第44話 牢屋でアーウィナと再会

 そして魔法省へやって来る。


「おお、これはシャルノア校長先生ではありませんか」


 入り口から中へ入ると、受け付けらしいカウンターに座っている男性が校長へ声をかけてきた。


「うむ。勇者はおるかの?」

「勇者様でしたら……」


 男性が俺たちのうしろへ目をやる。

 振り返ると、そこに勇者清正が立っていた。


「あの子供の姉を助けることができたようだね」

「ああ。約束通りアーウィナと会わせてもらうぞ」

「はははっ。いや、それはできないよ」

「約束を破るのか?」

「アーウィナはもうここにいない。国王のもとへ行ったよ」

「国王のもとへ? じゃあ俺たちも……」

「それは無理だ」

「無理って……」


 と、そのとき入り口の扉から兵士たちが流れ込んで来る。


「ヴィルダーク伯爵の家に押し入って伯爵を暴行した罪で貴様らを連行するっ!」

「えっ? ぼ、暴行って……」

「心当たりはあるだろう? ついさっきのことだ」

「あれはあの子の姉を助けただけだ」

「貴族に暴行したことは事実だ。逮捕は当然だと思うけど?」


 清正はニヤニヤと笑いながらそう言う。


 最初からこうすることが目的だったのだろう。

 兵士がやたら早くここへ来たのも、こいつが呼んでいたからだと思う。


「校長、ここは転移魔法で……」

「させないよ」

「……っ」

「えっ? こ、校長」


 勇者の目が光った瞬間、校長は顔をしかめた。


「しまった。魔法封じをかけられた」

「ま、魔法封じ?」

「勇者だけが使える特別な能力さ。さ、連れて行っていいよ。魔法学校の校長とは言え、罪人は罪人だからね」

「はっ」


 そのまま俺たちは兵士に連行されることになってしまった。



 ……



 ……牢屋に入れられて1日経つ。


「校長、いつになったらここから出られるんでしょうか?」

「まあそのうちじゃな」


 そのうちっていつだろう?


 こんなことはしていられない。

 早くアーウィナに会わなければ……。


 校長の魔封じは効果が切れたものの、今度は魔法封じの首輪というのをつけられてしまって転移魔法は使えない。出られるのはいつになるかわからなかった。


「あ、こ、これはアーウィナ様っ!?」

「えっ?」


 牢屋を警護する兵士の声を聞いて、俺は鉄格子から外を眺める。

 そして視界に入ったのは、アーウィナの姿だった。


「アーウィナっ!」

「満明さんっ!」


 こちらへ駆け寄って来たアーウィナと手を取り合う。


「ど、どうしてここに?」

「魔法省の方に聞いたんです。シャルノア校長先生と若い魔法使い、それと変わった服装の男性が兵士に連行されたって」

「それで……」

「けど満明さんはどうして……?」

「君を連れ戻しにだよ。君は誤解している。伊織は勇者の魔法で君の姿に変えれらていたんだ。それで俺……」

「そうだったんですね」


 俺の言葉を聞いてアーウィナはホッとしたように微笑む。


「なにか変だとは思っていたんです。冷静になれば魔法の痕跡に気付くことだってできたでしょうに……。けど、夜のこともありましたし、つい感情的になってこちらへ戻って来てしまいました。用を済ませたらすぐに帰って満明さんに理由を聞くつもりでしたけど、こんなことになってしまって……」

「えっ? 用って?」

「魔法省の大臣になるというお話を断りに来たんです。打診を無視するのも申し訳ないですし」

「そ、そうだったのか」


 戻って来て大臣になる気かもと思ったのは、どうやら早とちりだったようだ。


「国王様にお願いしてすぐに出してもらいますからね。そうしたら帰りましょう」

「う、うん」


 いつアーウィナと会えるのか? いつここから出られるのか?


 そんな絶望的な状況が一気に解決してホッとする。

 あとはここから出るのを待つだけ……。


「君を帰す気は無いよ」

「あっ」


 そこへあの勇者がやって来る。


「君たち、ちょっと込み入った話があるから外へ出ていてくれるかな?」

「あ、は、はい」


 清正は警備兵を追い出してこちらへと近づく。


「アーウィナ、君は僕と結婚をするんだ。明日にでもね」

「そんなつもりはありません。それにシェラナ様はどうするのですか? 愛しているから結婚の約束をされたのでしょう?」

「彼女は嫉妬深い。他の女の子と仲良くするといちいちうるさいんだ。けど、君ならそんなことはないだろう?」

「わたしだって許しませんよ」

「はあ……。だったらそれで構わないよ。けど結婚はしてもらうよ。シェラナに逃げられたんじゃ、僕のイメージが悪いからね。君は僕とシェラナが恋人同士だった記憶を世界中から消去して僕と結婚する。それでイメージは戻る」

