第37話 火竜討伐に同行する
「別に構わんが、おぬし戦いの経験はあるのかの?」
「そ、それなりには……」
アーウィナの修業魔法で戦いの経験はわずかだがある。
まったく役に立てないということは無いだろう。
「あたしも一緒に行くわ。け、けど勘違いしないでね。アーウィナを助けたいわけじゃないの。あの子を倒すのはあたしだからねっ」
往年のライバルキャラのようなことを言うミスティラ。
なんだかんだで彼女もアーウィナを心配しているのだろう。だから俺をここまで連れて来てくれたのだと思った。
「ミスティラも? おぬしがついて来ても不安じゃな」
「どういう意味よっ!」
「まあよい。アーウィナが魔力暴走を発症してどのくらい経つんじゃ?」
「倒れたのは今から数時間ほど前ですが……」
「ふむ。普通は倒れるまでにいくつか症状があるはずなんじゃがの。我慢強い子じゃし、まさか自分が魔力暴走を発症しているとは思わず耐えていたんじゃろう」
「……っ」
俺はそれに気付いてあげられなかった。
情けなくて悔しさがこみ上げてくる。
「ならば本当に時間が無いのう。恐らく持ってあと一週間」
「い、一週間……っ。それじゃあ早く行かないとっ!」
「まあ待つのじゃ。その恰好で火竜と戦うつもりかの?」
「えっ? あ……」
俺は自分の姿を見下ろす。
装備なんてとても言えない、ラフな家着姿であった。
「装備を用意してやろう。ほれ」
「うわっ!?」
校長が杖を振ると、俺の姿が一瞬で剣士のものとなる。
「それなりに高価な武具じゃ。火竜と戦うには最低でもそれくらいは必要じゃからの」
「あ、ありがとうございます」
「うむ。火竜退治は過酷で、行きたがる者はそうそうおらんが、このわしも一緒に行くと言えば協力してくれる者もいるじゃろう。何人か傭兵を雇うから少しだけ時間がほしいのじゃ」
「わかりました。お願いします」
俺とミスティラだけでは不安だったが、校長の他に傭兵も何人かついて来てくれる。これならなんとかなりそうだと、俺は安堵の心地であった。
……
それから校長の転移魔法で火竜の巣へとやって来る。
木が一本も生えていない山の高地で、すごく不気味な雰囲気だった。
校長の他に傭兵が10人。
これだけいれば大丈夫だろうと、校長も言っていた。
確かに皆、強そうだ。
俺の出番など無いかもしれなかった。
「火竜の住処はこの先じゃ」
「火竜は1体だけでここに住んでいるんですか?」
「竜族は群れることを好まんからのう。こういう山奥でひっそりと1体だけで暮らしておるのじゃ」
「そうなんですか」
静かに暮らしているのに討伐してしまうなんて少し罪悪感がある。
しかしアーウィナを救うためにはしかたない。
「竜は巣穴で倒されても、また別の竜がその巣穴に住むのじゃ。ここの火竜は以前に倒されたが、恐らくまた別の火竜が住んでおるじゃろう」
そう説明をしながら校長は先頭を進む。
そのあとを傭兵たちがついて行き、俺とミスティラは最後尾にいた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。見た目はあんなだけど、校長は世界で1、2を争う魔法使いよ。火竜なんて簡単に倒せるから」
「そ、そうだといいんだけど……」
先へ進むにつれてなんとなく嫌な予感が湧き上がってくる。
なにやらそう簡単にはいかないような、そんな不安に苛まれていた。
しばらくして校長の足が止まる。
「ここじゃ」
「ここって……」
なにもいない。
しかし確かに大きな生物の巣穴らしい跡はあった。
「うーん……どうやら予想がはずれて火竜は住みついておらんかったのかもしれんのう」
「そ、それじゃあ……」
アーウィナは助からない?
懸念を口にしようとしたそのとき、
「うわっ!?」
ものすごい強風が上空から吹き付けてくる。
それと同時に羽ばたくような大きな音も……。
「あっ!?」
上を向いた瞬間、俺は思わず声を上げる。
火竜。
見たことがない俺でも火竜だとわかるほどに赤い竜が上空で羽ばたいていた。
「あ、あれが……火竜」
「い、いや……」
俺はあの竜が間違い無く火竜だと思った。
しかし隣に立つシャルノア校長は焦り顔で否定をする。
「か、火竜ではないのですか?」
「火竜ではある。しかしあれは普通の火竜ではない」
「どういうことですか?」
「あれは……マスター火竜じゃ」
「マ、マスター火竜?」
それと普通の火竜はどう違うのか?
問おうとする俺の前に、上空から火竜が降り立った。
――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
普通の火竜でも難しいところへ、さらに強力な火竜が現れてしまいましたね。はたして無事に倒せるかどうか……。
☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします。
次回は強力な火竜を相手に大ピンチ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます