第42話 アーウィナを追ってギルベルト王国へ

 アーウィナが2人?


 俺はなにがなんだかわからず困惑する。


「満明さん……これは……?」

「アーウィナ……えっ?」


 自分が抱いているのはアーウィナじゃない。

 伊織だ。アーウィナだったのに、なぜか伊織へと変わっていた。


「これは一体……あっ!」


 アーウィナが踵を返して走り去って行く。


「アーウィナっ! ちょ、伊織離せっ!」

「離さない」

「離せってっ!」


 伊織はただニヤニヤ笑うだけで俺を離そうとしない。


「この……っ」


 力ずくで離させ、アーウィナを追う。


「なにかあったの満明?」


 1階へ降りると、ミスティラに声をかけられる。


「ア、アーウィナはっ!?」

「アーウィナ? だったら本を使って向こうへ帰ったわよ。なんか階段を駆け下りて来てすぐだったし、なにかあったのかなって」

「ア、アーウィナ……」


 アーウィナが向こうの世界へ帰ってしまった。


 俺は慌ててラノベを拾い上げ、あとを追おうとした。


「まあ待ちなよ」

「えっ? あっ!」


 いつからそこにいたのか、庭先の縁側に誰かが座っている。

 そして振り返ったのは、あのクズ勇者であった。


「お前、いつこっちへ……」

「そんなことはどうでもいいだろ? アーウィナは君に嫌気が差して帰ったんだ。放って置いてあげたらどうだい?」

「あれは勘違いだ。伊織の姿がアーウィナに変わっていて……あっ」

「気付いた? 彼女の姿をアーウィナに変えたのは僕の魔法だよ」


 清正の目が階段から降りて来た伊織を見る。


「彼女はアーウィナと君を引き離したかったみたいなんだ。だから僕はその協力をしてあげたの」

「わざわざこっちへ来て伊織の目的に手を貸す理由なんかお前には無い。なにか自分の目的があるんだろう?」

「僕は勇者だよ? 困っている人を助けるのは当然じゃないか」

「アーウィナを助けることはしなかったくせにどの口が……っ」

「はははっ。まあもう君には関係の無いことだけどね。シェラナに逃げられた僕にはアーウィナが必要なんだ。面目を保つためにね」

「なんだって? あっ!?」


 清正は懐から取り出した本の表紙を指でなぞって姿を消す。


 アーウィナを見捨てたくせに、今さら必要になっただって?


 身勝手なあの男の言動に俺は腹が立ってしかたない。


「アーウィナを追わないと……」


 あんな男の側には置いておけない。

 アーウィナを追って、誤解を解いて連れ戻さなきゃ。


「待ってよ」


 ラノベを使って向こうの世界へ行こうとする俺に伊織が声をかけてくる。


「あの男とか、あの女が何者なのかは知らないけど、もう放って置きなよ。これで元通りなんだしさ。最初からいなかったと思って今まで通り……」

「俺にとってアーウィナはすごく大切な女の子なんだ。いなかったころになんて戻れない。アーウィナが側にいないなんて、もう考えられない」


 だから連れ戻したい。絶対に。


 俺はラノベの表紙をなぞって向こうの世界へと行く。そしてアーウィナの家へと移動したが……。


「アーウィナ?」


 アーウィナの姿は無い。

 家の中にはいないようだった。


「どこへ行ったんだろう?」


 見当もつかなかった。


「なんや? 血相変えてどないしたんや?」


 ど、クロイツが隣の部屋から現れる。


「あ、クロイツっ、アーウィナは?」

「んにゃ、ついさっき戻って来たで。なんやえらい沈んだ顔しとっての。どないした言うても、教えてくれんのや。それからすぐに勇者が現れてな。なんや、一緒にギルベルトの王都へ行ったわ」

