?」

「この世界へ召喚されたときに聞かされたはずじゃ。勇者は常に勇者たらねばならない。そうでなければ勇者ではない、と」

「そ、それがなんだ? 僕は勇者だ。初代勇者の血を引く紛うことなき勇者だ。僕以外の勇者は存在しない。僕はいつだって勇者だ」

「どうやら意味を正しく理解していなかったようじゃな。確かに勇者の血を引く者が勇者として認められやすいのは事実じゃ。しかし重要なのは血筋ではない。重要なのは勇者としての心じゃ。お前はそれを失った」

「そんなことは……」

「命の危機にあった仲間を身勝手な理由で見捨てるのが勇者か? 気に入らないからと子供や人々を殺すのが勇者か? 違う。そんなのは魔王の所業じゃ。お前はもはや勇者なんかではない。もしもこの場に勇者がいるとするならば……」

「えっ?」

「なっ!?」


 清正を覆う勇者の鎧や兜が外れる。

 そして俺の身体へと装着された。


「ど、どういう……うあっ!?」


 そして剣も清正の手を離れて俺のもとへと来た。


「これは一体……?」


 わけがわからなかった。


「世界がお前を勇者に選んだということじゃ」

「えっ? な、なんでそんなことに……?」

「愛する者、弱い者のために勇気を持って巨悪へ立ち向かう。その姿はまさしく勇者じゃ。なにもおかしなことはない」

「い、いやでも……」


 説明を聞いても、はいそうですかとは言えなかった……。


「そんなこと僕は認めないぞっ!」


 もはや勇者ではなくなった清正が俺を睨んで怒鳴る。


「勇者は僕だっ! こんなモブ野郎じゃないっ!」

「世界の判断じゃ。お前はもう勇者ではない」

「うるさいっ! それを返せっ!」


 そう喚いて清正が襲い掛かって来る。

 しかしなんともない。どんなに攻撃されようとなんともなかった。


「はあ……はあ……こ、こんな馬鹿なこと……。僕は世界を救った勇者だぞっ! こんな目に遭っていいはずがないっ!」

「確かにお前は世界を救った。しかしだからと言ってなにをしてもいいわけではない。正しい心を忘れて悪へと堕ちれば、それ相応の制裁を受けるのは当然のことじゃ」

「み、認めないっ! こんなことは絶対に認めないぞっ!」

「お前が認めようと認めまいとこれが現実じゃ。受け入れてどこぞへと消えるんじゃな」

「ふざけるなっ!」

「しかたがないのう。アーウィナ」

「えっ?」


 シャルノア校長はアーウィナへ向かって自分の頭を指差す。


「ああ」


 と、意味がわかったらしいアーウィナが指を鳴らす。すると、


「うん? あっ! あいつ! 俺の嫁さんを寝取ったクソ勇者じゃねーか!」

「そ、そうだっ! 俺の彼女もあいつに寝取られたぞっ!」


 思い出したように野次馬たちがそんなことを口にし始める。


「というか俺、前にあいつからいきなり蹴られたぞっ!」

「うちの店で無銭飲食したっ!」

「俺の娘を誘拐したっ!」

「うちの犬が殴られたっ!」


 どういうわけか次々に清正の悪事を暴露していく。


 一体、なにがどうなっているのか……?


「今までに犯したあやつの悪事は、アーウィナが魔法で記憶から消してやってたんじゃ。魔王を倒すのに必要とかなんとかむちゃくちゃ言っての」

「そ、そうだったんですか」


 魔王を倒したあとからあんな極悪な性格に変貌したのかと思っていたが、どうやらその前からすでに片鱗は見せていたらしい。


「この野郎っ! 俺から取った金を返せっ!」

「あたしと結婚してくれるって言ったのに嘘吐きっ!」

「ひえええっ!」


 野次馬だった者たちが暴徒となって清正へと襲い掛かって行く。


「あ、待ってっ! その人は一応、元勇者だしあぶないですよっ!」


 あれでももとは勇者だ。

 一般人では返り討ちにされて……。。


「いだいーっ! ゆるじでくだざいーっ!」

「あれ?」


 意外なことにボッコボコにされていた。


「勇者の力に頼るばかりで鍛錬を怠っていたのじゃろう。力を失えば一般人と変わらんよ」

「そ、そうなんですか」


 確かに今は奴からなんのオーラも感じない。

 どこにでもいる普通の男であった。


「満明さんっ!」

「アーウィナっ!」


 駆け寄って来たアーウィナを抱き止める。


「よかったっ! 無事で……」

「うん。けどごめんアーウィナ」

「えっ?」

「あいつはあれでも君と一緒に魔王と戦った勇者だった。あいつから勇者の座を奪って俺なんかが勇者になっちゃって……んっ!?」


 不意に背伸びをしたアーウィナが俺の唇へとキスをした。


「ア、アーウィナ?」

「世界を救う勇者とかそんなのはもうどうだっていいです。満明さんだけがわたしの……わたしだけの勇者様なんですから」

「アーウィナ……うん」


 アーウィナだけの勇者。

 そうだ。世界が認めた勇者なんてどうでもいい。俺はアーウィナだけの偉大な勇者になる。アーウィナが認める偉大な勇者であればそれでいいんだ。


「アーウィナ、俺はそんなに強い人間じゃない。強い力を手に入れたことで清正みたいに地位や名誉に溺れてしまうかもしれない。けど、愛する女性は君だけだ。生涯……いや、俺にとっての女性は永遠に君だけだからね」

「満明さん……。はい」


 そしてふたたび俺たちはキスをする。


 俺の部屋にあったあのラノベ。やはりあれを買った記憶は無い。一体あのラノベはどこからきて俺の部屋の本棚に収まったのか? それはまだわからないが、あのラノベがきっかけでこうなることは運命だったのだと思う。


 勇者清正での続巻はきっと無いだろう。

 もしもあのラノベに続巻があるとしたら、それはきっと俺とアーウィナの今後を語るような、ラブストーリーなんじゃないかと思った。


 ――――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 今回で最終回になります。最後までお読みいただきありがとうございました。

 50話までいくと思ったのですが、48話で完結となります。


 次回作はカクヨムコンに合わせて現代ダンジョンものを投稿しようと思います。


 「俺にだけやさしい喧嘩最強な義妹は、親友と浮気した幼馴染の元カノとバチバチにやり合う」のほうはまだ続きますので、こちらもよろしくお願いいたします。

 https://kakuyomu.jp/works/16818023212495547012

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ラノベの世界から会いに来ました。幼馴染を先輩に寝取られた俺のもとへ現れたのは、小さくて大きな負けヒロインの魔法使い 渡 歩駆 @schezo9987

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