第43話 勇者清正の思惑

 ギルベルト王国の王都へとやって来る。


「あ、それで魔法省ってどこにあるんですか?」

「うむ。あの建物じゃ」


 シャルノア校長の指差す方向には大きな建物がある。


 あそこにアーウィナいるかどうかはまだわからない。とりあえず行ってみようとそちらへ向かって歩み出したとき、


「あっ!」


 見覚えのある男の姿が目に入る。


 勇者清正だ。

 使用人らしき男を何人か連れて、待ち構えるように魔法省の前に立っていた。


「もしかしてとここで待っていたけど、やっぱり追って来たか」


 俺たちを見つけて清正は呆れたように肩をすくめる。


「アーウィナはどこだ?」

「中で魔法省の大臣と話しているよ。けど君が会うことはない。君はこのまま帰るんだからね」

「アーウィナに会うまで帰らない」

「帰るんだよ。別に殺したっていいんだからね? それをよく考えて決めることだね」

「くっ……」


 清正の目が殺気に淀む。


 こいつは本気だ。

 帰らなければ、本当に俺を殺す気だろう。


「ここは一旦、引き下がるべきじゃな」

「け、けど……」

「あやつがその気になれば、お前など一瞬で消えて無くなる。そうはなりたくないじゃろう?」

「……っ」


 ここで殺されるわけにはいかない。


 アーウィナがすぐそこにいるというのに会えないのは悔しいが、ここは校長の言う通り引き下がるしか……。


「ゆ、勇者様ですかっ?」


 そのとき小さな男の子が清正へと駆け寄る。


「なんだい君は? 僕は今、忙しいんだけど」

「あ、あの、僕のお姉ちゃんが偉い貴族の屋敷に連れて行かれてしまったんですっ。なにも悪いことはしていないのに、馬車から降りて来ていきなり……。勇者様っ、どうかお姉ちゃんを助けてくださいっ!」


 どうやらこの子の姉が悪い貴族に連れ去られてしまったようだ。勇者ならば助けてあげるのが普通だけど……。


「そんなのは僕の役目じゃないよ。役人にでも訴えたらいい」

「訴えましたっ! けど、相手がヴィルダークっていうすごく偉い貴族だから手が出せないって言われて……」

「なら諦めるんだね」

「そ、そんな……」

「お前は勇者じゃろう? 子供の頼みくらい聞いてやったらどうなんじゃ?」

「僕は世界を救った偉大な勇者ですよ? 庶民の小さな頼みなんて聞くような低い立場じゃないんですよ」


 そう言って清正はフンと鼻を鳴らす。


 やっぱり頼みは聞かないか。

 そんな気はしていたが、改めてどうしようもない勇者だなと呆れた。


「……まあけど、無下にしては僕のイメージに傷がつく。そこでどうだろう? 君たちが僕の代わりに頼みを聞いてやるってのは?」

「えっ?」

「それで君たちが無事に解決できたら、アーウィナと話くらいはさせてあげるよ」

「……」


 ……なにか思惑があるのかも?

 しかし助けを求めているこの子を放っておくわけにもいかなかった。


「わかった。この子のお姉さんを助けたらまたここに戻って来る。そうしたらアーウィナに会わせてもらうぞ」

「ああ」

「……じゃあお姉さんを連れて行ったっていう貴族の家に案内してくれるかな?」

「う、うん」


 清正がこちらを見る中、俺たちは男の子とともに貴族の屋敷へ向かった。


「ちょっと満明、あいつ絶対になんか企んでるわよ。あんたを殺してでもアーウィナには会わせないつもりだったのに、この子の頼みを聞いたら会わせるなんてさ」

「俺もそうなんじゃないかと思うけど、連れ去られたこの子のお姉さんを放って置くわけにもいかないだろう?」

「それはそうかもだけど……」

「うむ。弱きを助け強きを挫く。権力を笠にした横暴は許せんからな。あやつの思惑はともかくとして、わしもこの子の姉を助けることには賛成じゃ。」

「ありがとうございます。シャルノア校長」

「しかたないわねー」


 ミスティラも納得して、この子の姉が連れ込まれた屋敷へ行くことに。


 アーウィナと早く会いたいがしかたない。


 この子の姉をすぐに助けて魔法省へ向かおうと俺は急いだ。


 ……そして貴族の屋敷前へとやって来る。


 大きな屋敷だ。

 見張りもいるだろうし、侵入するとなれば容易ではないだろうが……。


「では転移魔法で中に入るかの」


 シャルノア校長の転移魔法があれば入るのも簡単だ。


 俺たちは男の子を屋敷の外で待たせ、転移魔法で屋敷の中へと入る。

 それから見つからないように奥へと進んだ。


「ここが主の部屋じゃないかの?」


 一番奥にある大きな扉の部屋。

 シャルノア校長の言う通り、ここが主の部屋っぽかった。


「――や、やめてくださいっ!」


 中から女の人の声。


 危険を悟った俺が中へ入ると、


「うん? な、なんだお前らは?」


 服を脱がされそうになっている女性と、いかにも悪い貴族っぽいおっさんがいた。


「やめろっ!」


 俺は手近にある壺を持ち上げ、


「んがっ!?」


 それでおっさんの頭を叩く。

 おっさんはそのままベッドへと倒れた。


「大丈夫ですか?」

「は、はい。あなたは?」

「えっと、弟さんに頼まれて……。連れ去られたお姉さんとはあなたですか?」

「あ、は、はいっ。弟のニライと一緒に歩いていたら、馬車から降りて来たこの人に連れ去られてここへ……」

「助けられてよかったです。それじゃあ弟さんのところへ戻りましょう」

「はいっ」


 シャルノア校長の転移魔法で外へと出る。


「お姉ちゃんっ!」

「ニライっ!」


 姉を見つけたニライ君が姉へと抱きつく。


 これで一件落着だ。


 一仕事終えた俺はフーと一息ついた。


「なにを終わった気でおる。重要なことがまだ残っておるじゃろう?」

「あ、そ、そうだっ! 急いで魔法省へ行かないとっ!」


 一件落着とのんびりはしていられない。


「助けていただいてありがとうございました」

「ありがとうっ。おにいちゃん、おねえちゃんたちっ」

「いや、気をつけて帰ってね」


 俺は2人へ手を振り、シャルノア校長の転移魔法で魔法省へ急いだ。


 ――――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 勇者清正はなにか悪いことを考えている様子。

 言う通り子供の姉は助けたものの、アーウィナには会えるかどうか……。


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 よろしくお願いいたします。


 次回は勇者に騙され……。

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