「お断りです」

「だったらそこの男を殺してもいいけど?」


 と、清正は俺へ指を差す。


「僕がその気になればここから一瞬で彼の首を落とすこともできる。君が魔法を使って止める間も無くね」

「く……っ」


 アーウィナの表情が歪む。


 奴の言っていることは本当だろう。

 魔王を討伐するため、一緒に戦ったアーウィナの表情が証明していた。


「君は僕の言う通りにするしかないんだ。わかったかな?」

「……」

「返事は?」

「は、はい……」

「よろしい。ああ、僕の見ていないところで転移魔法を使って向こうの世界へ逃げようとしても無駄だよ。僕が追って来れないように道を閉じる気かもしれないけど、道を開く方法も知っているからね」

「く……っ」


 どうやらこちらの手の内は読まれていたようだ。


「それじゃあ明日の結婚式を楽しみにしているよ。はっはっはっ!」


 高笑いをして清正は去って行った。


「……すいません。満明さんはなんとか向こうの世界へ帰れるようにしますから」

「あ、アーウィナっ! 待ってっ!」


 俺の止める声を背に受けつつ、アーウィナも去って行った。


「アーウィナ……」


 満明さんは向こうの世界へ帰れるように。

 それはつまり、アーウィナは俺と一緒に帰らないということでは……。


「ちょっとどうするの満明? このままじゃアーウィナ、あのクズ勇者と結婚しちゃうわよ?」

「ど、どうするって……」


 どうしたらいいんだ? どうしたら……。


「お前はどうしたいんじゃ? 心のままに話してみよ」

「心のままに……」


 どうしたいか? そんなのは決まっている。


「アーウィナと一緒に帰りたいです」

「だったらそうすればよい」

「けど、そうしたらあの勇者が追って来て、なにをして来るか……」


 道を閉じるという方法を使っても無駄だとわかった。

 あの勇者から逃げる方法が無い以上、アーウィナと一緒に帰って前のように暮らすのは不可能に思えた。


「可能性は低いが、ひとつだけ方法がある」

「えっ? ど、どうすればいいんですか?」

「勇者と戦って倒すことじゃ」

「そ、そんなこと……」

「できるわけないじゃないのっ!」


 俺が言おうとしたことをミスティラが代わりに言う。


「相手は魔王を倒した世界最強の奴よっ! アーウィナだって敵わないわよっ!」

「しかしやらなければ満明の望みは叶わん」

「……」


 シャルノア校長の言っていることはあまりにもムチャだ。

 しかしそうしなければアーウィナを連れ帰っても、もとの生活に戻れないというのも事実であった。


「……わずかでも、勝てる可能性はあるんですか?」

「満明っ」

「0ではない。修業魔法で限界まで鍛えればあるいは……」

「ではお願いします」


 今の俺にアーウィナのいない人生など考えられない。

 アーウィナとともに過ごせないのならば、死んだほうがマシだ。


「ならばまずはここを出んとな」

「なにか方法はありますか?」

「うむ。もうすぐ来るころじゃ」

「来るって……」


 一体なにが……?


「えっ? うわっ!?」


 虚空からカラスが姿を現す。


 驚いた俺はうしろへたたらを踏んで尻もちをついた。


「な、なんでこんなところにカラスが……」

「わしの使い魔じゃ」

「使い魔?」

「うむ。簡単に言えば魔法使いの手下じゃ。簡単な魔法くらいなら使える。わしになにかあったら伝わるようになっておっての。こうして助けに来たんじゃ。」

「な、なるほど」


 いきなり目の前に現れたのは透明化できる魔法でも使っていたのだろう。しかし目の前に突然、現れたので驚いた。


「さすがは校長ね」

「ミスティラ、お前の使い魔は助けに来んのか?」

「あ、あたしの使い魔はその……忙しいのよ」

「どうせ使い魔の教育をしっかりやっておらんのじゃろう。しょうのない奴じゃ」

「うるさいわねっ! それよりも早くここから出ましょうよっ!」

「そうじゃな」


 使い魔のカラスは魔法で牢屋の鍵を開け、同じ魔法で魔封じの首輪にかけられた鍵もはずした。


「よし。これで魔法を使えるのじゃ。とりあえずはここを出て修業魔法でお前を限界まで鍛える。そうしたらあの勇者と戦うのじゃ」

「はいっ!」


 俺が返事をすると、シャルノア校長は頷き、そして転移魔法で移動をした。


 ――――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 アーウィナの満明君への想いは変わらず。

 しかし勇者は無理やりにでもアーウィナと結婚をするつもりのようですね……。


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 よろしくお願いいたします。


 次回、結婚式に乱入

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