「ギルベルトの王都へ?」

「あのクズ勇者、魔法省がどうとか言ってたし、そこへ行ったんじゃないかしら?」


 いつの間にかこっちへ来ていたミスティラにそう言われる。


「じゃあ王都の魔法省へ……」

「まあ待ってよ。相手は勇者だし、アーウィナを連れ戻そうとしたら殺されるかもされないわよ?」

「だからって、引き下がるわけには……」

「こういうときは年の功よ。まずは魔法学校に行って校長に相談してみたらどうかしら? なにか良い方法を考えてくれると思うわよ」

「そ、そうだな」


 焦って殺されたりしたら元も子もない。まずは校長に相談というミスティラの考えに従うことにした。


 前回と同じくミスティラの魔法で空を飛んで魔法学校へ向かう。

 そして魔法学校に到着し、校長と会った。


「……ふむ。なるほどのう」


 起こった事態を話すと、校長はうんと頷く。


「まったくあの勇者め、とんでもない悪たれじゃ」

「シェラナに逃げられてアーウィナが必要になったとか言ってましたけど、どういうことなんでしょうか?」

「女癖の悪さにシェラナが愛想を尽かして屋敷を出て行ったことを世間が知って、あの男の評判が落ちてのう。アーウィナの記憶消去魔法を使って、世間から自分の悪評を消そうとでも考えておるんじゃろう」

「アーウィナはそんなことに利用されるために……。じゃあ結婚しようとかアーウィナに言ったのも……」

「うむ。アーウィナを利用するためじゃろう。シェラナと違ってアーウィナは勇者という存在に心酔しておるからの。シェラナのように愛想を尽かして出て行ったりはせんじゃろうし、利用しやすいと考えたのじゃろうな」

「け、けどアーウィナはあいつから結婚しようって言われたときは断ってくれたんです。心酔しているなんて……」

「それだけお前さんのことを想っていたということじゃ」

「……っ」


 アーウィナがそんなにも俺へ想いを寄せてくれていたなんて……。

 もっと早くそのことに気付いて想いに答えていれば。


 後悔の念に苛まれた俺の胸は張り裂けるように痛んだ。


「早くアーウィナに会って誤解を解かなきゃ……。シャルノア校長、アーウィナを勇者から離して安全に連れ戻す良い知恵はありませんか?」

「ふぅむ……。あるにはある」

「ど、どうすればいいんですか?」

「お前とアーウィナが向こうの世界へ帰ったあと、世界と世界を繋ぐ道を閉じてしまうことじゃな」

「えっ? け、けどそんなことしたら……」

「アーウィナは二度とこちらの世界へは戻って来れなくなる。しかしそうでもしない限り、あの勇者はアーウィナを追って行くじゃろう。そして邪魔なお前を殺すかもしれん」

「……」


 アーウィナを連れ戻したい。しかしそうするにはアーウィナがこちらへ戻って来れなくしなければならない。


 この世界はアーウィナにとって故郷だ。戻れなくしてしまうなんて、そんなこと……。


「そうなってもよいか、アーウィナに確かめる必要があるのう。しかしもしも嫌だとアーウィナが言ったら、お前はどうするつもりじゃ?」

「お、俺は……」


 アーウィナと一緒にいたい。想いを伝えてちゃんとした恋人同士になりたい。

 しかしそれにはアーウィナが故郷を捨てなければならないのだ。嫌だと言われたら、俺が諦めて引き下がるしかなかった。


「いじわるな問いじゃったな。まあ、ともかく少しのあいだだけでも、あの勇者からアーウィナを引き離すんじゃ。そのときに意思を確かめて、アーウィナがよいと言うなら、お前たちが向こうの世界へ行ってすぐにわしが道を閉じよう」

「は、はい」


 俺はとりあえず返事をすることしかできなかった。


「ではギルベルトの魔法省に行くとしようかの。まずは様子を確かめんと勇者と引き離す方法も思いつかん」


 と、俺たちは校長の転移魔法で、ギルベルト王国へと移動した。


 ――――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 世界と世界を繋ぐ扉を閉じてしまう。

 これはアーウィナにとって辛い選択になりますね。


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回は魔法省へやって来るも、勇者に邪魔をされ……。

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